槍の勇者と風の戦巫女 1
俺がプロゲーマーになった翌々日。
俺と恋歌の魔道騎士は東京に居た。それも日本武道館。
その舞台に婚約者である桜井愛子が居る。
彼女は薙刀と呼ばれる長柄武器を持っている。
そして敵対する安藤結菜も薙刀を持っている。
「・・・マジか・・・」
「亮哉さん・・・愛子の敵とお知合いなんですか?」
俺のふとした呟きに反応したのは雫。義妹である美波は今この場には居ない。
「あぁ同業者だよ」
「・・・テンス!!」
小さい声で雫が驚く。
テンスの神子。
それは数年前の出来事・・・テンスの神隠しの時の異世界『グルカルト』に召喚された10人の子供の事で現在、俺がAWOを出会った頃からで言うと
魔術の勇者 霧宮さくら
銃の勇者 黒岩巧
と二人に会っている。そして直接的に相対するのは彼女が始めてである。
彼女の上手さは『舞の勇者』の次に知っているが結菜は決して強いタイプではない。異世界で俺が最初に身につけた戦術技巧のみで彼女は戦ってきた。魔王決戦時はとある理由から不在だったがそれは別の理由があっての事なのでしかたないが・・・。
彼女の神器は神薙と神槍。
そう、薙刀を一通り扱えるのだ。そしてグルカルトでの経験が彼女の才能を底上げしたのだ。実戦経験の有無で言うと遥かに結菜の方が質も量も上だ。愛子も無いとは言えないけどソレの主は電脳世界だったり下級妖怪だったり比較的に弱い部類である。
少なくとも先週までは・・・・。
「亮哉?・・・・・でも居るのは義妹1人だったはず」
私は良く知る気配を感じたのでふと呟く。
万物の勇者・相対の魔王 片倉亮哉
種族は人間でありながらも名付き勇者・魔王という相反する二面性を持つ人物。
様々な闇を抱えながらも努力する事で否なす為に力を求めて行動していた人物。
例え自分の目的に必要ならばどんな格上だろうと神だろうと関係なく喧嘩を売る人物。
そうでありながらも味方には優しく必ず守り通そうとする人物。
それが私にとっての彼の人物像だ。
そんな彼が何故この場にいるのか理解できなかった。
「不味いな・・・舞美だったら勝てただろうが・・・・流石に槍の勇者だと・・・・」
勇者相手にそう簡単に勝てるとは思わないがリズムを崩せば漬け込む隙がほんの僅かだが生まれる『舞の勇者』とは違い常に相手を動かす『槍の勇者』では相手を動きで翻弄する桜井流槍術及び薙刀術では届かない。身体強化魔法や魔力・マナによる身体強化は教えているが純粋なステータス上の問題だ。いくら封印の魔道具があろうとそれはあくまで道具。全てを封じれるほど驚異的な力を有してはいない。
「愛子でも・・・無理?」
「多分な・・・・2:8だろ勝率的に」
いくら万物の俺を相手に出来るレベルに成ったとはいえそれはクセ故。もしも一対一で殺し合いをするとなると俺に勝てるのは五分以下。それも近接戦闘で一切の魔法などや強靭な肉体にステータスを同じにしても。それだけ生身の戦闘は頭を使う。いくら桜井流武術が個人戦向きとは言え・・・俺が納めたのは違うが・・・それさえも軽く乗り越えられるだろう。
そもそも『槍』の名を冠して居るように槍に対しての適性が凄い。パルチザン・薙刀・長巻にハルバートしまいには銃剣など多種多様だ。薙刀と刀に細剣・杖と四種が主体としている愛子との差は天と地。立体戦闘だとまず勝負にすらならないだろう。幸いなのはその点。
「始めっ!!」
試合が始まり二人が同時に動く。
結菜の突きを愛子が最小限で払いそのまま面打ちに入るがそれを抜き胴で避けるが浅く一本とはならない。そして寸座に振りかえった愛子が脛を狙い払うがその下から薙刀を振り上げて逸らす結菜。
「まずまずの滑り出しだな」
「そう?押されている気がするけど?」
「結菜はスイッチが入るタイミングが掴みづらいし何より搦め手の方が多い。あのレベルで制御出来ているのなら序盤は愛子の方が有利」
本当に序盤だけだけど。




