2 故郷の話をしよう
毎日シンデレラ更新目指します。
こんにちは、ヨリです。
突然ですが 私の故郷の紹介を、少しばかり。
この世界には人や動物以外にも様々な者たちが存在する。小人や精霊、物に憑いた物霊たち。良いものも悪いものも様々。
彼らの姿を見、言葉を聞き、語り合う。そうした彼らを感じる力を、故郷では「感応力」と呼んでいる。
イースト・ヤードは他の地域より「感応力」の高い人々の多く住む場所だ。
別名「魔法使いの谷」と呼ばれている。
先ずは「みえ」る者。
『視え』手と呼ばれる者は、イースト・ヤードでは珍しくはない。全員に確認したことはないが、イーストヤードに住む殆どの人々が、小人や妖精など、この世界の人以外の住人を見えていて、見えない者でも彼らの存在を感じながら暮らしている。
次に「きけ」る者。
人以外の世界の住人たちの声が聴ける者は『聴き』手と呼ばれ、こちらはぐっと数が減る。これも正確に数えたことはないが、5人に1人くらいか?
一家に1人『聴き』手がいればラッキー!くらいな認識である。
ちなみに、聴き手あるあるに、森で小人が歌っている歌が「ドンジャラホイ」派と「チンカラホイ」派で割れるというものがある。
長老たちの時代から繰り返されている議論で、今だ決着はついていない。
この『聴き』手の中でもごく少数が、人ではないものたちとコミュニケーションを図ることの出来る『語り』手と呼ばれる者だ。
語り手はさらに数が減って、同世代に1人いるかいないかくらいまで珍しくなる。
現在のイースト・ヤードで語り手と呼ばれているのは私を含めて5人。
ヨリは『視え』手であり『語り』手である。
それも、見える・聴こえる範囲はほぼ全てという目利きで、イーストヤードの中でも1・2を争う「感応力」の持ち主だ。
世界に感応する力が大きいほど、良く聴こえ、多くが見える。
今も、雪の中から掘り起こされた案内識の上に座ったり、ぶら下がったりして遊んでいる小人がこちらに手を振っているのが見えるし、過去にこの山道を出入りしていた人々の気配が、そこここに感じられる。
感じられる、のだが…
「随分と、静かねえ」
自然の山々は、本来とても賑やかで騒がしいものだ。
風はそよぎ木々はざわめき、大地は歌う。さらには精霊に小人、もっと漠然とした良いものや悪いもの、動物たちの生きる気配と暮らす物音で大騒ぎなのだ。
自然が強者な土地では精霊の力も強まる。
神秘の森とも呼ばれているここラップランドの様に、厳しい自然と共にある土地では特に顕著なはずだ。
それがこの森には感じられない。
入り口の、あの案内識の周りにいる、人間慣れしたか弱い小人たちよりも大きな気配がまるでしない。
「・・・静かすぎる」
ここでようやく、無口な連れが口を開いた。
否。
無口なのではない。とてもとても不機嫌なだけだ。
オリヴィエル・スー・ロウ。
イースト・ヤードで共に育ち、血の繋がりはないが、あれ?親戚の子だったかな?と考えてしまうくらいには一緒くたに育てられてきた。
オリヴィエルは『視え』るがそれほど聴こえない。
オリヴィエルは『使う』ことが出来るのだ。
イースト・ヤードを含む、フィヨルドに囲まれた一帯はウエストフィールドと呼ばれ、手つかずの自然と天然資源の宝庫である。
特に、鉱石や天然石の切り出しと加工を生業としてきた職人の地でもあり、また数々の「魔法の道具」を輩出してきた土地でもある。
望みを映し出す鏡に、ひとりでに踊る靴、どんな場所も覗き見ることのできる水盆、などなど。
これら魔法の道具が出来上がるには、方法が2つある。
ひとつは、原材料に「力」のある素材を使うこと。
ウエストフィールド全域から採れる鉱石には稀に、とても力のある原石が混ざっていることがある。
強い力をもった原石をあしらって作る道具は、この世に生まれ落ちた瞬間から世界に干渉する力を持つのだ。
もうひとつは、「力」を持つ人間が作ること。
素材が持つ力を引き出すことの出来る者、相性の良い素材を選び掛け合わせることの出来る者、または自分自身の持つ「力」を、注ぎ込むことの出来る者、といろいろあるが、これらが出来る者は皆、『使う』者もしくは『使い』手と呼ばれる。
使い手の多くは、本人の意図するところか否かに関わらず、生み出した物に「力」を注ぐことで『魔法の道具』を作り出す。
「力」は自分の物でも、素材に宿るものでも、周囲にあるものでも何でもありだ。
引き出せる力の強さは、使い手の力の強さである。
オリヴィエルは強力な使い手だった。
幼い頃からこうしたいと「思う」だけで周囲にある力を使うことができたし、オリヴィエルほど強力に人でない諸々を従順に従わせる人間は、イースト・ヤードどころか世界中探してもいないだろう。
加えて、『最強の使い手』というだけでも十分に特別な子供だったが、天はもっと目に見える形での特別仕様を彼に望んだらしい。
オリヴィエルはちょっと見たことないレベルの、大層な美貌の持ち主なのだ。
私、ヨリ・ルゥ・エミルドッタ。
ようやくの自己紹介です。
黒髪黒目、薄い肩に細い手足。
色素が薄く大柄な体格の者の多い北方地域では珍しい毛色ではあるが、ブルネットが全くいないわけではない。
やや乳白色気味の肌色に下膨れの丸顔と、小造りな目鼻立ち。
「愛嬌があって可愛いね」という種類の形容詞が自分に合っていると、ヨリはよく理解していた。
対してオリヴィエルといえば。
白に近い金色の髪に同じ輝きの金の瞳、薔薇色の頬に赤い唇。陶磁器のように白く滑らかな肌は雪の精霊と見紛うほど。髪と同色のふっさふさの睫毛が作り出す陰影は、美術品の彫像のように計算しつくされた絶妙な陰影を作り出している。
同じく空間に存在することが申し訳なくなるほどの完璧な美貌。
・・・の、少年である。
諸事情で正確な年齢がわからないが、自己申告では12歳。
背格好や華奢な体つきから、大きめにサバを読んでいるに違いないとヨリは考えている。
そしてその美貌の美少年が顎のあたりで切り揃えた白金髪の下から、剣呑な目付きであたりを睨みつけて舌打ちしながら言い放った。
「雪の降り方がおかしい。おいヨリ、よく視とけよ。これぜってー、何かいんぞ。」
天使と見間違えるような唇から飛び出すのは悪態ばかり。
口が、悪い。口が。