ディープキス
今思えば俺は使い捨ての食器や歯ブラシみたいなもんだったんだなと沁沁思う。そのスケはサテンの黒のドレスに身を包み流し目で俺の方を見ていた。安場には不釣り合いな上玉のスケで煙草に火を点けて徐に煙を吐き出すとバーテンを呼び寄せた。俺の方を見ながらコソコソと耳打ちした。すかさず俺の前にジャックダニエルのソーダ割のグラスが置かれバーテンが言った。「あちらの女性からです。もし、宜しければ少しお話しませんかとの事です」あんな上玉のスケが俺に?俺は喜び勇んでグラスを持ってスケの隣に座った。スケは単刀直入に切り出してきた。「あたし、まどろっこしいのは苦手なの。この後、空いてるかしら?」俺は願ったり叶ったりで狂喜乱舞でスケとバーを後にしてモーテルにしけ込んだ。スケは我慢出来ないといった様子で部屋の扉を閉めるなり直様、俺にディープキスをしてきた。スケの舌が俺の舌に絡み付き、もの凄い吸引力で舌を吸ってくる。まるで、肌に張り付いた蛭が吸血するかのように。すると、スケの口がキラウエアの噴火口のようにパックリ広がり、ブラックホールが有らゆる物を呑み込むように俺を丸呑みにした。大蛇が豚一頭を丸呑みするかのように。俺はスケがこんなにまでも俺を欲していたんだなと嬉しく思った。スケは俺を誤嚥したらしく俺はまず肺に入った。スケの肺はヘヴィースモーカーも祟ってかコールタールにでも漬けられたのかのように真っ黒だった。隅に目をやると高層ビルなどの窓の清掃する器具が立て掛けられてあった。俺はスケにあんな情熱的で刺激的なディープキスなんてされた事なんて無かったし、かなり機嫌を良くしていた。俺は、その清掃器具を手に取り肺の壁に付着しているタールやらスモッグを刮ぎ落とした。肺は、可憐な少女の乳首のようにピンクになっていた。除去したゴミを袋に詰め終えるとスケは誤嚥に気付いたらしく人間ポンプのように嚥下まで俺を戻した。そして、また胃袋に丸呑みした。胃の中は比較的にそんなに荒れていなかったがポリープが3つばかし見つかった。俺はそれを鋏でちょん切りマーキュロクロムをちょちょいとコーティングしておいてやった。俺は肺の件といい、胃のポリープといい、不健康そうなこのスケの事を気遣って内臓を見て回った。心臓には血液がドロドロしていたようなのでコーヒー用のフィルターみたいなもんで血中コレステロールを濾過出来るようにしてやった。膵臓にはインスリンの補充液を車のバッテリーに補充する要領で補充しておいてやった。同じく肝臓にも膵臓同様に肝酵素を補充しておいてやった。胆嚢には胆石が出来ていたのでつるはしで微塵に粉砕しておいた。腎臓は尿酸値が高いみたいなので水で薄めておいてやった。最後の難関は大腸だ。スケの大腸の入り口部分にはこれ見よがしに高圧洗浄機が立て掛けられていた。俺は大腸の内壁を糞塗れになりながら丁寧に洗浄していき、見つかった5つのポリープもちょん切って胃と同様にマーキュロクロムをちょちょいとコーティングしておいてやった。俺は糞塗れの顔を手の甲で拭いながら心地よい達成感に包まれ肛門に到達した。すると、ギュルルルルと大地を揺るがすような凄まじい轟音とともにスケの顔が苦悶の表情に歪み、トイレに駆け込んだ。あの上玉のスケがと思わせるような凄まじい放屁音とともに俺は糞とともに放り出された。俺は糞尿のプールにプカプカと浮かびながらスケが俺を引き上げてくれて温かい風呂でやさしく俺に付いた汚物を洗い落とし愛撫してくれるものと思った。俺がスケの体内で甲斐甲斐しくしてやったように。スケは便座から立ち上がりパンツを上げると俺の方を見向きもせずにレバーに手を掛けた。はっ、このスケは俺の店の看板を見て俺に狙いを定めていやがったんだ。俺の店の看板にはこう記してある。〈便利屋 清掃から修繕まで何でもやります 困った時はピーターにお任せを〉タンクから津波のように襲ってくる水の大群。流されていく俺。今、俺は下水の中を彷徨っている。あのディープキスから始まり今、俺は糞と尿が入り交じった果てしなく長い水路に深く深く沈もうとしている…