17 ゆりかごはまるい月の下に③
「木の箱でしょー、ルーペでしょー、穴をあける道具でしょー」
「箱ってどのくらいの大きさ?」
「これくらいかなあ?」
オリヴィエルは両手で、自分の頭くらいのサイズの四角を作って見せた。その手の間をじっと見つめていたアルノルドさんが、「あっ!」と言い残して部屋から出ていく。
そして、数刻の後両手にいくつかの木箱と、おじいさんを連れて戻ってきた。
「いくつか見繕ってきました。そして…こちら、管理人のモルニックさんです」
白くて丸いおじさんがお辞儀した。その腕に袋を抱えている。
「モルニックと申します。坊ちゃんが私のコレクションに用事があるっていうので」
じゃらじゃらじゃらっと机に袋の中身を出した。
「これは文字を読むときに使っております。こっちは書くとき用。これは手作業する時、こっちは部品を組み立てるとき」
大きさも形もさまざまな、数々のルーペ。
「これは屋内作業用で、あっちが屋外作業で。こちらは目につけるタイプで」
…本当に、どんどん出てくる。
大人の掌サイズの大きいものから、眉骨と頬骨で挟み直接目に付ける、モノクルに至るまで多岐に渡る。
うん、これだけあれば充分。
「足りそう?」
ヨリが困ったように聞いてきた。
ここに来る前、うっかり石に触れてしまった際にあふれ出た樹の記憶があんまり良いものではなかったようで、ヨリは自分で記憶を引き出すことを嫌がっている。
ならばとこっそり触れてみても、オリヴィエルに記憶の溢出は起こらなかった。やはり、ヨリでないと駄目なようだ。
であるなら、嫌なことはしなくて済むようになんとかしようではないか。
アルノルドさんに手ごろな箱を一つ借り、カッサンドラのいる暖炉の正面に置いた。
箱の横に出きるだけ大きなルーペが嵌まるように穴を開ける。
穴はカッサンドラがじゅーっとやってくれた。
えっ燃えちゃうんじゃないの?と思ったが、要らない心配だったらしい。さすが大魔女先生。
開けた穴にルーペを嵌め込み固定する。
どのように固定しようか悩んでいたら「ここにレンズを嵌め込みたいのかい?」と意図を組んだモルニックさんが溝を作ってくれた!
管理人になる前のモルニックさんは、大工だったらしい。腰につけたポーチから鑿が出てきて驚いた。
箱の側面には、持ち手つきの小さいルーペが通るような細長い穴を開けていく。(カッサンドラが)
開けた穴にルーペの持ち手を通して、箱の外から動かせるようにするのだ。
最後に、ルーペを嵌め込んだのと反対側の箱の壁に、カッサンドラのもっている『使う人の考えていることが映し出される光源』の、光線が通るだけの大きさの穴を開けてもらう。
ここもモルニックさんが「任せとけ」と請け負ってくれた。手に職があるって格好いいなあ。
谷にも、職人さんがいっぱいいたんだよね。よくみんなの作業場に入り込んで作っているところを見ていた。
一生懸命作っていると、周りにいる精霊や小人も真似して作りたくなったり、手伝いたくなったりしてうずうずし出すんだ。
ヨリの父親のムスタも、色々なものを作っていた。
昔よその土地から谷にやってきたらしくて、他の人が知らないものや持っていないものをこっそり見せてくれたんだ。
あれ、僕どうして谷から出てきたんだっけ?
「さあ、できた」
ぐるぐる考えていると、モルニックさんから声がかかった。箱には人差し指の太さくらいの穴が開いている。穴の断面は丁寧にやすりもかけられていて、滑らかで綺麗だ。
さて、これで準備はできたのだけどうまく行くといいな。
箱の、指サイズの穴の空いている側にヨリの導き石を置き、レンズを壁に向ける。
「ノーリッツ先生、光線をお願い」
『はいよ』
ぺかーっと、炎の中から光が延びる。
光線は、箱の指の先ほどの穴を通り導き石へと当たり、そのまま大きなルーペを通って壁へと向かい、突き当たった壁に大きな映像を映し出していた。
「え?!わー、…ぼやけてる」
ピントが合ってなくて、ぼやけてしまっている。
「これをこーして。机も、もっと壁に近づけられるかな」
アルノルドさんとモルニックさんが、「せーのっ」とかけ声を合わせて、箱を置いている机を動かした。
最後に、箱の側面から出ている小さなルーペの持ち手を動かしながら、ぴったりとピントの合う場所を少しずつ地道に探していく。
慎重にルーペを動かす僕と、机を動かすアルノルドさんとモルニックさん。壁を見ながら指示を出すカッサンドラとヨリ。
誰か忘れてない?
ふと部屋の奥を見ると、やることがなくて酒盛りを始めたご領主のスミス氏とトルニオ町長。
…この2人、なんのためにいるのかな?
子供と作った、スマホプロジェクターの作り方です。
本物は、映像が上下が反転しますがフィクションということでm(_ _)m