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マナ崩壊病と桜井家


 にしても智和さんが俺に電話を掛けて来るとは珍しい。忙しくなるとつい最近も連絡がありしばらくは忙しいと聞いていた。確か隠居生活中だよね。

『娘の体調の事なんだがね。』

「体調が崩れたのですか?でも昨日も普通にゲームをしていましたよ。」

 少なくとも美波は体調が良いらしいし。神授の迷宮をその速度で踏破するのは精神的に辛いのか?

『私もそう聞いている。ただ体中が凄く熱いらしくとんでもない量の汗が体中から出ているらしい。それに家の使用人が数人愛子の部屋近くで倒れているのが見つかった。幸い目眩程度だったらしい。』

「・・・マナ崩壊病。でもそれだとすると桜井家では珍しい。」

 愛子の体を視た時に桜井家のルーツを視たが全体的にマナを魔力に変換できずに崩壊するというマナ崩壊病が起きる様な感じでは無かった。

『私も同意見だ。診てくれるか?』

「えぇ勿論。飛んでも大丈夫ですかね?」

 飛ぶとは空間転移である。愛子の隣室をそれ専用に貰っている。そこなら基本的に飛んでもばれないのでその部屋に転移するようにしているが偶に誰かが居るので気をつけないといけない。

『了解した。部屋は大丈夫だ。では娘を頼む。』

 そう言い残すと電話が切れる。

「美波今日学校は?」

「う~ん私たちは基本自由登校だしプールがあるから休む。」

 それはそれで如何なのかと問い詰めたいが分からなくもないので理解はできる。

「じゃあ雫は?」

「今日は家の用事があるから午前は居ないはず。」

「そうか。・・・・聞いていたようにちょっと愛子の様子を見て来る。良い子にしておけよ。」

「O~K.じゃあ行ってらっしゃい。」

 俺が手早く着替えていると美波は冷蔵庫からアイスを取り出していた。まあ良いけど。

「転移」

 言葉を紡ぎ終わると俺は視界を揺るがせ移動した。



 視界が元に戻るとそこは見慣れた和室。桜井家の和室だ。

「御久し振りです。亮哉さん。」

「?あぁ七海さん。久し振り。」

 声を掛けて来たのは愛子専任の使用人﨑村七海。都合上彼女とはそれなりに親しい。というか電話するとほぼこの人が応答する。

「こちらに。」

「頼む。」

 七海さん案内の元、愛子がいる部屋に向かう。その部屋に向かう度にマナが濃くなるのを感じ取れる。

「手を。」

「・・・助かります。」

 マナの重圧に先程までは耐えられていたみたいだが愛子のマナ吸収量が早くなったのかきつそうなのでこちらの魔力で包み込み保護する。これ魔帝と同じだな。となると不味いな。

「ダンジョンコア 来い。」

 ダンジョンコアを一つ召喚しマナ喰らわせる。うぇ~ダンジョンポイントが大量に手に入る。ついでに魔力のストックも。要らんけどな。

「着きました。では愛子をお願いします。」

「もちろん。」

 部屋の戸を開く。むっとした匂いと莫大なマナが襲いかかってくる。

「癒せ 冷やせ 強化せよ」

 周囲に散らばる莫大なマナを消費し愛子の体調を損なわない様に全力を尽くす。

「来い風精霊。空気の循環を。」

 精霊を召喚し空気を循環させる。精霊はマナでも魔力でもどっちでも行けるので今回はマナを使って貰う。

「洗浄 乾燥 創造」

 愛子に近づけば近づくほどマナを感じ取れる。それを利用し彼女を清潔に保ち創造で様々な物を創り出す。基本的には重さに対して一定の魔力を支払えば創造し実体化するが魔力を込めれば込めるほど上等な物に変化する。更に込めればある程度の効能も決められる。マナを莫大に喰らうが。今回はそれが丁度いい。

「・・・りょ・・・う・・・やさん?」

「おいおい大丈夫か?楽な姿勢で・・・よし。 付加 封印 成長 魔力蓄電」

 金剛石と白金で綺麗に細工した指輪を手に取り魔法効果を付与する。

 すっと彼女の左手を取り薬指にはめる。すると彼女が吸引し損ねたマナが指輪に蓄え始まる。

「吸精」

 その手を手で包み魔力をこちらに流す。そうすることで彼女自身が蓄えられる魔力が増え始めたのか大分マシになって来る。



 1時間後目に見えて楽になった愛子はベットの上でぐで~とだれている。何かいつもとは違って可愛い。

 さきほど創造したナイフでこれまた創造した林檎を剥く。それをお皿の上に置く。

「大丈夫か?」

「う、うん。」

 どこかはにかむように答える愛子。その視線の先にはさきほどはめた指輪がある。

 忘れていた。人間の方の風習ではエンゲージリングだったな。神々の方では守と誓を意味するだよね左手薬指って。婚約者とは明言したのものそれらしいことはしていないしな。

「・・・亮哉さん・・。」

「・・如何した愛子?」

 何か熱を出した時のミミアに似ているな。美波は体が丈夫過ぎて怖い位でこう看病する事も無いし。

「私は・・・・貴方の・・・傍にいたい。」

「いくらでも傍にいろ。」

 にしてもどう説明するかね異世界に残して来た婚約者たちに。こっちは既に一夫多妻の人が居ない事も無いが・・・ミミアは受け入れてくれるのだろうけどトラブルにならない事を祈るのみ。

「・・・何か懐かしいな。」

「懐かしい?」

「・・・異世界に居た時にこんな事があったんだよ。」

「それは婚約者で?」

「・・・まあな。あんまり別の女性の話はするもんでもないだろ。婚約者がいる事は確かだが。」

 正直に言うと押しつけられたが正しいかも。ミミアとエル以外は。主に精霊王の所為で。

「・・・。」

「・・・完成と。」

 漸く林檎が切り終わった。

「・・・兎?」

「兎。」

 林檎のへたを持ち上げると見事に細工のように出来た兎が出て来た。いやそうするように切り込みを入れたんだけど。

「・・・もったいない。写真を取っても良い?」

「いいぞ。ちなみに裏から見ると鳥。」

 某次世代戦略TCGの翠色のカードが何故か頭に浮かんだ(林檎が青ただし皮も食べられる)ので兎と鳥にした。

「無駄に高度。」

 と頬をぷくっと膨らませて言う愛子。

「それ多分1年は腐らないはずだから。ハイ、あ~ん」

「あ~ん。って何しているんですか?」

「いや食べないから食べさせた方が良いかなって。」

 というか寧ろそれを待っていたかと思ったよ。

 食べさせた林檎は自己回復力強化と健康の効果をもつ体に嬉しい林檎でした。


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