始まりと天敵
家族のPCを借りてちまちま書いているので・・・かなり不定期になります
愛子に聖女の能力を発動できるようにする教育が始まり3日。
俺と愛子はとある場所に来ていた。
「にしてもやっぱり薄気味悪いな、此処」
辺りを見回しながらそう呟く。苔が生えた天井・ひび割れた壁・血に濡れた謎の白骨。まるで人喰らいが住む洞窟のような気がする。そして所々にある松明がそれを醸し出している。
「と言う事はここは異世界の?」
「ああ。俺たちテンスが勇者として召喚された異世界『グルカルト』を模して造られたのだろうAWOの世界そもそもが」
「!!じゃあ会長やリョーさんのアレは?」
「御名答。異世界の能力だ。っと 弓技 微風弾」
発見から進化した看破スキル・・・ではなくマナや魔力の流れを感じ取ってMOBが居るとされる位置に矢を放つ。
「―――セイント・バレット オクタ フャイヤ」
その聖女の攻撃系魔法の弾丸を容赦なく撃ち込む。そしてその位置に居たMOBが消える。ログを確認するとリッチだった。うん、ここでは良くいるMOBだ。気にする必要はない。
「・・・次第点だな。なるべく ファイヤは無くした方が良い」
「はい!!・・・でも難しくないですか?」
「イメージの方が丁度いいのかもな。今度はアロー系で」
となるべく相手に攻撃のタイミングを悟らせない様にする訓練もかねてここで戦闘を繰り返している。人に見つかりたくないしなにより
「トランスファー」
「ファファッ・・・助かります」
つい3日前に強引に聖気を使えるようにしたので愛子の聖気保有量は少ない。そしてこの譲渡能力トランスファーは相手の何処かに触れている必要がある。そして皮膚が薄くなるべく心臓に近い部分の方が聖気の拡張にもつながるので服に手を入れて背中から流し込む。これがあるが故に二人で確実にテンスのメンバーさえもこないようなこの迷宮を選んだ。
「にしてもコレ本当に疲れるんですよね・・・」
「まあ・・・アレをすれば出来なくはないのだろうけどなぁ~」
「アレ?」
「基本的にはしたくないんだよな」
「?」
と何かに気付いたかのように顔が赤くなるアイ。いやいやソッチじゃないから。
「・・・俺の遺伝子や血を愛子の肉体に取り込ませるってヤツで」
「!!」
「・・・純粋な風の戦巫女のほうが良いだろうしな。そもそも死にかけの連中にしかやったこと無いし・・・凄い激痛が走るらしいしな」
何せ施術中に跳び起きたもんな・・・麻酔も意味がないみたいだし。文字どうりに肉体に食い込ますことでやっている所為か?
「・・・止めとくか・・・最初の一回はともかく二回目以降は治がうつる」
今の愛子の聖気は何も染まっていない真っ白なキャンパスだ。俺やミミアの治の聖気が定着してしまうと愛子の聖気も治になる。それだけは避けるべきだ。
「!!コレは!?」
神を喰らう最強の矛だと!!
「おい!!どう言う事だ!!主任」
「どういうって・・・こういう?」
男の怒声に対して反応した声はとても醒めている。
「何故メディアにあんなことを!!」
「クレームがうざいんだよ。亮哉の摸法能力は天性のもだし理論上は誰でもできるAWOでチートは起きない。というか魂をアバターと言う仮初の肉体に入れ込んでいる以上不可能が正しい。個人の努力不足を棚に上げられたら後に困る」
「でもそれはプレイヤーリョーに確認を取るべきでは?」
「関係ないさ・・・それに彼くらいさ・・・ステータスを完全に把握して使いこなしているのは」
「?ステータスは全プレイヤーさほど変わっていないはずです」
「まあ亮哉以外はよくて9割弱・・・ひどくても8割・・・これがトッププレイヤーのステータスの力を引き出せている割合だ。まあテンスや能力持ちは例外としてでも他の連中は最高が6割4分弱コイツが文句を言うのなら教えなくもないがクレームは4割程度しか引き出せていない取りあう気もないさ」
冷めた声の男がとあるグラフを出現させながら言う。
「・・・言いたくはないが此処にいる連中はほぼ宗教に縋っているわけじゃないからいいか・・・。ステータスなんて与えられた概念で如何こうしようとしているから弱いんだよ・・・亮哉は神を殺す為に概念を超えた・・・その覚悟は例え死のうとも何らかの形で成し遂げるという執念のようなものだ。その上位の法は破れなかったがそれをしようともしていない弱者にアイツを罵る資格はない」
そう憤怒する彼の周りには5本の剣が浮んでいた。
「グロウだと!!??」
「グロウ?」
「神の力さえも喰う製造者・素材・製造時期一切不明の短剣。それはエクスカリバーやグラムなんて比じゃない位に強い。まあ理を超えた存在しか使えないけど」
現に俺以外の誰も使えなかった。というか反発されて手に取る事さえも出来なかった。グラムやエクスカリバーは握れば強靭的なステータス任せで力の一端程度なら使えたのだがグロウのみは例外だ。俺以外の誰の手にも渡らなかった。
例え血肉を与えその一部を使いこなせる魔術の勇者であろうと義理とはいえ兄妹である心理の冥婦であろうと・・・彼が愛している妖精女王だろうと。
この気配は間違いない・・・いや不味いな・・・。
「アイ・・・先に行け!!苦戦するだろうが・・・俺は少し殺る」
「ええっ?」
「エンチャント ALL 聖女の祈り 勇者の加護」
矢継ぎ早でアイに全スタータスUPの能力を使う。
「来いデニュニル・・・玖龍剛災」
マジカルソードメイダーのPVP際に電脳世界で具現化に成功した神杖 デニュニルをこのAWOでも召喚する。そして放つは最大級全属魔道『玖龍剛災』。九つの龍が混じり合いながら前方を焼き尽す。
「さて戦争と行きますか視る種族【ゲルオニス】」
そして俺の天敵さん。ここは彼女のためにも絶対に通さない。
「上手く誘い込んだか彼女を」
『主任何を?』
「いやあの世界に放棄された神器を回収させに行くだなんてなぁ」
『?何ですかそれは・・・』
「俺を倒せるかな神喰らいと龍臓で」
「気付くか万物」
「当たり前だ。ミミアの時の様に見殺しになんてしてたまるか」
すっと抑揚のない特徴的な声がする。ゲルオニス族特有の声。かの使命に使える種族はグルカルトで治の聖女を殺しその報復で万物の勇者に全滅させられた種族。もちろんこれも彼が作ったのだろう。
「所詮電子遊戯ではないのか?」
「そんな事は関係ない」
虚空戦争で学んだ人の命の価値。それはたとえ電脳世界であろうとも変わらない。残虐な魔王としての一面も救世の英雄である勇者としての一面もどちらも俺である事は変わらない。ただ
「戻って来い グロウ」
その一言で漆黒に染まる短剣が俺の相手ある右手に出現する。
「喰らえ 神威法滅」
そして理を超えた一撃が洞窟を覆いその光が収まるとそこに立っているのは俺だけ。だが
「空間よ裂けよ」
突如聞こえた声とともに目の前の空間が裂けてそこからぞろぞろと額に宝石を宿す人型の奴ら。間違いようがないゲルオニスだ。
「天剣技 アマツソライ」
「!?」
「模倣 神剣技 イカロスの軌道」
万物模倣により一也の剣神としての技を使う。
「悪いな、お前らに出し惜しみをしないと決めている。恨むならオリジナルを恨め 万無の境界 凍ノ海」
史上最強との呼び声の高い俺の能力万無の境界。無論これも和也の前で見せた一つなのでためらいなく使う。
「《吹け・風よ》」
2節に分けて唱えた黒魔「ゲイル・ブロウ」。それがデニュニルにより増幅して放たれる。無論この時世界に知られていない反則級の異能。それが宝石を打ち砕く。
「消えろ 大罪七閃」
グロウで放つ大罪人の七連続攻撃。それが剣そのものに宿る効果により範囲が増幅して威力が上がる。だが空間から出てくる彼らは止まらない。当然だ。使命のためになら娼婦にもなる連中だ。俺を死に戻りさせるためなら
「生命爆走 限界突破 ー--雷神弾」
たった一撃を放つだけで死ぬような自己強化も厭わない。使い捨ての死兵。それが邪神群に与えられた彼らの定め。
「同情はするがな!! でもこっちも死ぬわけにはいかない。彼女のためにも俺の恋人のためにも」
ミミアと愛子。彼女らはどちらも聖職者としてその身を人知れずに捧げている。この世のために。それを知る人物は極わずか。そしてその守られている側の連中は平気で毒を吐く。
「ただ自分のチカラを信じて戦い抜く 纏え霊装」
世界を鏖殺し氷づけ刻を狂わせ不死の炎を身に纏い旋風を熾し人を酔わせ模倣の光を持って情報を制し星を支配する。
「さぁ戦争を始めようか」
俺の第二の戦闘スタイル
「アクティベート 精霊王」
一人で国を相手にし滅ぼしたその凶悪な力を持って殲滅する。その理不尽な暴虐を。
「控えろ魔族 魔王の凱旋だ」
漆黒の戦闘服に身を隠し頭からツノを生やす。そして軽く右腕を振り下ろす。たったそれだけで魔力の超弾が迷宮の通路を破壊し尽くす。そしてデニュニルの龍眼に光が灯る。
「龍霊砲 ファイヤ」
その砲撃を展開している間にも奴らは迫ってくる。ナイフに銃や矢それに魔法が飛んでくるが全て回避しそれでも当たりそうなのは風と光が抑え込む。たったこれだけでも未来予測とは違う世界の進み方に彼らは驚きを感じている。俺もネタが分かるまでは苦労した。
「そのifに意味はあるのか?」
時空魔法で失った彼女を戻せないし時魔術でも事象改変なんて不可能。だからこそ人智を超えた世界に挑んだ。そしてかの種族を圧倒した。
「神技」
どれほど綺麗に模しても所詮プログラムはプログラム。本物の彼らのように視線を外しながら狙撃なんて出来ないし細小の事象を知ろうと戦闘に生かすことは出来ない。最初こそは驚いたがほんの僅かな攻撃でそれが判明した。でも・・・
「アステルブレイク」
グルカルトではない異世界の技・そこで手に入れた力は一也ですら分かるはずがない。無論虚空戦争の舞台であろうと。




