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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第五章   それぞれの未来  】
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087   【 人間の世界へ 】

 人間の世界に行く事が決まって10日。エヴィアらの魔人と共に様々なパターンをシミュレートし、ようやく俺は人間界に向けて出発した。

 まるで面接練習の様相だったが、実際どんなきつい追及が来るか分からない。考えすぎと言う事は無いだろう。

 並行して人間社会の事を勉強したが、理解できたのは精々国の名前くらいだ。実際の所は、行ってみないと分からない。何と言っても、常識も文化も俺の世界とはまるで違うのだから。


 途中までの移動はスースィリア。人間世界まで一緒に行くのはエヴィアとテルティルト。

 エヴィアは既に人間に交じっても、全く遜色がない程に表情と仕草を学んでいる。多少常識に問題ありだが、これは目をつむろう。いざというときの頼もしさは折り紙付きだしな。

 問題は……。


「今度はいきなり剥がれないでくれよ。会談中にマッパになったら全部お釈迦だ」


 〈 わかってるわよー 〉


 本当は下に服を着ておきたいが、裸でないと張り付けないというのだから仕方がない。

 形状は、現地で用意してくれた服を真似ると言う事で決着がついた。今はいつもの魔王服だ。


 ヨーツケールはユニカの移動手段としてホテルに残すことに。なんだかんだで一番相性が良いらしく、いつも収穫に連れて行っているので問題ないだろう。


 《 任せろ、魔王よ 》


 ウラーザムザザはもうじき南極行きという事で今回はパス。

 そしてゲルニッヒには付いて来てほしかったが、やはりあの姿は人間社会では目立ちすぎる。そんな訳でお留守番だ。


「一応、海岸まではついていきマスヨ」


 多少の不安はあるが、このメンバーで確定だ。


「海岸までは火山帯から、西に行っての竜の住処、それに更に西の幽霊屋敷(ゴーストハウス)? だったな」


「そうなのである。吾の足ならすぐに通り抜けられるのであるぞ」


 まあスースィリアに乗って行けば大丈夫だろう。

 俺は最初、また偽の身分証明書とかを使って入るのかと思ったが、それは無理らしい。セキュリティは万全という訳だ。おそらく、最初に身分証を貰えたのはカルター王の計らいみたいなものだったのだろう。


 因みに飛んで行くか、地下を進むかとも思ったが、こちらもダメ。地上はおよそ上空1000キロまで揚力が失われる仕掛けで、鳥すらも一度壁の上に降りないといけないらしい。地下も結構深くまであり、しかもその下にはセンサーがあるそうだ。

 どちらにしても、越えることは出来ても同時にばれてしまう。あまり騒ぎになったら、今度は人間世界で移動が困難になるだろう。


「じゃあ行ってくる。みんな、朗報を楽しみにしていてくれ」


 そう言いながら、2階でこちらを覗いているユニカに手を振って出発だ。

 これでやっと人間と話し合える。これ以上、無駄な血が流れないように……。





 ◇     ◇     ◇





 魔王がホテルを出発した日。

 碧色の祝福に守られし栄光暦218年3月13日。

 東の大国ジェルケンブール王国は、ティランド連合王国へと攻め入った。

 第一次動員総兵力は、正規兵士800万人。民兵7500万人。飛行騎兵2千騎。大型飛甲板12万枚。そしてその中に、鋼のケンタウロスの姿が混じる。


 およそ4000キロメートルに渡る国境線全域からの進軍。正規の兵士だけでも、1回の魔族領遠征に相当する軍勢だ。

 もし人工衛星などがあれば、国境線に沿って燃え上がる炎が見えただろう。


 その報告を、カルターは執務室で聞いた。


「そうか……仕掛けてきたか」


 慌ただしく報告に来た事務官に対し、カルターも、また同席していたハーバレス宰相にも、動揺は見られない。

 内心では驚いている。だがそれ以上に、結局こうなったかという思いの方が強かったからだ。


(お互い生きていたら……か。オスピアめ……)


 おそらく、あの通信会談の時点で既に分かっていたのだろう。慧眼には恐れ入るが、もし条約違反をする国があればジェルケンブール王国だろうとの予測もあった。

 彼らが魔族領の次は自分達の番だと思っていたように、世界もまた、魔族領の次はあの国だと思っていたのだから。これはある意味、お互い様というものだ。


「しかし、我々も舐められたものだな」


 多少、面白そうな感情の籠るカルターの言葉に、ハーバレス宰相も頷いた。


「我々がどんな国だったのかを、少し思い出せてやるのも一興でしょう」


 ティランド連合王国。徹底した軍事政策を行ってきた軍事国家。

 軍事しか知らない、戦しか出来ない……その弊害は、何処の国もが知るところだ。

 だが逆に言えば、ただそれだけで人類社会を生き抜き、超大国にまで拡張した国家。こと戦争においてのみなら、何処の国にも負けないだけの事をしてきたのだ。


「北の飛行騎兵は残し、他は動かす。コンセシールの包囲も解いて良い。先手は取られたが、ただそれだけの事だ」


 既に続々と、各地からの急報がもたらされている。カルターの意識は完全に軍務にシフトし、対策を考え始めた。だが頭の隅に、一人の男の影が浮かぶ。

 ジェルケンブール王国軍に混ざっているという人馬騎兵――コンセシール商国、いやリッツェルネール……奴が動いていた事は間違いない。さて、いったいこの戦争に、どれだけ関与しているのか。

 常識で考えれば、小国の一武官が大国の戦略に係わる事は無い。だが商人という側面から考えれば、関与の余地はいくらでもある。


「俺も出る。王位継承順位を軍事態勢に変更しておけ」


「畏まりました。それで、浮遊城はいかが致しますか?」


 浮遊城、人類最強の決戦兵器。この世界には、現在11の浮遊城が存在する。

 中央を介して作れらた、七つの門を守護する七つ。ティランド連合王国、ハルタール帝国、ジェルケンブール王国がそれぞれ1つ。そしてムーオス自由帝国が建造中の1つだ。


 建設には最低でも三百年、長いものでは七百年の歳月がかかっている。更に武装の準備にも百年以上が必要となる。膨大な物資と資金、そして時間を消費し、維持するだけでも大変なものだが、その戦闘力は折り紙付きだ。

 もし万が一失えば、残った方がこの戦争で勝利する。誰もがそう考えるだけの物であり、それ故にいきなりの博打では使えない。

 出すとしたら、最後の最後、それを使わなければ滅びる所まで追い詰められてからだろう。

 その為――


「動かさん、向こうも動かさないだろうしな」


 深々としたハーバレス宰相の礼を見ることなく、カルターは慌ただしく執務室を飛び出していった。




 ◇     ◇     ◇




 火山帯――

 魔王が到着すると同時に、大量の灼熱の翼竜(ファイヤーワイバーン)が群がってくる。


「魔王ー、今日はどこ行くの?」

「なになにー? 用事?」

「また魔力の供給? いいよー、自由に入って行って」


 その手前、亜人達の森で集まって来なかったのは、彼らなりに他の領域を気遣っての事だろう。俺が考えているより、彼らの意識は高かったのだ。


「いや、今日は移動ともう一つ用事があってな。首無し騎士(デュラハン)はいるかー?」


「なんでしょうか、魔王様」


 俺の声に応えたのは、なんかいつもより少し小さく、可愛らしい声の首無し騎士(デュラハン)だった。見た目は全身鎧の首無し幼女といった感じだろうか? 等身の関係で妙に可愛らしく見える。馬も、なんかポニーの子供のような感じだ。いや待て――


「シャルネーゼはまだ戻ってないのか? それと、次に指示した奴は?」


「さぁ? 誰も戻っていませんのよ。わたくし、新人ですし」


 ちらっとエヴィアを見る……。


「リアンヌの丘で一人死んだから、代わりに一人湧いたかな。精霊は環境と魔力があれば一定数が維持されるよ」


 沼の精霊もそうだったか……と思いつつも、やってしまった感が重くのしかかる。


「完全に失敗した―!」


 二重遭難の可能性を考えてはいたが、本当にやらかすとは思っていなかった。

 彼女らの脳筋っぷりを甘く見過ぎていた。ここで残る一人に指示を出したら、そのまま3重遭難確定だろう。やむを得ない、最後の手段だ。


首無し騎士(デュラハン)の領域移動を禁止する)


「魔王様! 酷いですわ!」


 すぐさま新人首無し騎士(デュラハン)から苦情が来るが、それは知った事ではない。と言うよりも……。


首無し騎士(デュラハン)の領域移動を許可する)


 新人首無し騎士(デュラハン)は不思議そうに首をかしげているが、おそらくこれで伝わったはずだ。

 シャルネーゼは馬鹿ではない……いや訂正、ものすごく馬鹿という程ではない。異変を察知すれば、何かあったと理解して戻って来るだろう。

 ただ死霊(レイス)の様な速さは無いから、それまで待つわけにもいかない。


「領域に描いた文字は、どのくらいで消えるんだっけ?」


「軽い傷程度でアレバ、1日もあれば修復されマスネ」


 笑う仕草のゲルニッヒ。うん、そうだよね……。


 結局またもや灼熱の翼竜(ファイヤーワイバーン)の子供達に揉みくちゃにされながらも、何とか卵の殻をゲット。


「上陸ポイントを書き込んでくれ」


 エヴィア……ではなくゲルニッヒに渡す。昔見たエヴィアの書いた地図は、結構アバウト過ぎたからな。

 それで試しに任せたわけだが、こちらはこだわりの逸品という奴だろうか。海岸線のギザギザまでかなり細かく書き込んでいる。まだ実際には行った事は無いが、かなり正確なのだろう。後は――


「魔王はぷんすか丸だぞっと。この場所に集合せよ」


 首無し騎士(デュラハン)語でメッセージを書き込んでようやく完了。まさかシャルネーゼを呼び戻すのに、これほど手間がかかるとは思わなかったよ。今度合流したら、もう絶対に手放さないようにしよう。


「ソレは結婚すると言う事デスカ?」


「絶対に違うからな!」


 心の底からきっちり否定しておかないと、何をしでかすか分からないのが魔人の怖さでもある。だがそれよりも、俺は先ほどの正確な地図を見て少し思う所があった。


「ゲルニッヒ、世界地図を書いてくれ。地形の詳細とかは拘らなくていいが、面積とかは少し正確にだ」


「地面にで良いのデスネ」


 こちらの意図を察し、地面にガリガリと地図を書き始める。

 やはり、世界はかつてエヴィアが描いたように歪んだ菱形だ。だが少し違う点がある。

 続いて描かれた魔族領を囲う壁。その内側は大陸全体からすれば確かに小さいが、俺が思っていたほどには小さくない。おおよそ、地球でいえばEUくらいの広さがありそうだ。

 そしてその中に描かれる残っている魔族領。これは本当に小さなものだ。東西に広がる白き苔の領域以南は全て取られ、北側も炎と石獣の領域や亜人の森、それに火山帯周辺まで――およそ全体の半分ほど侵攻されている。


「ありがとう。大体判ったよ」


 初めて壁まで行った時、取られた魔族領の広さは予想が付いていた。だがこれで確信に変わったと言って良いだろう。


「まおー……」


 スースィリアの心配そうな様子も判る。あの日から、この件に関してずっと気にされている事も。だがこれは、いつかどこかで決断しなければいけない事だった。





この作品をお読みいただきありがとうございます。

もし続きが気になっていただけましたら、ブクマしてじっくり読んで頂けると幸いです。

この物語がいいかなと思っていただけましたら、この段階での評価も入れて頂けると嬉しいです。。

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