24 オリヴィエルの夜
どれくらいの間そうしていたのかはわからない。
気がついたらそこにいた。
僕の最初の記憶は、森の中。きらきらしたたくさんの石に周囲を囲まれた中に座っていた。
そこは暑さも寒さも、森のあらゆる危険から僕を守ってくれる安心できる場所だったんだ。
なかでも1番大きくてきれいな石のかたまりに触れていると、とても暖かくて満たされる気持ちになるので、いつも抱き締めて眠っていた。
長い間1人でそこにいたような気がするけど、精霊や小人がいつも遊びにきていたので僕の回りは賑やかだった。精霊は飲み水を、お腹がすいたら小人が持ってきた食べ物を食べた。
石から離れて森の中に遊びに行くこともあって、帰り道がわからなくなることも何度かあった。
けれど、戻りたいと思うと石の目の前に戻ってこれるんだ。不思議だよね。そうして僕はまた安心して、大きくてきれいな石を抱き締めて眠った。
ある日、僕が目を覚ますと、目の前に女の子がいた。
黒い髪で、黒い目をした、僕より大きい女の子。
その子が石に囲まれて眠る僕を覗き込んで言ったんだ。
「あなた、だあれ?どうして私を呼ぶの?」
僕はとってもびっくりした。
だって、精霊でも小人でも森の動物でもないものを見たことなかったんだもの!
『僕、呼んでないよ』
「呼んでたわよ。あなたの呼ぶ声が大きくて、石の声が聴こえなくなっちゃったんだから」
だから先にこっちにきたのよ、と女の子は口を尖らせて言った。
『・・・ごめんね』
なんだか申し訳なくなって謝ると、女の子は別によいと首を振る。
「いいのよ。それに、ここにあったようだから」
そう言って、僕がいつも抱き締めて眠っていた、あの1番きれいな大きい石を拾い上げてそうっと掌に載せた。
「私の『導き石』。見つけたわ」
女の子の掌で、石はいつもよりずっときらきらとしていて、女の子に見つけ出されて石が喜んでいるのだと見ている僕でもわかるくらいだった。
ああ、これから僕はこの石なしで眠るんだなあと寂しく思っていると、唐突に女の子が僕の手を握ったのだ。
「あなたも一緒にいくのよ」
『僕も?どこに?』
「谷よ」
『行っていいの?』
「連れていってってこの石も言っているのよ。あなたの『導き石』でもあるんでしょう?私じゃ切り離せないから、」
オトナにやってもらおうと女の子は言う。
オトナがなにかはわからないけど、女の子とつないだ手は暖かくて心地よくて、柔らかな気持ちが胸の中に広がっていくようで。
僕は女の子と一緒に行くことに決めたのだ。
手をつないで歩き出すと女の子は言った。
「それにしてもあなた、どうして石の言葉を話しているの?」
僕とヨリの出会いの話。
その後、谷に引き取られた僕が人間の言葉を話せるようになるまで、たっぷり2年かかった。
自分の導き石なのかはわからないけど、ヨリの石の塊のなかから少し切り出してペンダントトップにしてもらっている。
これを媒介にこれからノーリッツ先生と話すのだ。
なんだか思い出せないこともあるので、どうやら自分はまたやってしまったらしい。
今日の面談もきっとその事だろう。
(怒られるかなあ)
嫌だなあ・・・。
鏡を見ながら、にこーっと顔を作る。
これで、元気いっぱい話しかければ大抵のことは大丈夫!
よし!っと気合いを入れて、ペンダントに念じ呼び掛ける。
「ノーリッツ先生!こんばんわあ!」