21 木鼠のゆらす綱の先①
隣町の警ら隊の詰め所に、トーマニカ村から逃げてきた人々が保護されているらしい。
アルノルドさんが翌日案内してくれるとのことで、本日の夕礼は解散となった。
カッサンドラが炎の中に消える直前振り返り、オリヴィエルにあとで石を通じて自分を『呼ぶ』よう呼び掛けた。
普段の通信ならば、お互いの導き石を通じて話すことができる。
はーい、と返事を返すとカッサンドラは困った様な笑顔を浮かべて『あとでな』と、今度こそ本当に炎の中に消えていった。
酔いつぶれてしまったご領主の介抱に、領館の従者の人たちが入ってきたり、足元がかなり覚束なくなっている町長さんを、アルノルドさんとモルニックさんが抱えて部屋を連れ出したりと、町長室は人の出入りが増えて騒がしくなった。
気がついたらもう19時を回っている。
窓の外も廊下も真っ暗で、扉を開けると食堂からだろうか。
空腹を刺激する良い匂いが漂ってきた。
「お2人は夕食はどうしますか?よろしければ、こちらで用意しますが」
アルノルドさんが夕食の心配をしてくれる。
食堂は朝以外、昼食時と夕食時に開いているらしい。
庁舎の人間は部署によっては夜勤もある交替制の勤務なので、食堂の開館も彼らに合わせている。
食堂を切り盛りしているのはモルニックさんの奥さんで、夫婦で庁舎の敷地内にある離れに住み込みで働いているそうだ。
お腹もすいていたし魅力的な提案だったけど、宿屋の女将さんが用意してくれているので丁重にお断りした。
ちなみに町長の家は庁舎とは別にあるけど、今日は庁舎の仮眠室に寝かせるらしい。
モルニックさんも離れに帰らず管理人室に泊まり込み、たまに町長さんの様子を見に来ると話していた。
本当に、領主と町長の2人は何のためにここにいるのだろう。
他人事ながら、この2人に治められるキウリの街の今後が心配になってしまう。
ヨリはオリヴィエルと映写機の後片付けをしながら、先ほどアルノルドさんからもらったトーマニカ村の生き残りの人々の資料を見て、何か考え込んでいるようだった。
「ヨリ、大丈夫?」
「え?ああ、大丈夫。ちょっと…気になることがあって。でも明日トーマニカの人たちに会えば解決すると思うから」
様子が気になり声をかける。ヨリがこちらを向いてにっこり笑うのにほっとする。
ヨリが不安だと不安なのだ。
困っていると、オリヴィエルも困る。
いつも笑っていてほしい。ヨリが笑うと安心するのだ。
「さて、片付けもあらかた終ったし、アルノルドさんから明日の資料も受け取ったし。そろそろ帰りましょうか。」
お腹もすいたしね、と片目を瞑るヨリを見て、胸のなかに温かく嬉しい気持ちが広がっていくのを感じ、オリヴィエルは満足する。この嬉しい気持ちを守るためなら、なんでもする。




