ギフト授与の洗礼
王都やその周辺の村に住む子供は十歳になるとギフト授与の洗礼を受ける。ギフトを授与する教会は王都の西側、商業区画の近くにあった。建物自体かなり古くからある物で25年前の動乱の際の火災から免れた建物の一つだ。
大きい窓がいくつもある為か、外の壁に支柱が幾つか飛び出して作られている教会の中には柱が立ち並び上部がアーチ状に繋がっていてその天井は高い。中央部の通路には長い敷物が敷かれ、両脇には長椅子が並ぶ。通路の先には祭壇がありその上には今日の洗礼に使う魔道具が置かれていた。
洗礼に使う魔道具は大きな水晶球と小さな水晶球それとペンが組み合わさった形をしている。
今日のギフトの授与の洗礼を受けるのは僕一人だ。普段、多い時でも六人くらい、全くいない日もあるらしい。牧師であるルイスさんが魔道具の前に立ちギフト授与の準備をしていた。
「では、二コラ君。小さい方の水晶球に手を置いて。」
僕はルイスさんが言う通り小さい水晶球に手を当てた。水晶球に手を当てると淡く輝き、大きな水晶球の方へその淡い光が流れて行く。淡い光は大きな水晶球で渦巻くと徐々に文字の形になっていった。その文字をルイスさんが目に留める。
「ニコラのギフトは”空間収納”である。」
「空間収納!!」
牧師であるルイスさんの声を聞いたとき、僕は思わず声を上げ、赤茶色いくせ毛を揺らした。
空間収納のギフトは商人の元で働くにあたって有利なギフトである。体一つで大量の物を運ぶことができる”空間収納”は商人にとって垂涎のギフトなのだ。商人にとって有用なギフトをと思っていたので、非常に有用なギフトが得られるという事で思わず声を上げてしまった。
「おお、そう言えば二コラくんはアルバート商会の徒弟だったね。神は良いギフトを君に与えて下さったようだ。神に祈りを。」
僕はルイスさんと一緒に神に祈りをささげた。神の使徒とも言えるルイスさんらしい。
「次は、ギフトについてもっと詳しく調べるよ。調べている間は水晶球から手を離さないようにね。」
ルイスさんが魔道具を何やら操作すると、再び手を当てた小さな水晶球に淡い光が宿る。淡い光は先ほどと同じ様に大きな水晶球の方へ流れ渦巻き文字の形になっていった。文字は空間収納のギフトについて詳しい内容が書かれている。
「じやあ、二コラ君こちらへ来て。一つひとつ確認して行こう。」
いつもなら簡単に確認するだけらしいが、今日は僕一人しかいない。水晶球に映し出された内容をルイスさんと僕は一つひとつ丁寧に確認してゆく。
“収納対象:全て”
「素晴らしい。収納対象が“全て”と言うのはあらゆるものが収納できるという事だよ。“生物以外”と言う表記があった場合、摘みたての薬草は入らないからね。」
「“生物以外”では薬草は入らないのですか?」
「植物と言われる草や木も生きているからね。生き物に該当する。川の水も入らない場合があるから“生物以外“という分類は不明な所が多いのだよ。」
「川の水が……。」
「でも、ニコラ君の場合“全て”だから悩む必要は無いのだけどね。」
それを聞いて僕は一安心した。ギフトで収納できない物があった場合、扱う商品を考えなければならないからだ。その点、収納対象を選ばないのは非常に有用だと言えた。
“効果範囲:中(訓練により拡大可、失敗可)”
「ふむ、“効果範囲:中”いう事はかなり大きなものも収納できるという事ですね。大ならこの部屋ぐらいでしょうか?」
「ルイスさん、“訓練により拡大可、失敗可”と言うのは?」
「これはギフトによる訓練、ギフトを使おうとすることで訓練になるという意味だよ。失敗であっても訓練になる。普通は成功しないとギフトの訓練にならないからね。」
「失敗でも訓練になるという事は、“効果範囲”を上げやすいという事でしょうか?」
「そうだね。失敗だと訓練の度合いは小さいことが判っていますが、この文言がある場合のギフトの訓練は二割ぐらいの効果があるとなっています。」
“効果時間:制限無し”
「時々あるのですが、空間収納で収納できる時間が決まっている物もあります。短いので1時間でした。でも、二コラ君の場合“制限無し”ですので時間の制限はありません。」
“時間制限”は僕がルイスさんの解説で初めて知った事だ。収納のギフトで時間制限が1時間だと使い道が限られてしまう。時間制限がある場合、村から村へ移動することはほぼ不可能だろう。
“時間経過:無し”
「驚いた。ここまで有用な能力が表示されるとそろそろマイナス面が出ても良いころなのだが、これも破格の性能だよ。“時間経過:無し”は収納された物は時間経過で劣化しない。何時でも新鮮な物が取り出せるのだよ。」
時間経過は通常でも使い勝手は良いらしい、中には“時間経過:加速(1時間=1年)”と言う空間収納のギフトもある。ルイスさんが言うにはそのギフトを持っている人は酒屋になっているそうだ。どんな能力でも使い方次第であるという事だろうか?
「さて、最後が……。」
“収納力:0”
と、水晶球に表示されていた。