13 カナリアはゆりかごの上に③
前話の区切りを間違えて予約投稿してしまいました。
加筆していますので、前話からお読みください。
17時より半刻早い時間に、庁舎についた。
町長室はここの3階にあると、案内してくれる道すがら宿屋の女将が教えてくれた。
木製の大きな扉を開けると、すぐに受付の女性によって応接室に通された。女性は、一旦部屋を出たかと思うとこれまたすぐに男性を連れて戻ってきた。
町長の書記官だという彼に挨拶を受け、ヨリも軽く自己紹介をした。そういえばこの街で名乗りをしたのは初めてだったと思い出す。
(報告が終わったら女将さんにも名前を聞こう。)
先程まで随行してくれていた宿屋の女将は、宿に戻ってしまった。勝手がわからないので、地元の方がいてくれると心強かったし、気っ風がよく豪胆な雰囲気が叔母と似ており話しやすい。
オリヴィエルも同じようで、ここに向かう道すがらあれやこれやと目につくものを質問しまくっていて、女将さんに苦笑されていた。
応接室に入る際、役目は終わったとばかりに受付の女性と共にさっさと部屋を出ようとする後ろ姿に慌てて「ありがとうございましたっ」と声をかけた。
すると、閉まりかけていた扉が止まり、女将が振り向いて尋ねてくれたのだ。
「…夕食は、肉と魚、どちらがいい?」
「お肉!!」
間髪いれずに答えたオリヴィエルに再び苦笑し「わかった」と宿に戻っていった。
町長室に着くと、既に町長とご領主、お付きの人々が揃っていた。
大きなテーブルをはさみ、町長と領主の向かいにヨリとオリヴィエルが案内される。
「この度はご足労いただきありがとうございました。こちらは、領主のエドワルド・ジャッジ・スミスと町長のトルニオ・ユコイネン。私は書記官のアルノルド・ユコイネンです。」
応接室から案内してくれた男性は、町長の息子さんだったのか。紹介を受けた領主と町長と共に、深々と頭を下げてくる。
「お初にお目にかかります。ロッタ・スヴァルトから参りました、ヨリとオリヴィエルです。お世話になります。」
初対面の挨拶を終え、席に着く。
応接セットは低めのローテーブルにローソファだ。テーブルランプが灯され、扉横には大きな暖炉が明々と燃えている。
(設備的にはばっちりな部屋ね!)
部屋を見渡し、一人頷く。
しかし夕礼まで、まだあと20分近くあるのだが。
間が持たない、どうしよう。
「あの、上司が来る前に準備をしたいのですが、空いているお部屋を借りても良いでしょうか?」
「どうぞどうぞ!ご自由にお使いください!・・アルノルド、案内して差し上げなさい。」
実際に準備もあるのだが、無事に空き部屋に逃げ込むことに成功し、ゆるく息を吐きだす。
さて、叔母に『連絡』をとらねば。
夕礼の時間。ヨリ、オリヴィエル、町長、領主、町長の息子の5人は、大きな暖炉の前に佇んでいた。
来るとしたらたぶん、こっちだろう。
オリヴィエルを除いて、他の3名は疑問顔だ。
他のお付きの人々には席を外して頂いている。
各地に起きる諸問題の半分以上が「人ではないもの」の仕業であることは、公然の秘密なのだ。
そのとき、暖炉に燃える炎の中にゆらりと黒い影が浮かび上がった。影は徐々に大きくなる。
あっと思う間もなく、暖炉に巨大な女性の頭部が現れた。
ノーリッツ・カッサンドラ
ヨリの上司であり、親愛なる叔母上である。
彼女は実は、叔母ではなく大叔母なのだが、見た目がおかしいことになるので便宜上「姪」「叔母」ということにしている。
水鏡だったり、水晶だったり、炎術・念術、夕礼の方法はそれぞれだ。
自身の得意な通信手段で各々連絡を取ることになっている。
ヨリも普段は導きを石を通じて連絡しているが、今回は石が使えないので炎を使った炎術を用いることにしてあった。
炎を使う連絡手段は、叔母が昔東方の術者から教わったものらしい。燃え盛る炎に念じることで、希望する場所に自分の姿を現すことができるのだ。
原石を用いた同時投影での会話と違って、炎術は一方が相手の方に「出向く」ことになるので、訪問先の炎の位置情報を正確にわかっていないとならない。
なので先ほどの準備の時に、ランプの炎を使って「ここですよ」とヨリの方からカッサンドラに連絡を入れてある。
カッサンドラの職場の暖炉に『現れ』たヨリを見て、火元は?と聞かれたので、ランプと暖炉があると伝えてはいたが。
やはり暖炉できたか。
カッサンドラは派手好みなのだ。
明々と燃え盛る暖炉に浮かぶ、女の頭部。
なかなかにホラーな光景に、領主も町長も腰を抜かしていた。