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ノンケはクラスに俺1人!?  作者: 謎野蜜柑
7/12

「お兄ちゃんよりカッコいいノンケの男の人なんていない!」


「お兄ちゃんお帰り〜!」


「おう、ただいま」


その日、家に帰ると妹の橙花(とうか)が俺を出迎えて抱きついてきた。


俺としては、放課後少し残って転入生と話してみるという選択肢を取ろうかとも考えたのだが、俺を除いた男子10人は例外なく彼女への興味ゼロだったので、帰りのSHRが終わるとすぐに帰宅を始めてしまった。そんな中で俺だけ教室に残っても違和感が半端ないので、初日のコミュニケーションは諦めて、ひとまず家に帰ることにしたのだ。


「学校どうだった?」


橙花が俺に抱きついたまま質問してきた。


「"どうだった"って言ってもなぁ…。AAだとクラス替えもないし…。まぁ、1人転入生が来たけど、そいつとはまだ一言も話せてないからな。…てか橙花一旦離れてくれ、部屋着に着替えたい」


ワイシャツのままでいると無駄に暑苦しいのでそう言うと、橙花は素直に俺を拘束から解いてくれた。


「転入生?へぇ…、高校にもなって転校って珍しいって聞くけど」


「ん、まぁ珍しいかもしれないけど、100パーありえないってことでもないからな」


リビングのソファーの上に準備しておいた部屋着に着替えながらそれに答える俺と、俺の脱いだ制服をハンガーに掛けながらそれを聞く橙花。


「親の急な転勤とかかな?」


「かもな。それか、前の学校で何かあったかだけど…。まぁ、それは無いだろうな。AAに入ってくるってことは相当頭良いってことだし、見た目も良かったし、イジメとかそういうのとも縁遠そうな感じだった。まぁ、どのみち本人に聞いてみないことには実際のところはわかんないけど」


「転入生って女の子?」


「あぁ」


「しかも可愛かったんだ?」


「……。まぁ、クラスの女子の大半が騒いでたし……」


「へぇ」


そこで橙花が急にニヤニヤ顔になって、


「その子がノンケだったら良いのにね」


なんて馬鹿なことを言う。


「ハァ……、そんな世の中甘くねぇよ。県内唯一の共学クラスに入ったってのに、ノンケは俺1人だけだったんだぞ。そんな奇跡起こるわけないだろ……」


「う〜ん……、お兄ちゃんはそう言うけど、何だかんだ言っても学生の5%はノンケなんでしょ?もう1人2人はいてもおかしくないと思うんだけどなぁ」


「いやいや、お前も入学して少し経てば分かるって。明日入学式だろ?現実を見て絶望しろ」


橙花は俺のひとつ下の妹なので今年から高校生だ。俺と同じくノンケなので、同じ理由で聖山国際のAAに進学を決めた。


橙花が聖山国際への進学を親に告げた際、両親は二つ返事でそれを認めたのだ。


俺が同じことを言った時には、『奨学生にならないと入学を許可しない』と定められたのに…。


まぁ、往々ににして兄妹とは不平等なものだろう。


「私は諦めないよ!きっと世の中のどこかにはお兄ちゃんよりカッコいいノンケの男の人がいるって信じてる!」


「あんまり期待しすぎると後々の傷が酷くなるぞ」


希望を捨てない橙花に、現実をより深く知っている兄として注意をしておく。


しかし、そこで橙花は笑って言う。


「まぁ、いざとなればお兄ちゃんと結婚すればいいし?」


「はぁ……」


思わず溜息が出た。


「あのなぁ……。実の兄妹で結婚出来る訳ないだろ」


「でも、私とお兄ちゃんって書類上は兄妹じゃないじゃん!」


「それは、まぁそうなんだけどさぁ……」


そう、俺と橙花は書類上では兄妹ではないということになっている。同じ両親から生まれたことに違いはないのだが、何でそんなことになっているのかと言うと、世間体を気にしてのことだ。


というのも、今、世の中で行われている子作りの大多数、Aar細胞を用いた同性間での子作りでは、100%の確率で、子供の性別は両親と同じものになり、また、その子はほぼ確実に同性愛者となる。

つまり、ホモの子はホモ、レズの子はレズとなる訳で、両親が同性愛者であるのならば兄妹や姉弟の存在はあり得ないのだ。

そういった背景があるので、俺と橙花が兄妹ということを公表すれば、それすなわち異性愛者であることの宣言に他ならない。


だから、これは、両親がノンケへの世間の目の厳しさを考えてくれた結果なのだ。


他にも、母さんは俺を妊娠したと分かってからは産婦人科ではなく、秘密管理をちゃんとしてくれる助産院に通うようにしたと聞いているし、父さんも、母さんと同居していることが知れたらノンケだとバレてしまうと言って単身赴任している。


そして、俺は幼くして両親を失った子供で、それを母さんが引き取ったということにされている。


それでも、どうやって書類を偽造したのか?という疑問は残るが、まぁ、母さんが公務員なので出来なくはなかったのだろう(職権濫用)。


まったく…、ノンケには住みにくい世の中になったものだ…。


「まぁ、そんな話はおいといて…、母さんは?仕事?」


「うん、帰りに飲み会があるから今日は帰って来ないって」


「りょーかい、あの人酒好きだなぁ……」


しかし、腹が減った。

今日は始業式終わってそのまま帰ってきたので、時間は正午前、当然昼飯もまだだ。


「お前も昼飯まだだよな?」


「うん」


「何か作るか」


「そだねー、何作るかは冷蔵庫とか覗いてみないと何とも言えないけど」


兄妹揃ってキッチンに移動して、食材のストックを確認する。


「うわぁ、びっくりするほど選択肢が少ないね…。これだと…、パスタが妥当?」


「だな。具になりそうなのは…っと、んー…。ほうれん草とベーコン……………っと確かこの辺に、あった。ホワイトソースの作り置き、これで何とかなるだろ」


「おっけー」


作る料理が決まったので2人で手分けして作業に取り掛かる。


ほうれん草を下茹でするための小さな鍋と、パスタを茹でるための大鍋を取り出し、たっぷり水を入れてから火にかける。沸騰するまでの間に、ベーコンを一口大に切っておき、冷凍保存されているホワイトソースを、レンジで解凍しておく。


沸騰したら大鍋の方に少量の塩をいれて、2人分のパスタをざっと入れる。パスタが茹で上がるまでに、ほうれん草を茹でる。

この時ほうれん草は茹で時間を短めにしておく。あとでソースと絡めるので長くしてしまうと食感が悪くなる。


パスタも同じ理由で少しだけ早く湯からあげて、具と合わせてフライパンに投入。ホワイトソースを入れ、濃さの調節に牛乳を適量、塩コショウで味を整える。


ほうれん草とベーコンのホワイトソースパスタ出来上がり。


正直言って、工程も少ないし複雑な作業も無いので、2人で料理する必要はないのだが、長年色んなことを一緒にやってきたこともあって、気付けば同じ事をしていることが多い。


パスタを二等分に分けて器によそい、フォークと一緒にテーブルに運んで、『いただきます』をしてから揃って食べ始める。


「そういえば…」


食事の最中にふと気になって口を開く。


家庭によっては食事中の歓談はマナー違反としているところもあるらしいが、我が家ではそこまで厳しくない。

まぁ、食事だって楽しくとった方が美味しいに決まってる。


「明日の入学式には母さんが出るのか?」


去年の俺の入学式の時には父さんが単身赴任先からわざわざ戻ってきてくれたのを思い出して、橙花に聞く。


例の理由から父さんが出るわけにはいかないので、母さんが出るのだろうと思ったのだ。


しかし、


「あ〜……、いや。ママも出れないって言ってた」


パスタをフォークでクルクルしながら、少しだけ残念そうに橙花が言う。


「昨日までは行けるって言ってたんだけど……、なんか急に来れなくなるかも知れないらしいよ。仕事入ったんだって。まぁ何回も謝ってくれたし、仕事だって大切だし……。それに多分、今日の夜、飲み会って言ってたけど、多分頑張って仕事終わらせようとしてるんだよ」


「……」


うちの母さんは厳しい時もあるが、基本的に俺たちの事を何より優先して考えてくれる人だ。

おそらく、橙花の予想も当たっているのだろう。


「だから……、うん。それでも一緒に行けなかったら仕方ないかな……」


「そっか……」


もちろん、橙花だって高校生になる訳だから、母さんが出れなくても大した問題にはならない。しかし、他の新入生の大半は保護者同伴だろうから少なからず心細く感じてしまうのも当たり前だ。


「一応、俺は明日休みだけど……」


聖山国際の入学式は、新入生とその保護者、来賓や教師だけで行われるので、当日在校生は登校しない。(それなら在校生の始業式を入学式の後にしてほしいものだが、意外にもこういう学校は多いらしい)


なので俺が橙花に付き添うことも出来なくはないが……、


「お兄ちゃんが来るわけにはいかないでしょ。説明が大変すぎるよ」


「やっぱそうだよな」


現実的にはかなり厳しいので実行には移せない。


ちょっと可哀想だけどどうしようもないか……。


そう思っていると橙花が、


「まぁ、たとえ1人だったとしても平気だよ!」


と、やや暗くなってしまった場の雰囲気を払拭するかのように言う。


「きっと明日の私は学校で、お兄ちゃんよりカッコいいノンケの男の人を見つけて来て、帰って来るなり満面の笑みで、そのことをお兄ちゃんに報告してるから!」


橙花は、空気を読むのが上手くてとても気の利く女の子だ。


お兄ちゃん、お前みたいな妹を持てて嬉しいぞ。


心の中でそう呟いて、


「じゃあ、ついでにノンケの女の子も見つけて来てくれ」


と、空気の読めない出来の悪い兄は言うのだった。



ーー翌日


結局1人で入学式に行った橙花は、帰って来るなり、


「お兄ちゃんよりカッコいいノンケの男の人なんていない!」


と、俺に泣きついて来たのだが(後々になってどうして初日にそんなことを言い切れるのか聞いてみたら『自分に向けられる視線で相手がノンケかなんて大体分かる』と言われた。うちの妹って凄いね!)、そこで俺が、


「ノンケの女の子は見つけて来てくれたか?」


と言ったところ、


「私より可愛いノンケの女の子なんているわけないでしょ!!お兄ちゃんのバァァーカ!」


…………。


怒鳴られてしまいました。


妹に怒鳴られたのは久しぶりだったので、すごくびっくりしました(小並感)。


橙花みたいな妹が欲しかった…笑

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