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イースト・ヤードの魔法使い  作者: さびお
ゆりかごの夢編
32/37

32 帝国の事情

夫が出張中でワンオペ育児が続いております。。

すっかり1日置き更新になってしまった1週間でした(;_;)

手巾に頭巾、襟元と袖口に裾回り。

着替えも碌にしていないようで、色褪せ草臥れてはいるが、男の着ているものには丁寧な刺繍で複雑な文様が刺し込まれていた。

それは、とても1日やそこらで出来るものではない仕上がりで、作り手が着る者のことを考えて刺したに違いない、素晴らしい仕上がりだった。

ところどころには木や石を磨いて作ったビーズが編み込まれ模様の一部になっている。


「奥さまはサーミの街のご出身でした?」


刺繍の(パターン)に見覚えがあった。

つい昨日、貸してもらって着用した北方サーミの民の伝統的な防寒着に施されていた数々の装飾を思い出す。

此方は随分と主張が控えめだが、源流は同じものな気がする。


「そう、だ。サラは、ユドルネルの街の、娘」


ユドルネルはラップランド北部の北極圏よりにある町で、北方地域(ラップランド)の中心ともいえる大きな街だ。

北極線上に存在するため、冬至を中心に真冬は太陽が昇らない極夜となり、夏至を中心に真夏は太陽が沈まない白夜となる。


「我々、が、初めて、暮らした街。そこの娘」


帝国から渡ってきたとき、と男が小さく付け加えた。

そうか。亡命してきた異国人を、難民として受け入れるにはある程度の規模の街じゃないと難しい。


「いまでこそ、北方民族協定で同じルーツを持つ地域間は国を越えて行き来することができるようになりましたが、一昔前は重罪でしたからね。

それに、いまだに帝国周辺の町村では連れ戻される可能性がないとは言い切れないので」


入口から案内してくれた警ら隊の男がこっそりと教えてくれた。

純たる帝国人を優遇している東の隣国である帝国では、土着の民や少数民族への差別意識が強い。

そのため、少数民族の文化や思想を否定し長らく同和政策をとってきたのだ。

帝国領内の少数民族の言語と文化の多くはこれによって大部分が失われてしまった。


北方民族協定によって、同じ民族間の移住や越境が認められるようになると、帝国内に居住していた土着の民や少数民族が、どんどん他国へ渡っていった。

人のいなくなった土地は荒れ細る。

伝統的な海獣猟や漁業の担い手も極端に減ったことで、自国内の供給すら間に合わなくなってしまう。

需要と供給のバランスが崩れてしまった帝国内では 中央に住む民すら食うに困る有様なのだそうだ。

今でも変わらぬ贅を持つのは、一部の貴族と政府の高官のみと聞く。


はっきりとしないのは、帝国政府が人口と情報の流出を手っ取り早く止めるべく、鎖国政策を取ったからである。

以降ベールに包まれた帝国内では、徹底した情報と思想の統制がとられ、純粋な帝国人優生思想のもと、国外に移住したかつて帝国領内に居住していた少数民族を秘密裏に他国から連れ戻している‥というまことしやかな噂がささやかれている。


「単なる噂として片付かない程度には穏やかじゃない話だから、我々がここにいて、この街に営所が敷かれているんだろう」


最後に部屋の前で待機していた、警ら隊の所長が話を引き継いだ。


「この詰め所の少し先にある海岸で、船が盗まれたり漁師が拐かされる事件が度々起こっております。海賊バイキングも発生する海なので全てとは言わないが・・・帝国の仕業と考えて警戒にあたっています」



・・そのうちの何割かは人でないものの仕業だったりして。

ヨリは、そのうち調査依頼が来るかもしれないなと思ったことは、心のなかにしまっておいた。

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