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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

迷宮管理一族の末裔

作者: あくあ


―――――


ダンジョンとは世界に発生した特異な空間を指し、その中には狂暴なモンスターが溢れ、倒したものに栄誉と財宝を(もたら)す。

在る者は己の強さを極めるために、在る者は一攫千金の財宝を狙い日々ダンジョンに潜り込む、己が野望や夢をそこに求めて。


そこは危険と未知と財宝と栄誉が混在する異質な空間。

冒険者を名乗るならダンジョンとは挑まねばならぬ場所である。


―――――初代迷宮探索ギルドマスター レミアント・ドレッグ



ダンジョンにはモンスターを倒すことで得られる素材。

ダンジョンに生息する動植物から得られる食材や薬草。


それらはダンジョン内で無限に沸き続ける資源として扱われていた。


そしてその素材や素材を利用して作られた武具、食料、薬品を以て発展する街があった。


その名を『ウィザトリア』


嘗ては複数のダンジョンが存在したが富と栄誉を求める多くの冒険者により攻略され、特に完全に攻略をされたダンジョンは活動を停止し自然に消滅していく。


ダンジョンとは自然に発生する場合が殆どではある。

しかし、自然発生したダンジョンであってもある一族が絡むことで管理、運営が可能になる。

この場合、完全攻略されたダンジョンであってもダンジョン自体を再び活性状態にすることができる。


結果としてダンジョンは財源として人々に活用され街や国の発展に大きく貢献することになっていた。


しかしダンジョンにもメリットだけではなくデメリットも存在している。


生きたダンジョンを長期間放置したことによって内部でモンスターが飽和状態となり溢れる迷宮暴走(スタンビート)である。

上層から下層まで生息しているモンスターがダンジョンから解き放たれ近くの人々を、村や街を襲い壊滅的な被害を齎す現象。


存在するダンジョンが多いほどこのリスクは高まりこの危険な状態を回避するためにはダンジョンの実態を常に把握し管理しなければならない。


しかし、幾つかの不運が重なりウィザトリアの街周辺に存在していた複数のダンジョンに於いて同時に迷宮暴走(スタンビート)が発生したことがあった。


『ウィザトリアの悪夢の日(ナイトメア)


その災害から復興した今でも人々の記憶に新しい忌々しい出来事であり、その責任を迷宮管理を行う一族に全て負わせた悪夢の日。


迷宮暴走(スタンビート)が発生したダンジョンが偶然にも全て一族が管理していたダンジョンであったことも責任を負わせる要因となっており、管理を怠ったていた、或いは街を滅ぼすために故意に発生させたなど悪意に満ちた噂が流れ始めた。


事を納めるためにユリエット領の現領主に対して一族を処刑されるか街を追放されるかを迫った。

責任を感じていた一族の長は処刑は自分一人だけにして欲しいと懇願し、他の一族に対してはユリエット領外追放の無期限処分を下した。


これが母親から聞かされた15年前の厄災『ウィザトリアの悪夢の日(ナイトメア)』の全てだった。


「あの頃、貴女はまだ生まれていなかった。

 貴女を宿している事に気が付いたのは街を追放され、この家に落ち着いた後だった。

 街では未だに私達の一族を恨んでいる人達がいる。

 だから街へ行くにしても一族の末裔であることは悟られてはいけない。」


こんなことを物心つく前から良い聞かされ続けていたので街へ行くことに興味はなく、時折訪れる行商人に薬草や薬品を引き換えに食料や生活用品を得ることで暮らしていた。


生前の母はこうも言っていた。


「私達一族の役割は終えたのよ。

 貴女に一族の持つ能力を教えるつもりはない。

 この先、一族の力を再び求められても私は応えるつもりはない。

 

 それでもそれを貴女がそれを望むなら……」


一族がどうやってダンジョンの管理をしていたか、母は一つも教えてくれることはなかった。


この時は何一つ疑問に思っていなかった。


なぜ管理されていたダンジョンにも関わらず当時複数いた一族の人や街の人々が迷宮暴走(スタンビート)を予見出来なかったのか。







――――――父親を名乗る使者が森の中にある家を訪ねてくるまでは。




母が亡くなり数年が経ち、一族の末裔であることすら忘れ薬草の採取や薬品の調合を行っていたある日のこと。

母に言われていたこともあるが街に行く魅力も感じなかったのだ。

その為、人との接点は月1回来る行商人と稀に辺境の森へ訪れる冒険者へ薬を売ることで生計を立てていた。


月一度訪れる行商人のリックに卸すための薬の調合を終えて一息ついていた時、扉がノックされた。


滅多に人が訪れる事がないが、それが皆無というわけでもない。

この時は稀に訪れる冒険者か何かだろうと思っていた。


「はーい、今開けますね」


扉の鍵を外し開放するとそこには壮年の紳士が左手を胸に当て一礼してきた。


「こちらはマリエラ様のお住まいで間違いないでしょうか」


マリエラ……つまり私の母のを訪ねてきたのはどこかのお偉いさんの使者と当たりを付けた。


「……いえ、今は私しか住んでおりません。失礼ですがどちら様でしょうか」


この家を訪ねてくる人は母が亡くなった事を知っている。

可能な範囲で私が引き継いでおり母自身を訪ねてくる人は久しいく減っていた。


「―――そうですか。

 失礼、私はユリエット領 領主に仕えている執事のボルテールと申します。」


その台詞を聞いた瞬間、体は硬直し頭が真っ白になった。

硬直が解け意識を取り戻した私は警戒度を最大に上げ対応することになった。


「ほっほっほ。そんなに警戒せずともよろしいですよ。」


警戒していることが表に出てしまったのか壮年の紳士――ボルテールはそう言うが突然の不意打ちに警戒するなというのが無理な話である。


母に聞かされた話の数々で一番印象に残っているのが領主の対応や街の人々の事。

話をしてくれている時の母は恨んでいるというよりはどことなく寂しげにしていた。

母も亡くなり成長する過程で聞かされた話の数々を反芻する過程で一族を追放した話に自信では分からない怒りを感じる事が多かった。


何故母を始めとする一族が責任を負わされ街を追放されたのか。

今まで記憶の奥底で眠っていた思いが母を追放した領主と聞いて一気に噴き出してきたからである。


「……とりあえず中へどうぞ」




訪ねてきたボルテールを家の中に案内し私はお茶を準備する。


「どうぞ。

 ……それでご用件は。」


「失礼ですが貴女文字は?」


「読み方だけなら生前母に習いました。書くほうは少し自信がありませんが……」


「なら問題ないでしょう。

 これをどうぞ」


そう言って懐から出したのは封蝋がされた封書であった。


「これは母宛てでは……?

 だとしたら――」


「いえ、これは貴女宛てでも在るのです。

 ――――ユリエル様」


名前を呼ばれ再び硬直する。

名乗っていないにも拘らずこの執事を名乗る男は名前を言い当てたのだ。


警戒度が限界を超えて引き上げられ男から離れるように飛びのき、杖を呼び出す。


「何者だ、何で私の名前を知っている!」


混乱が極まり、いま向かい側にいる壮年の執事に意味のない問いかけをしてしまった。

杖を向けられているにも関わらずボルテールは表情を崩さない。


「失礼、貴女に危害を加えるつもりはありません。

 杖もそのままで結構ですので先ずは手紙を読んでいただけないでしょうか」


そう言われ様々な感情で沸騰していた頭が急速に冷めていく。

何も言わず杖を還してからソファーに戻り封蝋を剥がし中身を確認する。




―――――――――――――――


愛しのマリエル


久しく逢えていないが君も娘も元気にしているだろうか。

貴女の元に気軽に行けない私の立場が恨めしい。


父は現役を引退し家督は私が受け継いだ。

つまり私が現領主となった。

長年に渡る追放処分をこの手紙を書いた時点を以て解除することにした。

あの日の悪夢は君達一族だけの責任ではないと証明されたからだ。


あの日の悪夢以降も迷宮暴走(スタンビート)は時折起きており

君達一族を追放してから減るどころか頻度は上がってきている。


完全制圧したダンジョンが増え、数も減ってしまい以前のような賑わいも無くなってきている。


だが君達一族の力を頼ろうとは思わない。


だから一度私の元に帰ってきてくれないだろうか。


君を愛するウィリウム・ユリエットより


―――――――――――――――


手紙の中身を一通り読み中身を理解するのには時間を要した。


手紙から見えてくる母マリエルへの思い。

水滴が手紙にシミを作りだして私が始めて涙を零している事に気が付いた。


「なにこれ――

 なんで、今なの――

 どうしてもっと早く来てくれなかったの――」


別な意味で溢れだした思いに胸がいっぱいになる。

家の中にはユリエルの嗚咽だけが静かに響いた。





「……落ち着きましたかな」


暫く経ち、感情と思考も自分を取り戻したころ対面にいたボルテールが声を掛けてきた。


「まだ色々と追い付いていないところはあるけど。

 私はどうしたらいいの」


「私が旦那様から預かっている言伝は手紙の内容、追放処分の解除。

 そしてマリエル様方が旦那様の元へ帰ってくるかどうかの意思の確認です。」


「そう……」


ユリエルは一瞬考えたが突然の出来事の連続で思考が追い付いていなかった。


「考えを纏める必要もあるでしょう。

 私はこれにて失礼させていだたきます。」


礼をして家から出ていく執事。

納まらぬ頭の混乱に今起きたばかりの出来事を思い出すと混乱は加速した。


「何なの、いったいどうなってるの、お母さん……」


結果、ユリエルは知恵熱で二日間ほど寝台の住人となるのだった。

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