チュートリアル
ギアを起動するとフワッと意識が一瞬飛んだような気がしたが次の瞬間には俺は椅子に腰掛けた状態でいた。
辺りを観察するとあのすばと略される大人気の異世界転生ファンタジーの始まりの部屋にも見える。
目の前には金髪でハッとさせるような美貌を持つ男装麗人キャラであるルチルが佇んでいた。俺と同じように腰掛けて。美波曰くテストプレイヤーアンケート管理AI部門で人気ランキング2位だとか。
『ようこそ ANOTHER WORLD ONLINEへ。
ここではアバターの製作とチュートリアルに初期装備とスキルを決めて貰うよ。まず最初はアバターだね。』
ルチルが指パッチンをすると俺と寸分変わらない姿のマネキンが出て来た。
『ちなみにある程度は姿は変えておいた方がいいよ。私たちじゃリアルの責任を負えないから』
確かにな。何となくストーカーや逆恨みで何らかの事件に巻き込まれるのはもうこりごりだから大人しく忠告に従っておくか。
と言っても異世界での姿なら別にばれても問題は無い。だって同類だし。と言う事で蒼髪に紅と翠のオッドアイ。髪を少し伸ばしてこれで良し。というかあんまり手を加えると美波から怒られるだろうし。序にここで名前も決めるのか。
リョーで良いや。向こうで偶に名乗る咎人斬である。
『OKね。うん中々カッコいいじゃん。と脱線してしまったね。次はスキルかどれにする?』
と次に現れたのは広辞苑くらいに厚みのある本。これに初期スキルが乗っているらしい。
「ちなみに此処で選ばなかったスキルはどうなる?」
『スキルオーブで入手できるよ。中にはレアスキルとかユニークスキルもあるから。』
へぇ~ある程度したら聖剣召喚も出て来るかも。それは有難い。
「じゃあ 剣の心得 筋力増加 付与 鷹の眼 鍛冶 錬金 調合で。」
剣は単純にメインウェポンとして。鍛冶・錬金・調合は生産スキルであり攻略を目指すなら不必要だろうが自分の装備くらい自分で造ろうと思っただけだ。で単純に攻撃力を上げるステータスに影響するらしく手数は後々で良いや。付与はRPGだとバフと呼ばれる支援魔法の事だ。AWOでは知らないが魔王決戦でもとてもお世話になったので取り入れた。鷹の眼は遠距離視の効果がある。まぁこれも魔王決戦で進化先が大層お世話になったのである。後、数個欲しいスキルがあるがもう既に枠いっぱいなので取れないのだが・・・。
『いや君はプレミヤモデルだから最初から枠が+2だよ。』
ならさっさと言えよ。と言うよりもβテスタ―に何か恨まれそうだな。テスター特典にはそんなの無かったし。
「発見と火耐性で。」
発見は罠や採取ポイントを見つけやすくなるスキルである・・・ただの魔眼の囮である。火耐性は鍛冶作業時に炉の影響によるHPの減少を食い止めるためである。
『OK。武器は剣ね。じゃあ一般配布アイテムを送るね。そ~い。』
とアイテム欄に剣が1本と薄い青色のポーションが一枠に埋まり右下に小さく×3と書いてある。
装備はどうも全員同じらしく簡素で着心地の良い服だ。見た目は村人Aとかそんな感じの質素だが。
剣を取り出し装備する。案外シックリくる。これなら別に問題ないな。
『戦闘チュートリアルだけど如何する?』
「如何とは?普通にしてくれ。」
『他の人はスキップする人が多くてですね。』
馬鹿な奴らだ。情報こそこの上ない武器なのだ。それは気が付くと手遅れである事が多い。故に俺は出来るだけの情報を集め出来るだけの準備をする事を忘れない・・・最初のうちは。そもそも全力で動けるかどうかも怪しいからチュートリアルの内に試しておこうという考えだ。
『じゃあ転送。』
ルチルのその言葉により魔法陣が展開され俺は草原へと飛ばされる。
『準備は良い?』
俺は剣を構えてから大丈夫だと返事をする。
『じゃあ召喚』
そう呼ばれて出て来たのは額に1本の角の生えた兎。名前はホーンラビット。
「攻撃しても良い?」
隣に来たルチルに聞く。
『えぇ、大丈夫ですよ。』
「じゃあ遠慮なく」
俺はホーンラビットに駆け寄りながら剣を慣らす。そして半径1m内に入った時此方に気付いた様子で駆け寄って来る。俺はそのまま剣を水平にする。
今だ。ホーンラビットが跳ねた瞬間を狙い胴体を唐竹割りの要領で叩き落とす。そして剣を急いで兎の下に回し掬い上げる。
するとホーンラビットは光のポリゴン体となって消える。
アイテム欄にホーンラビットの肉・角・皮がそれぞれ一つずつ増えた。成程。これがドロップアイテムか。
「次ある?」
『直お待ちを。・・・良いですよ。』
次は・・・。
「何アレ?大き過ぎない。」
『名前はキングホーンラビット。ぶっちゃけるとボスクラスのエネミーですね。本来ならグレイウルフなんですけど。』
そうすっか。なら
「ブレディアニ―ドール」
剣に魔力を纏わせコーティングをしつつ左手の剣をドリルに見立てて突き刺す。
『システム外スキルですね。それ。確かに数人それを使える人は居ますけど精錬度が全然違う。』
へぇ~これさえもこれが出来るんなら、俺は世界級と呼ばれる魔法を扱えるのだから・・・魔王様にでもなれと言うのか此処の運営。ダンジョンマスターである以上魔王とも思われる事も少なくは無いのだが。
と考察している内に倒し切れなかった兎が角に魔力を溜め迫って来る。それに合わせ再び俺は剣に魔力を纏わせる。十八番だからか息をするかの如く魔力が纏わりつく。それを薄く伸ばし面を広くする。
「ソードスタンプ」
今度はHPを削りきりポリゴン体となって消える。フムフム。動きが思考に合わないとはこのことか。
スポーツ的に言えば永続的ゾーン状態とでも言うべきか?俺の場合は更にゾーンに入れるのでどう対応すればいいのかが分からないのだが。・・・安全第一で早めにステータスUP系スキルでスキルを固めリアル能力で・・・なんだろうとても娯楽としてのAWOではなく現実世界のAWOという世界で認識しているか?
まぁ良いか。
『次にアーツと呼ばれる技何だけど・・・必要ないよね?システム外スキルってほぼアーツと同じ正しくはオリジナルアーツって完全に上位互換だし。(その内・・・マギ・マテリアルと断罪の陽も・・・)』
「大丈夫か?顔色悪いけど。」
『いや大丈夫だよ。それにAIやNPCに気を使う事は大切だよ。AWOは異世界であり君たちプレイヤーは訪問者である事を忘れないように。』
数体兎さんを倒したところでチュートリアルが次の段階に進みアーツと呼ばれる技のチュートリアルを始められるらしいが単純な剣技もアーツの1つらしく俺が汎用型魔法剣を向こうで開発したのはほぼオリジナルアーツレベルらしい。要するに個人技・・・某妖精の里での世界の種子が撒かれた後のアレと同じ扱いであるのが俺の認識だ。
ちなみにアーツや魔法などは全てMPで賄われるそうだ。でMPが0になるとマナ欠乏症に陥りステータス2割ダウンになるらしい。スタミナとか有りそうなんだけどな。更に言うとMPは使えば使うほど成長するとのこと。
『いよいよだね。君はいろいろと面白かったよ。そしてようこそACOに。万物の勇者 リョー 僕たち世界の管理者は君の来訪を歓迎する。』
え!?
何故その名を!