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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第三章   儚く消えて  】
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055   【 戦いの終わり(1) 】

 ケーバッハを倒し、再び亜人達の様子を確認する。

 もうこれ以上は魔人を戦いには行かせられない。打てる手と言えば、首無し騎士(デュラハン)達にもう一回行って貰うくらいだろう。

 だが人類軍側は、既に目に見えて崩れ始めていた。

 指揮がうまくいっていないのだろうか? 崩れた部分の立て直しが遅く、そこから亜人達が次々侵入しては蹂躙してゆく。


「そういや、シャルネーゼはどうして戻って来たんだ?」


「我々精霊に干渉する人間がいてな。ほら、そこで転がっている奴だ。それで一応確認に戻って来たのだよ。盾の道を抜けるのに少々手間取って遅くなってしまったのだがな」


「成程、来る時に余計なちょっかいを出していなければ、死んでいたのは俺の方だったわけか……」


 色々言われたが、こいつの言葉は俺に大きな意味を残さなかった。

 確かに境遇は理解するし、色々とあったのだろう。その言葉に動揺もした。

 しかし、こいつは聖水が効かない事を知らなかった。


 毒と言われたら毒……試す機会はいくらでもあっただろうに、それをしてこなかった男。

 最後の最後で、この男の言葉は軽くなってしまった。そんな言葉で動くほど、人とは軽い生き物ではないのだ。

 そしてその考えは、そのまま自分自身に返ってくる。


 オルコスに人類との平和とか言ったが、あの時の俺の言葉の軽さはまさに風船のようだ。

 それじゃ……動かないよな。

 言葉の重み、実績。今目の前で行われている大量殺戮にも、必ず意味を持たせなければいけない……。


「しかしこのまま殺し続けても意味は無い。亜人達はどうせ止まらないと思うが、逃げるようには伝えるべきか……」


 もう完全に決着はついている。魔王が出て行って、諸君らの抵抗はもう終わりだとでも宣言でもすれば、かなりの兵は逃げるだろう……。

 勿論、人間が今後も戦いをやめないのであれば、逃げた兵達とはいずれまた戦う事になる。ならここで、少しでも多く殺すのが勝利への道と言うものだ。

 だが俺は、まだ人の心は失いたくなない……。


 と言っても、満身創痍のこの状態。説得力無さ過ぎだよなーとも思う。

 出て行ったところで、逆に人間の士気を上げかねない。

 悩みに悩んで手を打てないでいると、シャルネーゼの高らかな笑い声が響く。


「ハッハッハ、魔王よ。その考えは少し遅かったようだぞ。また大した援軍を呼んだものだ」


 そろそろ空が茜色に染まる頃、遠くから見える土煙。それは見る間に地平線を埋め尽くし、真っ白い何かが津波のように迫ってくる。

 その迫力、その脅威は、人間どころか俺にも死を覚悟させるほどだ!


「エヴィア、俺あんなの呼んでない!」


「エヴィアも知らないかな。後の後悔先に立たずって誰かが言ってたよ」



 阿鼻叫喚の戦場になだれ込む真っ白な軍隊蟻の巨大な群れ。それは一瞬にして人間の陣地、要塞、そして亜人達をも飲み込んだ。……って亜人!


「アリゴトキガー!」

 〈 肉ー 〉


「なんか亜人と蟻が戦闘始めっちゃったんだけど!」


「軍隊蟻にとっては、食べられれば何でも一緒かな」


 ぐあー! そんなのに来られたら亜人を護った意味が無い!

 既に戦場は真っ白に染まり、あちらこちらで人間、亜人、軍隊蟻の三つ巴の戦いが始まっている。


「そもそもあの蟻、どっから来たんだよ!」


「生息地域は苔の土地かな。多分亜人達の領域制限を解除した時に、一緒に解除したと思うよ」


 それはまずい、マズ過ぎる。俺の力の無さが生んだ結果か。いや、正しくは制御できない未熟さか。


「蟻たちよ、生息域に戻れ! 頼む、戻ってくれ!」


 〈 マダタリナイ 〉〈 肉 〉〈 肉 〉〈 肉 〉〈 肉 〉〈 肉 〉

 〈 肉 〉〈 ドウシテ? 〉〈 肉 〉〈 モット、タベル 〉〈 肉 〉

 〈 肉 〉〈 マオウガイル 〉〈 肉 〉〈 肉 〉〈 ココデフエル 〉

 〈 肉 〉〈 肉 〉〈 アツメテフエル 〉〈 コレウマイ 〉〈 肉 〉

 〈 ニクヲアツメロ 〉〈 ダンゴニシロー 〉〈 肉 〉〈 クワセロ 〉

 〈 マオウ? 〉〈 肉 〉〈 メイレイ? 〉〈 肉 〉〈 ニクハ? 〉

 〈 肉 〉〈 ココデ、フエヨウ 〉〈 肉 〉〈 モドル? 〉〈 肉 〉


「うるせー! 帰れー!」


 既に軍隊蟻は俺の体にも群がって、食べていいかを迷っているようだ。生きた心地がしないとは正にこの事だ。


「埋め合わせは必ずするから、早く帰ってくれー!」


 ようやく軍隊蟻が方向転換をして、自らの領域へと戻った後……そこにはさっきまでの戦いの喧騒は無く、静かで無残な光景が広がっていた。

 幸い亜人達は遠くまでは追いかけなかった。彼らも疲れているのだろう。


 戦場に転がる大量の武器や盾、鎧。装甲騎兵や人馬騎兵の残骸。僅かの肉片も残らず、ただ血だけが大きな水たまりのように数キロにも渡って続いている。

 要塞の中にも軍隊蟻は入り込んだのだろう。彼らの作った防衛陣地も既に沈黙している。

 昨日の深夜から始まった長い戦いも、ようやく終わったのだ……。



 《 魔王よ、鋏を持って行かれた 》


「取り戻せー!」





 ◇     ◇     ◇





 リアンヌの丘より北に230キロメートル。

 間を巻貝と天嶮(てんけん)の領域により隔離されたここには、アドラース王国軍110万人が駐屯していた。

 だが夕日に染まる駐屯地には、生きている人間は誰もいない。


 地面から伸びる無数の石の杭。様々な角度、長さのその先端には、モズのはやにえの様に人間や馬、飛甲板等の人間の機械が突き刺さっている。

 その周囲には拳大から10メートル級までの様々な巻貝が大地を埋めるほどに密集し、器用に先端に刺さった肉を食べていた。


 ――いや、一人。致命傷を受け、今にも死にそうな男が一人いる。

 そしてその(かたわら)には、2体の異形の物が立っていた。

 地を埋める巻貝達も、その一角には立ち入らない。


 一体はやじろべえの様な逆三角の体に、大豆のような形をした頭部。それに人間の手のようなものが四本、体にピッタリと張り付いている。


 もう一体は八角柱にタコの足を付けたような形状だ。


 その2体が、今にも死にそうな男を覗き込んでいる。


「コレから貴方は死にます、ササ、今、何を考えてイマスカ? どんなお気持ちデスカ?」


 どちらかの異形が、死に掛けの男に問う。

 少し奇妙な発音の、抑揚の全くない言葉。


「う、うう……」


 だが、男の目は既に見えていないようだ。

 傷も深く、低く呻いただけで返答は無い。


「サア、教えてクダサイ。死というモノヲ。どのような感触なのでショウカ?」


「剣……を……」


「ケン……ああ、これデスネ。さぁ、ドウゾ」


 やじろべえの体をした異形から、一本の手が剥がれ、近くに落ちていた誰かの剣を掴む。

 そしてそれを、しっかりと男の手に握らせると再び問う。


「サア、剣は貴方の手にありマスヨ。ドウデショウ? 今のご気分はいかがデスカ?」


「感謝……する……」


「カンシャ? 感謝デスカ? 何に感謝したのデスカ? 神デスカ? ソレとも生まれてきたことにデスカ? 貴方は死ぬのデス。ソノ感謝は、何に向けられたものなのデスカ? 貴方には何が見えているのデスカ?」


 だが既に男は事切れている。

 一陣の風が吹き、2体の異形はいずこかへと消え去っていた。





 ◇     ◇     ◇





 リアンヌの丘での戦いが終わる頃、リッツェルネールはアイオネアの門近くを哨戒飛行していた。

 飛甲騎兵は勿論、商国の飛甲板も軍隊蟻の進行先から外れていたため、駐屯地の人員には殆ど被害が無かったのは幸いだった。

 その間に色々とケインブラと話をしていたのだが、リッツェルネールは軽い違和感を感じていた。


(これほどまでに、口の軽い男だっただろうか……)


 ケインブラとは一般兵士時代から何度も共に戦った仲だ。フォースノー家の人間として情報通信を主任務にしているが、自ら武器を持ち戦闘で戦う事もある果敢な男。

 その功績や情報能力の高さから、コンセシール商国のナンバー4にまで上り詰めた。

 当然口も堅く、大切な事をベラベラしゃべる男ではない。


 だが駐屯地の様子があまりに堪えたのか、それとも明確に貸金庫の番号を突き付けたからであろうか、ケインブラは意外な事まで良くしゃべってくれた。

 それだけに、その内容には疑惑の目が向く。


(多量の嘘が混ざっている公算が大きい……)


 飛行騎兵の中では真偽など確認できないし、後から嘘だったと言っても糾弾できる立場にはない。

 だがイリオンの残してくれたデーターとの突合せでは全てが真実だった。

 ケインブラは、メリオの通信貝の中身を全て把握していた……それはさすがに不可能だろう。


「それでは魔族領侵攻戦の全人事は、アンドルスフ商家が決めていたのですね」


「そ、そうだ……我々はその指示で動いた。マインハーゼン商家もコルホナイツ商家も同じだ。我らはアンドルスフ商家の手足にすぎない」


 アンドルスフ商家……コンセシール商国のナンバー2の血族。

 今のトップはイェア・アンドルスフ。天才的な頭脳と眩い美貌。圧倒的なカリスマで、他の商家までをも支配する魔女。噂では、四大国全てに融通を利かせられるだけのパイプを持つという。

 正直相手が悪い。迂闊な動きをすれば簡単に潰されるだろう。


「では、あの会食にマリッカ・アンドルスフが居たのはそのためですか?」


「いいや、彼女の事は何も知らされていない。本当だ! 彼女はキスカの連れで、俺には関係は無い」


(やはりケインブラは、何かを恐れている……)


「分かりました。その件はキスカさんに聞くとしましょう。では他に……」


 アイオネアの門へ到着するには、まだ少しの時間があった。





この作品をお読みいただきありがとうございます。

もし続きが気になっていただけましたら、ブクマしてじっくり読んで頂けると幸いです。

この物語がいいかなと思っていただけましたら、この段階での評価も入れて頂けると嬉しいです。。

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