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062   【 凌辱 】

 何だろう? 寝付けない。

 結局、彼女をホテルへ連れて行って良いのかの思案が(まと)まらず、今日も魔王の居城で一泊する事になった。

 寝る場所は魔王の私室。やたら粗末な古いベッドだが、幸いにも人間の重みに耐えるだけの丈夫さは備えていた。


 だが、今日はなかなか眠りに入れない。それどころか、俺の下半身は超元気。

 多分、あの彼女のせいだ。


 大きな紺色の目に青色の髪。ちょっと童顔で可愛いタイプの顔つきだが、実際には俺よりずっと大人なんだろう。あの強烈な瞳……俺を殺す、必ず殺す、絶対に殺す、そういった強い意志を感じた。

 手足は棒のように細くお尻も小さかったが、胸はちょっとは有りそうだった。


 そしてあのセリフ。


「この貧相な体ですが、好きなようにお使い下さい……か」


 そっちの趣味があるわけだは無い。むしろ、あんな言葉を言わせてしまったら男として――いや人間として失格だ。

 しかし澄んだ愛らしい声であんな台詞を吐かれては、グッと来ない方がおかしい。でもやっぱり、あの瞳は本気で怖い。


 そんな複雑な感情に体が反応してしまっているのだろうか。

 だが快楽の為だと軽く考えていたが、いざ繁殖用と言われるとドン引きしてしまう。

 本来なら確かにその為の行為だ。だが俺には……。


(人の親になんて、なる資格は無いだろ……)


 それとも久々にエヴィアが蜜蟻の蜜を持ってきたので、最初の頃を思い出していたからだろうか。

 そういえば自分が封じられていた頃、女性の体に過剰に反応していた気がする。あれは人間として生きていくために、パートナーを作れと言う意味合いがあったのだろうか……。

 ぼんやりとした頭でそんな事を考えていると、なにか聞こえている気がする。

 扉の向こう……玉座がある大ホールの方か……?



「判っているわよ。覚悟は……出来ているわ」


 これは……女性の声か?

 エヴィアやスースィリアではないし、ルリアでもないな。もっと澄んだ声だ。


 他の死霊(レイス)同士の会話か何かだろうか? そんなことを考えていると、バンっ! と勢いよく扉が開く。


 ――なんだ!?


 異変を感じて咄嗟(とっさ)に起きようとするが、体が痺れた様に動かない。

 入ってきたのはエヴィアが拉致ってきた少女。倉庫に放り込んであったはずだ!

 身の危険を感じる。だが死の予感はしない。そもそも、この状況を魔人が許すのか!?


 少女はゆっくりと歩き、ベッドの横に立つ。

 武器の様なものは持っていない。だがこの状況だ、紐一本あれば女性でもたやすく殺せる。

 誰か!? 誰かいないのか? そう目だけで見渡すと……居た、エヴィアだ。

 扉の隅で、じっとこっちを見ている。だがどう見ても、助けようとする姿じゃない。

 しまった、こいつが主犯か!


 ――とにかくストップだエヴィア。状況の意味が解らん!


 分かった様に、コクコクと(うなず)くエヴィア。だが状況は変わらない。

 ダメだ、意識がぼんやりとする。絶対に通じていない!


 そうこうしている内に、少女は衣服がはらりと落ちる。やばい、見てはいけないような、見たいような……。


「何を……する……つもりだ……」


 全力で会話しようとしても、蚊の鳴くような小さな声しか出ない。

 これは間違いなく、一服盛られた感じだ!


 だが少女は答えない。何も言わず全ての衣服を脱ぎ去ると、俺の上に馬乗りになる。

 想像していたよりも、だいぶ大きく形の良い乳房、丸みを帯びたお腹。そしてその下までもがハッキリと見える。


 一糸纏わぬ姿の胸元に、首から下げた卵のような形の首飾りが揺れている。

 そこに描かれた黄色と緑の鱗模様……見覚えのある文字だ。悠久の希望を求め、永劫の明日の世界へ。オルコスと同じ……!

 彼を殺したトラウマが、冷たい刃となって心臓に刺さる。


「馬鹿な……考えは……やめ……ろ」


 手を伸ばして退けようとするが、まったく力が入らない。微かに動いた手は痺れた様に震えるだけだ。これではどうしようもない。


「話し……合おう。要求が……あるなら……聞く……」


「ぐだぐだうるさい! これからアンタを、犯す!」





 ◇     ◇     ◇





 その1時間ほど前、倉庫に放り込まれたユニカ・リーゼルコニムは、目の前に置かれた物を見て愕然となった。

 意識ははっきりしているのに、体は糸が切れた人形の様に、ガクンと膝から崩れる。


 目の前にあったのは粗末な木の看板。それ自体は普通の物だ。だがそこに張られた一枚の白い布。

 ナイフを突き立て張られたそれには『死ね!』と書かれた文字が見える。見間違えるわけがない、自分が書いたものだ。


 今まで悪い事は全て魔族のせいだった。気に入らない事があれば魔族を罵り、いつか魔族を殺すんだと豪語した。反論も反撃も無かったからだ。そこが人間領だったからだ。

 だがここは違う、魔族領だ。魔族に対する悪意も敵意も、そのまま自分に戻って来ると何故分からなかったのだろう。

 あの魔族は自分を探しに来たのだ。自分の軽はずみな行動が、仲間を殺してしまったのだ。



 腰が抜けて動けない彼女の背後で扉が開き、魔人エヴィアが入って来る。


「食事かな。一応は生かす事が決まったから、当面は殺さないよ」


 そう言って、上から顔を覗き込みムカデの串焼きを2本渡す。

 その顔は完全に無表情で、何を考えているのかは分からない。

 さっきこの魔族は自分を食べると言った。串刺しにされたムカデの姿が、自分の姿と重なって見える。


「当面は……よね。ねぇ、ここは何処なの? 私をどうしたいの!」


 勇気を振り絞り声を出す。

 ユニカは必死だ。なんと言っても、これからの命運が掛かっている。

 自分の仲間を殺して(さら)ってきた相手に聞く自分が愚かしい。だがそう思いながらも聞かずにはいられない。


「それは答えられないかな。繁殖用に持ってきたけど、魔王はいらないって。エヴィアもいらないから、決定は魔王に任せたよ」


「それって結局殺すって事じゃない!」


 外見上は何の変化も無いが、これにはエヴィアは驚いていた。殺さないと宣言したはずなのに、この人間はどうしてそう思ったのだろうかと。

 魔王とコミュニケーションが取れていたのは、魔王が合わせてくれていたからなのだろうか?

 かなり人間に近いと自負していた言語力に齟齬(そご)があるのだろうか?

 エヴィアの頭に疑問が湧く。


「違うかな。処分が決まるまでは生かしておく……で良いのかな?」


「かなかなじゃないわよ! それじゃ同じじゃない!」


 だがエヴィアには理解できない。ユニカにもどうする事も出来ない。

 エヴィアは混乱し、ユニカは生きるために知恵を絞り、最初に話を持ち出したのはユニカであった。


「ねえ、魔王の子供は強力な力を持つって言うのは本当なの?」


「それは本当かな。魔王の子供は強力な力の一部を引き継ぐよ」


 ――あれ? 今の魔王って引き継ぐ程の力は無かったかな?


 一瞬そんな考えがよぎるが、既にユニカは思考に入っている。生きるために道……いや、それだけじゃない。人類の為に出来る事、反撃の手段。


「良いわ、産んであげようじゃない。魔王の子供を!」


 起死回生の一案。魔王の子供に魔王を殺させる。勿論、邪悪な魔族と交わったとなれば、自分は同じ人間達に殺されるだろう。だがそれが何だと言うのだ。

 救世主などになるつもりはない。魔女として殺されても構わない。人類の義務として、生きる手段として、自分は魔王を殺す毒を手にするのだ。





 ◇     ◇     ◇





 最初は、身の丈よりも少し上の、オシャレなレストランで食事。

 場所は、出来る限り有名なホテルの部屋。綺麗な夜景か砂浜が見えれば更に良い。

 そして互いの愛を確かめ合いながら、心から相手を尊重し、優しく結ばれる。

 そんな日を秘かに夢見ていた……。


「犯された……」


 相和義輝(あいわよしき)は放心しながら泣いていた。めそめそと……。


「男がいつまでもメソメソ泣いてるんじゃないわよ! それでどうなの?」


 一喝する少女の横では、エヴィアが下腹部に手を当てて何かを調べているようだ。

 そんなんで何かわかるのか……?



 ずぶり――それは、自分の体にナイフを突き立てるかのような行為だった。

 涙を流し、歯を食いしばり、片手で首飾りを握り締め、そして俺を憎しみの瞳で睨みつけたまま、彼女は体を動かした。

 そんな彼女の姿を、麻痺して動けない俺は混濁した思考の中で眺めていた。

 互いに愛は無く、こちらは何も理解できず、そして彼女は憎しみだけを抱いていた。


(どうしてこんな事になったのだろう……)


「多分ダメかな? 上手くいっていないよ」


「多分じゃないわよ! 本当にダメなの!?」


 エヴィアの暢気そうな声と、彼女の怒声は実に対照的だ。

 だがそんな感慨は許されない。


「もう一度するわよ!」


「ま……待て……冷静に……なれ……」


「うるさい! あんたは天井のシミでも数えていればいいのよ!」


 ――何を盛られたか分からないが体が動かない……エヴィア、なんとかしろ!


「亜人達が交尾の時に食べるコロアネの実かな。3日間は続けることが出来るから大丈夫だよ」


 ――そっちじゃねぇ!



「今度はどうなのよ!」


「多分大丈夫かな。でもここからは運しだいだと思うよ」


「運!? 確実性は無いの!?」


「無いかなー。でも運命は頑張る人の味方だって誰かが言ってたよ」


 ヒステリックな少女とのんびりとしたエヴィア。

 ようやく俺が解放されたのは、6回目が終わった後だった。


「まあいいわ、帰る!」


「お布団用意するかな」


 ――いやまてエヴィア! お前はまず、この状況を何とかしていけ!


「あ、そうだったかな。忘れていたよ」


 そう言うと、俺の大事なところに変な生物をスポっと被せる。

 ぶよぶよした白い体。鮮やかな青い縦縞が入っているが、尾の部分は真っ白だ。


「なん……だ、これ……」


「アオシマオジロチンコスウオオナマコかな。こういう時に人間が使うんだって、ゲルニッヒが持ってきてくれたよ」


 ――やっぱりあいつも一枚噛んでいたのか!


 無情にも閉まる扉。もそもそと動き出す大ナマコ。天井で、あらあらまあまあとこっちを見ている死霊(レイス)

 いやだ! これはいやだぁー!

 頼む、せめて……せめてサキュバスを呼んでくれぇ―!


 だが、相和義輝(あいわよしき)の心の叫びに応える者は、誰もいなかった。





この作品をお読みいただきありがとうございます。

もし続きが気になっていただけましたら、ブクマしてじっくり読んで頂けると幸いです。

この物語がいいかなと思っていただけましたら、この段階での評価も入れて頂けると嬉しいです。。

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