会場イン
翌朝。
ダンジョン裏階層楓の間。
「始め!」
その雫の言葉で俺と愛子は動きだす。
「面!」
「切り込みが正直過ぎるぞ?」
今行われているのはなぎなたの改変ルール。剣道と薙刀の全ての有効部位を有効とした複合型武術だ。
「突きからの籠手面胴」
怒濤の4連撃に一切の反応が出来ず全てを喰らう愛子。ただそれによって崩した体形からも
「脛」
払い攻撃が飛んで来る。だがこの程度、舞に比べると如何でも無い。ジャンプしてかわし今度は此方が払う。
「脛」
と今度はバックジャンプでかわされる。この勝負武器では重要な間合いが一切関係ない。だがそれも面白い。突いていなして弾いて切る。この一連の動作を数十秒に亘り繰り返す。
卓越した捌きが本来ではありえない物へと昇華している。
それはわずか一週間前に始めて薙刀を触れたものとは思えない位だ。そしてその対戦相手は全国薙刀選手権で成人女子の部で最年少の上に史上初の3連覇と高校でも一年生ながら優勝し今年史上初の2連覇が期待されている若きホープである。
もっともそんな事は数人しか知らない秘密の訓練であるしこんな茶番をインターハイ前にやっているのを誰もツッコミはしないだろう。何せ普段突っ込む側の人間がこの訓練を願ったのだしソレに準ずる人が受諾したのだ。常識枠の人間がこの家に今は居ないと言うこともあるだろうが。
ちなみに両者が扱っている薙刀は全てアダマンタイト製で不殺・手加減の効果が付けられており普通に重い。むしろグラビトン鉱石が混じっている所為で両者に掛かる重力は2倍以上である。これは毎朝2時間行われている。ただ亮哉は時空魔術を併用しているので実際は1分も無い。
「止め!」
選手権に合わせて8回連続休憩なしで行うこれも今日で最後。明日からの3連休は1日目がゲーム100,sで残り二日にかけて全国高校薙刀選手権だ。そこまで愛子は多忙だが出来るだけでもこちらで何とかバックアップするつもりだ。
「すまんが今日はこれで済まさせてくれゾーンクリーン」
生活魔法のクリーンで身を清潔にする。これ何故か俺の場合修復までしてしまうので薙刀や防具も新品同様だが使いこまれたクセは残ると言う謎使用だ。
「二人は朝食を。俺は美波を叩き起こして来る。」
「えぇ。」
「ではお先に。」
と二人は更衣室に消える。
「ワープ」
ダンジョンマスターの能力を使い自分の所有土地のとある場所に入る。
「装備チェンジ」
瞬間で道着から普通の私服へと着替える。
「美波起きてるか?起きて無いなら入るぞ。」
我ながら酷い言葉であるが部屋の主は起きていない。おかしいな。昨日は3人は早く寝させたはず。
10秒たっても返事が無い。仕方が無いのでドアを開ける。部屋の主はベットの上でぐーすか寝ている。何故か薄手の掛け布団の上に。そして枕と頭が反対である。如何寝たらそうなるんだ?
「お~い、起きろ。」
一応声を掛けるが起きない。なので頭の方まで行きこめかみに拳を突ける。ぐりぐり。
「イタイイタイタイ。逝くから兄さん逝くから」
「安心しろ手加減・不殺付きだ。死にはせん。二人はもう起きているぞ。」
そう言いつつも頭をガンガン上下に振る。
「済みません・・・起きてますから。」
「おうそうかじゃあ早く着替えろ!」
美波を解放し素早く部屋から退散し向かいにある書斎に入る。
そこにある小さな木箱を3つ中身を確認し持ち上げる。
部屋を出ると丁度美波も着替え終えたらしく細々としたものをいれたポーチを持って部屋を出て来た。薄紫色のワンピースにさくらの髪飾り。完全に余所行きのスタイルだ。髪型はツインテール。
「・・・。」
「何ですか?」
「いやその服何処の?」
「クライアントの何処かかと。」
なるほど。美波が普段選ばないような物の理由が分かった。にしても何故に清楚系?いやまあ混沌の聖女なら正しいのだろうけど。
「なるほどね。まあ良いか下りるぞ。」
「は~い。」
うん清楚系では無いよな。
階段を下りると既に朝食が完成していた。メニューはパンにハムエッグ、レタスのサラダ。うん早さ重視だな。
「亮哉さんコーヒーと紅茶どっちにします?」
「コーヒーで。」
美波を一瞬見て
「誰かさんが目覚め切れて無いらしいので」
「了解。」
そう雫の質問に答えると愛子がすっとやかんのお湯をコーヒーポットに注ぐ。何この連携力ていうか女子力。どこぞの妹と比べると月とスッポンだ。
雫の服は薄水色水玉のシャツにライム色のミニスカートと黒スパッツ。何と言うかボーイッシュだ。愛子は黒のフリルシャツに黒のフレアスカート。
「なぁ愛子なんで真っ黒なんだ?」
「和服は動きずらいので?」
「そうか・・・。」
そんなものだろうか?でも・・・・。
「アレにしたのは失敗か?」
「アレ?」
俺の呟きに直そばにいた美波が首を傾げる。
「いや何でも。それよりはやくご飯食べるぞ?」
「「「は~い」」」
何かまだ18なのに娘が3人も出来た気分だ。
食事も終え後片付けも寸座に終わらせた。既に荷物は昨日のうちに纏め終えていた。念のためだが腰には偽造エクスカリバーのナイフと腰のベルトは偽造グラムの魔力回路を組み込ませている。それにポケットには宝石と鉛玉が10こずつ入っている。基本的に問題は無いはず。
「じゃあ全員忘れ物は無いか?」
「問題無し!」
「・・・忘れない・・・。」
「大丈夫ですよ?」
俺はリュックを背負い玄関に向かう。
「じゃあ全力で楽しむとしますか?」
「「「おう。」」」
そして始まるゲーム100‘s。
ここで俺の運命が更に数奇な物へと変わるとはこの時は思いもしていなかっただろう。