二人の決め事
一瞬復帰したの草。
その後、俺と白雲は二人で相談して7つの恋人同士の”二人の決め事”を決めた。
1つ、お互いのことは基本的に名前呼び捨てで呼ぶこと。
2つ、二人の間に隠し事はなし、聞かれたことには正直に答えること。
3つ、二人とも朝は七時くらいに登校して学校で勉強すること。
4つ、帰りは二人一緒に帰ること。(幸いにも最寄り駅が二つ隣だった)
5つ、休みの日、暇だったらデートすること。その時は男から誘う事。
6つ、浮気、ダメ、ゼッタイ。(相手がいないのでそもそも不可能と思われるが一応)
ここまでの6つは世間のカップルのそれと比べても一般的なものなんじゃないかと思う。
5つ目のルールに、”男が誘う”という文面を加えられた時には一悶着あったが、お互いに考えることはほとんど同じだったので、概ねスムーズに決まった。
3つ目は人によっては嫌がりそうなものではあるが、俺自身、勉強は避けて通れないという事と、何よりも白雲が、
「分からないとこがあったら多少なら教えてあげられるわよ」
と言ってくれたこともあり、否定的意見を言うはずもなかった。
元クオリアの女子が隣で勉強を教えてくれるなんて、心強いなんてもんじゃない。
ただ、7つ目だけは少し特殊だ
7つ、相手のことを好きになったら告白すること。
最初白雲がこのルールを提案してきたとき、俺は当然ながら、
「すでに付き合ってるのに告白するってのはどういうこと?」
という疑問を抱き、彼女に質問したのだが、その後の説明を聞いて深く納得した。
曰く、
「私たち二人って”お互いがたまたまノンケで、周囲にほかの候補がいなかったから”って理由で付き合い出したじゃない?それって、”お互いに惹かれあって、やがて好きになる”っていう恋愛するにおいてあるべきプロセスをスルーしちゃって、付き合い始めれば互いをいつかは好きになれるって決めつけてる訳よね?でも……、そうならないことだってもちろんあり得るんだし……。それにやっぱり、お互い自然に”好き”だって思える相手と付き合っていたいじゃない」
つまりは、ノンケが超少数派となってしまった今の世の中でも出来るだけ自然な恋愛がしたいということなのだろう。
確かに、今、俺と白雲は一応付き合う事にはなったが、お互いに恋愛感情を抱いているかと言われれば”yes”とは答えがたい。ある程度の好意はあるが、それはお互いが探し求めていた仲間だと分かったが故の仲間意識のようなものが働いているからだ。
こんな状況は自然な恋愛とは程遠い。
それを、あるべき恋愛の形へと修正できるというのであれば、この7つ目の決め事にも大きな意味がある。
まぁ、これにも”原則として男のほうから告白してくること”って付け足されたのにはいささか納得しかねるけどな……。
どうも、白雲脳内には”男女の恋愛においては、男がリードするべき”というイメージがあるようだ。俺はそういうのはお互い平等であるべきだと思うんだが、いかんせんノンケの恋愛に関する例が身近に無さ過ぎるせいでどちらが正しいのか分からない。
っていうか、すでに付き合ってるやつに告白って難易度エグくないか?どんなタイミングで言うべきなんだ?そこんところ、生まれてこの方一度も告白したことのない俺には一切分からないんだが……。
……されたことならいくらでもあるんだけどなぁ。(男から)
そんなことに頭を悩ましていると、
キーンコーンカーンコーン、と朝のSHR前の予鈴が鳴った。
この予鈴は本鈴の五分前に鳴るものなので、今から教室に戻るのに十分なだけの時間がまだある。
「じゃ、教室に戻るか」
「そうね」
二人してベンチから立ち上がり、並んで教室のほうへ歩き出す。
「芥斗、教室でも名前呼びだからね」
「分かってるって」
「あと私たちがノンケだってことは私のタイミングでいうから」
「了解」
「あとは……」
「なぁ、白雲」
「な、なに?」
俺が名前を呼んだタイミングであからさまに動揺する。
「いい加減名前呼びくらいで照れるなよ」
「て、照れてない!」