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使えないのは本当に使い道が無い場合

 記録票を見てはため息をつき、トボトボ歩く。そして再び記録表を見る。それを繰り返しながらアルバート商会の近くまで戻ってきた。


 水晶球で”収納力:0”の表示が出た後、様々な物の収納を試してみた。最初は展開するのもなかなかうまくいかなかったが、終わるころにはそれなりの速度で展開することが出来た。だが、どんなに展開しても僕の収納に何かが収納されることはなかった。


 教会からの道をどう帰ったのかよく覚えていない。気が付いたら商会の近くまで戻って来ていた。昼に近い為か、昼食用の材料を求める人で商会はごった返している。アルバート商会は穀物を扱っていて、王都の人々に麦、ライ麦を売っていた。

 その人ごみの中から見覚えのある金髪の少年が近づいて来た。


「お帰り、ニコラ。で、どうだった?良かったか?良くなかったのか?」


 この金髪の少年はミハイル。近所の武器屋の息子で好奇心旺盛だ。ミハイルは自分も三日前にギフトの授与の洗礼を受けた為、二コラがどの様なギフトを貰ったのか興味津々の様だった。


「俺は、“剛腕”のギフトだったけど、二コラはどんなギフトかと思ってね。」


 ミハイルが授与されたギフトは“剛腕”、能力は腕力を上げる。単純な能力だけど、その分効果は高い。使い込めばさらに効果が上昇する。


「で?で?で?」


 ミハイルが顔を近づけ詰め寄って来る。


「あ~!ミハイルが仕事をサボってる!!」


 黒髪の少女が僕たちを指さし大声を上げ駆け寄ってきた。いつの間にかアルバートさんの娘のジュリエット(ジュリア)がやって来ていたみたいだ。


「ちょっと二コラ。帰ってきたら、お父様のところ行かないと!!」


 ジュリアは僕の腕に手を回し引っ張る。


「ちょっと待てよ!二コラは俺と話をしてるんだぞ!」


「あら、ミハイル。ここは年上のいう事を聞くべきでなくって?」


「年上っても一つしか違わないだろ!!俺は二コラの一番の友人としてギフトの事をだなァ・・・」


「あら、二コラは私の家の者。まずにお父様に報告すべきなのです!」


 ジュリアは僕の腕を引っ張りながら胸に片手を当てドヤ顔で答える。とは言え、ジュリアの言う通りアルバートさんに報告しなければならないのは事実だから仕方がない。


「ごめんミハイル。アルバートさんへ最初に報告しないと。」


「ちぇ。仕方ない。後で絶対に教えてくれよ。」


「ああ、判った。約束するよ。」


「絶対だぞー!」


 ミハイルは手を振りならがそう言うと自分の家に帰って行った。ジュリアは僕の手を引き店の勝手口から中へ入る。

 勝手口から入るとルルさんが倉庫では今日入荷されたライ麦の袋を確認しているのが見えた。ルルさんは恰幅の良いおばさんで、アルバート商会の倉庫や店舗部分を一手に引き受けている。今日も朝から棚卸しを行なっていたはずだ。


「ルルさん、ただいま。」


「おかえり、ニコラ。アルバートの旦那は奥の部屋だよ。」


 僕とジュリアはルルさん挨拶すると奥の部屋へ向かう。


「いいこと、ニコラ。」


 アルバートさんの部屋の扉の前でジュリアが話しかけてきた。


「たとえ、変なギフトで役に立たなくても、この私が貴方の面倒をみて差し上げますわ!」


 ジュリアがそう宣言すると同時に扉が開く。そこにはアルバートさんが笑顔で立っていた。僕たちがやってきたことに気が付いていたみたいだ。


「おや?ジュリア。ニコラ君をお婿さんにする宣言かい?」


「ちが・・・わないけど・・・」


ジュリアは顔を真っ赤にしてもごもご言っている。


「ともかく二人とも、お入り。話を聞こう。」


---------------------


「・・・と言うわけで、僕のギフトは空間収納でした。でも、僕の空間収納には何も入りません。」


 僕は少し顔を伏せてアルバートさんに報告した。アルバートさんはギフトの記録票をじっと見て写しを取っている。


「空間収納ですか・・・良いギフトですね。」


「でも、何も入らないんです。これじゃあ役に立たない・・・。」


「ニコラ君。ギフトは貰ったばかりなのだろう?他の使い道を考えてみたかい?」


 僕はアルバートさんに言われてハッとした。


 ギフトは貰ったばかりなのだ。使えないと決めつけて他の使い道を考えていなかった。


「いいかい、ニコラ君。使えないと言うのは、本当に使い道が無いと判った時に言うべきことなのだよ。」


―――――――――――――――――――――


 二コラ達が部屋を出た後、アルバートはニコラのギフト記録票の写しを見ながら考えていた。


「アルバート様、お茶が入りました。」


 執事のナイアルがアルバートにお茶を差し出す。ナイアルは古くからアルバートに仕えている老齢の男だ。口元にひげが蓄えられ白髪は短くカットされた老執事である。


「どうしましたか?アルバート様。」


 悩みつつも少し楽しげな姿をしているアルバートを不思議に思った様だ。


「そうだね・・・ナイアル、ニコラ君のギフトの写しを見たまえ。」


ナイアルは差し出されたギフトの写しに目を通す。


「ギフト、空間収納!・・・・・収納力ゼロ?こんな事があり得るのでしょうか?しかしこれでは・・・。」


「収納力だけを見ると、そう考えるのも無理もない。だが、ギフトの効果時間や効果範囲の記述は目を見張るものがある。そしてこれらの事全て、ギフトを授与された日に確認された事なのだよ。」


「ギフトを授与された日のうちに全て調べることが出来たのですか!」


「私でも全部調べるのに三日はかかった。ニコラ君は大変筋がいい。彼ならきっと別の使い道を考えるだろう。」


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