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<幕間> 過去の私 ~『フィー』の誕生~


 私は、夢を見ていた。

 それは幼い頃の夢で、周囲の子が私を『異形の者』を見るような目つきで見ている。しかし、幼かった私はその視線には最後まで気づかなかった。


 自分が他人と違うことに気づいたのは、初等科へ入学してからだ。

 私が当たり前のようにできることが、同級生は誰一人としてできなかったのである。

 たとえば、魔法を発動させることは私には呼吸をするのと同じくらい簡単なことなのだが、皆は一つ発動させるのに驚くほど時間がかかる。その間に、私は三つも四つも発動させている……といった具合だ。


 周りの同級生の態度がだんだんと硬化していき嫌がらせを受けるようになったのは、学園へ入学をしてから一か月を過ぎた頃だった。

 元々、社交的ではなかった私は、『辺境』という領地の立地を理由に、王都で頻繁に行われていたお茶会(社交界)には最低限しか参加をしていなかった。そのため、どこの派閥にも属していない私は一匹狼で、格好の獲物だったのだろう。

 私物を隠されるといった子供っぽいものから、物をぶつけられるなどの陰湿なものまで、様々な経験をした。

 私は泣き寝入りをするような可愛らしい性格ではなかったので、やられる度に自身の魔法を磨き、対抗していった。

 物を隠されたら探知魔法で探し出し、制服を汚されたら洗浄魔法で綺麗にし、ケガをさせられたら治癒魔法で治す……等々。

 学園内を移動中に絡まれて嫌味や悪口を言われることが面倒だったので、転移魔法を駆使して極力他人と会わないようにもしていた。


 私が今のように様々な魔法を行使できるようになったのは、ある意味彼らのおかげなのだ。





「ソフィア、学園へ通うことが辛かったら、このまま家にいてもいいのだぞ」


 父が私にそんな話をしてきたのは、長期休暇で久しぶりに領地へ戻ったときだった。


「辛いことなんて、別に何もないわよ。父様がどんな噂を耳にしたかは知らないけど、私なりに楽しくやっているわ」


 これは強がりでも何でもなく、本当の話。

 いろいろな経験を経て学習をした私は、ついに処世術を覚えた。

 自分が持つ人よりも優れた能力は、決して表には出さず隠しておくだけで面倒ごとの半分以上は減った。(ただし、標的が私から別の誰かに代わっただけなのだが)

 代わりに、以前の私と同じような目に遭っている子を見かけたら、こっそり助けることにした。

 これに関してはただの自己満足。見て見ぬふりはできなかった。


「おまえが男に生まれていれば、また違ったかもしれないな……」


 ソフィアが男だったら……私は、これまで父から何度言われたことか。

 貴族同士の足の引っ張り合いのせいで、私の能力が正当に評価されないと彼は憤ってくれた。


「私がソフィアを守ってやるから、安心しなさい。もし、嫁に欲しいと言ってくる奴が現れたら、おまえを任せるに足る人物かどうか私が直々に見極めてやろう。ガハハ!!」


 ドンと大きく胸を叩いた父は、そう言って豪快に笑った。

 見極め方法については何も語らなかったが、大体想像はつく。


(だぶん、アレだろうな……)


 予想が合っていれば、私はいつまで経っても結婚はできないだろうと思う。





 ある日、長すぎる前髪を母から切るように言われた私は、侍女頭のマーガレットへ相談を持ちかけていた。

 「地味な髪色のくせに、目つきが鋭い」とか、「目力が強過ぎる」と難癖を付けてくる同級生たちが煩わしくてわざと伸ばしたままにしていたのだが、別の手段を考えなければならない。

 

 母は変わり者だが箱入りのお嬢様なので、私の学園での話を聞けば悲しむことはわかっていた。だから、父も私もこの件に関しては何も話をしていない。

 事情を知るマーガレットは、「ソフィアお嬢様の綺麗な瞳を隠してしまうのは、勿体ないですね……」と悲しげに呟いたあと口を開いた。


「夫が()()仕事のときは、髪色を染めて変えたり眼鏡を掛けたりして変装をしております。お嬢様も、学園内ではそうされたら如何でしょうか?」


 マーガレットの夫とは、執事のベンゼルフのこと。

 実は、彼は他国から送り込まれてきた元間者で、父に正体を見破られ軍門に下ったというちょっと変わった経歴を持つ人物なのだ。

 私が生まれるずっと昔の話なので、このことを知っているのは父と私、騎士団長と妻のマーガレットのみである。


「変装か……それは、いいかもしれないわね!」


 こんな簡単なことが、なぜ今まで思いつかなかったのだろう。

 私は嬉々としてさっそく準備を始める。

 わざと野暮ったく見えるような眼鏡を探し出し、王都内ではいつも掛けることにした。

 

 長期休暇が終わり新学期が始まったが、地味な髪色にあか抜けない眼鏡を掛け始めた私に興味がなくなったのか、絡んでくる者はいなくなり、学園生活はさらに快適になった。


 そして私は、ついに変身魔法が使えるようになる。

 最初はお試しで髪色だけを変えて学園内を歩いてみたが、同級生は誰も私とは気づかなかった。

 これに気を良くした私は、思い切って瞳の色も変えることにした。

 せっかく変身するのであれば、いっそのこと架空の人物を作ろうと思い立ったのだ。


 姿見に自分を映しながら、髪色と瞳の色を考える。

 万が一にもソフィアと同一人物だと気づかれぬよう、こちらは対照的に派手で目立つ容姿にした方がいいだろう。

 

 組み合わせを変えながら、悩むこと一時間。


「よし、これに決めた!」


 姿見に映っているのは、真っ赤な赤い髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ女性……『フィー』の誕生だった。




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