ゲーム開始前
「おはよう。」
「おはよう、美波」
リビングで昼食を作っていると義妹である片倉美波が眠たそうな顔をしながらテーブルにつく。
「今日も徹夜でゲームか?年頃なんだから肌が荒れるぞ。」
「ふぁ~あ。そうだけど、打ち合わせが中々終わらなくて。」
「マネージャーぐらいの仕事ならするぞ。っていつも言ってんだろ?というかゲーム100’Sてもう3週間も無いんじゃなかったけ?」
「そうだよ。でも新人がなかなか決まらない上に明後日には新作の本オープンでそっちに舞台を移すことになりそうだから大変なのよね。」
「・・・そんなか?プロゲーマーって。」
そう我が妹は高校生ながらプロゲーマーとして第一線を走っている廃ゲーマーな残念美少女である。勉強は記憶力だけで何とかなっているが家事能力が壊滅で・・・いろいろと手のかかる人だ。
「大変だよ。町で出掛ける時も大変だし。コスプレとかでメイクとかする必要もあるし」
毎度3人の弾避けになるこっちの気持ちも考えて欲しいもんだが。と言うよりもメイクを嫌がるのはどうかと思うぞ。
「そうか・・・そうなのか。」
としか反応できなかった。
「御馳走様でした。」
「皿は仕舞っておいてくれ。 ゾーンクリーン」
食事に使った皿全てに洗浄魔法を掛ける。さてと今日は久々にのんびりできそうだな。この前一斉製作でまだ大量に在庫を抱えているし収穫はまだ先だ。買い物も基本的には無いしそもそも上の農場である程度の作物を作っているから食材には困らない。というか竜種の肉が腐るほどある。
「寝るか。掃除もする必要ないし。」
と寝室に戻ろうとすると
ピンポ~ン。
とチャイムが鳴る音がした。チャイム?誰だ何もない水曜日に訊ねて来るような人は。
「私が出て来るよ。」
「そうか、頼んだ。」
キッチンで作業を終えていた美波が対応に出たと思うと
「亮哉さ~ん本人確認がどうのこうのって。」
「はいよ。」
三角飛びの要領で2階から1階に跳び下り静かに着地して玄関に向かう。
「片倉亮哉さんですね?」
「あぁそうだが・・・何だそれ?」
運送業者のお兄さんが身分証の提示を求めて来たので俺はマイナンバーカードを提示する。そして疑問に思い後ろの荷物を指ざし訊ねてみた。
「それがですね・・・取扱注意と亮哉さんの名前だけしか書かれていなかったんで届けに来たんですよ。身分証も本来なら必要ないんですけどね。違法物じゃないですよね?」
「大丈夫じゃないか・・・多分。一応危険物は甲種あるし家の土地はそれなりに広いから何とかなると思う。・・・プライベートカードある?」
流石に申し訳ないと感じ彼にそれなりの金額を支払う。
「御苦労さま。」
荷物を受け取りリビングに戻る。
「美波、ちょっと来てくれ。」
「何でしょうか?」
とVRギアを持った状態で降りて来た。
いやそのスタイル如何なんだ?
「コレさ・・・多分いや確実に美波が6か月前に受け取ったのと同じ種類と思うけどどう思う?」
「・・・開けても良いですか?」
「良いけど大丈夫だよな?」
「大丈夫ですよ。予想どうりなら・・・。」
「なら?というか固まっているけど大丈夫か?」
「AWO専用のプレミヤベット型が2台も。」
「AWO?」
「ほらお昼御飯の時のアレですよあれ。」
「例の新作?それって凄いのか?」
勇者を経験した点とデスゲームに巻き込まれた事がある俺からするとどのVRMMOも肌に合わない。なのでどちらかと言うとソシャゲの方が俺は好きなのだが美波が一番酷かった時期である六カ月前にあったβテストが行われていたらしい。
そして件のAWOとは[ANOTHER WORLD ONLINE]略してAWOでVRMMO業界で唯一全世界同一サーバーで展開されており言語もきちんとコミニュケーションが取れる用にダイレクト翻訳されα・β両テストとも過去最高峰の人気ぶりであり製品として発売されたら他のゲームは過疎するだろうし通常ギアでもプレミヤ価格で取引されるだろうとされておりグラビニウムに次ぐ日本を経済を支えるだろうとされているゲームである。
若干可笑しい説明があったがまぁスル―しよう。
で美波が段ボールを解体し終えたらしく
「間違い無くAWOのカプセルベット型のギアですね。プレミアム使用の。しかも亮哉さんの名前と私の名前がそれぞれ刺繍で入れている辺り会社から送られてきたものかと・・・私はともかく亮哉さんがなんで。」
「確かAWOの運営は警察にも関与できるんだろ?俺の特務艦としてから割ったんだろう。帰還者課は政府の意向で組まれている軍だから。」
「暗い話はやめましょうか。」
確かに生臭い話が続いたしこちらも聞きたいことが山ほどあるのでその提案に乗る。
「そうだな。聞きたいんだがAWOはどんな感じだった?」
「従来のMMOよりも格段と差がありました。多分亮哉さんも気に入ると思いますよ。」
へぇ~
「プロゲーマーの絶賛が聞けるとはかなり凄いな。で、どんなスタイル?」
「光・闇属性に杖と回復ですよ。」
「純魔法使い型ねぇ。美波は水精霊に好かれているから余裕があるなら手を出してみたら?」
俺は能力の都合上精霊を見る事が出来、それらを束ねている。簡単に言うと精霊と自由自在に触れあえる事が出来るのだ。
でたまたま遊びに来ていた水の大精霊が美波に取り憑いたのだ。それ以外にも光と闇の中精霊も取り憑いている。
「精霊は確認されてないんですよね・・・AWOって。」
よし、取り敢えず名前が売れる事が確定したな我が妹よ!って俺もじゃねぇか。
「魔眼どうしよう・・・。」
精霊王の瞳 森羅眼 宇宙の眼 万物視 使者の視界
それ以外は劣化能力しかないがそれでも魔眼は魔眼だ。精霊以上に希少な存在である無属性魔法が目という器官に作用した結果だと俺は解析した。
確実に目立つな。別に良いけどさ。
「これで初期設定は完了ですね。」
「助かった。にしてもコレWiFiの媒体にもなるのか・・・駄目だな。魔法が便利すぎる所為か最新の機械には全くもって着いて行けん。」
部屋で美波にマシンの設定をして貰い残りの個人設定を終わらせる。さて面倒な事も終わったし纏めて宝石加工でするか。
「いよいよですね、AWO開始まで。」
朝から美波が上機嫌である今日はAWOの本稼働日である。朝五時から叩き起こしに来るとは思わなかった。まぁ予定を前倒しにするのは問題のだけど。
「そうだな。そう言えばAWOでは聖剣とか魔剣とかあるの?」
「イベント報酬であれば数点。ですから召喚系だと・・・チートと疑われる可能性があります。」
「リアルチートであることは変わらんしな。さて、そろそろじゃないか?」
サービス開始は12:00で現在は11:50。長くプレイできるように既に昼食は済ませておりゆっくりと緑茶を飲んでいた。
「そうですね。・・・良かったら一緒にしませんか?」
「良いのか?確か仕事の都合もあるはずだろ?」
一昨日話した時はそんな感じの事を話した気がするのだが。
「いえ、大丈夫ですよ。今回の目的は新人の発掘ですから。」
まるで獲物を見つけた肉食獣の如き笑みを浮かべた美波に恐怖を覚えさっと了承の答えを出し自室へと逃げギアを起動した。