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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第三章   儚く消えて  】
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054-1 【 死闘 】

「こちらも会うのは初めてですが……結構、私の事は覚えているようですね」


 《 魔人はヨハンの事は忘れない 》


「その名は捨てましたよ。人として生きていくためにね」


 言うや否や、後ろに跳躍して落ちていた(フランベルジュ)を拾う。

 また二刀流に逆戻りだが、針が飛んでこないのはありがたい。


 ――が、(フランベルジュ)から一瞬だけ手を離すと、間髪入れずに投擲針を投げてくる。

 アブねぇ! 器用すぎるだろ!


 だがその針は目の前で切断され、力なく地面に落ちる。

 距離は十分、あの程度ならエヴィアの触手で防ぐのも容易だ。

 取り敢えずは少し膠着したって事だな。こいつには効きたい事が山ほどある。


「人として生きていくってどういう事だよ」


「父が死んだ時にそうなったのですよ。貴方にとって、何代前の魔王かは知りませんがね」


 じりじりとヨーツケールから距離を離すケーバッハ。


「その様子では……貴方は随分無知のようだ。知っていますか? 歴代の魔王がなぜ死んだのかを。そこの魔人共に殺されたのですよ!」


 音も無く跳躍したヨーツケールの左二本の鋏がケーバッハを襲う。

 当たれば即死は間違いない、鉄のケンタウルスさえ葬った必殺の一撃。


「ぬうん!」


 だがケーバッハは(フランベルジュ)を交差してそれを受け止める。

 金属と金属がぶつかり合う衝撃音が響き、押された奴の足が地面を抉る。だが少し妙だ……受け止められた? あの一撃が?


「さありゃー!」


 両手の(フランベルジュ)による乱打! 乱打! 乱打!

 逆に猛攻を受け、ヨーツケールの黒い艶やかな体に無数の傷が作られていく。

 完全に一方的な攻撃。反撃の暇すらなく、じりじりと後退するだけだ。


 どう見ても劣勢だ。何かがおかしい……いつものキレがない。ヨーツケールはツンデレだから、言動と行動が一致していないのか?


 ようやく猛攻を左の鋏で受け止め、右の鋏による強烈なフックを放つ。重心ごと移動させた強烈な一撃……だがそれは易々と躱され、逆にその巨体は半回転して尻もちをついてしまう。

 その一瞬の隙を見逃さず、ケーバッハがこちらに一直線に向かってくるが――


「魔王!」


 間に割って入るエヴィア。

 しかし――


「ぬぅん!」


 勢いよく振り下ろしたケーバッハの(フランベルジュ)が、エヴィアの左肩から(へそ)までを一気に切り裂いた。


「エヴィア!」


 だが出血は無い。白い餅の様な断面も、見えない何かに繋がれているようにじわじわと戻りつつある。

 制止するケーバッハ、それを睨みつけるエヴィア。まるで一瞬時が止まったかのように硬直する。


「なるほど……むんっ!」


 背をそらし両手を広げると同時に、ブチブチと大量の糸が千切れる音が鳴る。そのまま後ろに跳躍し、エヴィアから距離を取る。

 ダッフルコートのあちらこちらに切れ目が見えるが、どう見ても金属質だ。ワイヤーを編み込んだ服。あれも鎧の一種なのか。


「やれやれ、このコートはもう作れる職人がいないのですがね。知っていますか、黒骨病を。あれで全員死んでしまったのですよ」


「悪いが知らないな。病気の事まで責任は持てないよ」


 軽口を叩きながらも状況を確認する。亜人達は暴れるヨーツケールから離れるように周囲を開けているが、キョロキョロしているだけで理解できないと言った顔をしている。


 エヴィアは触手で動きを封じようとしたのだろうが、上手くいかなかったらしい。先ほどの音は触手が大量に引き千切られた音か。


 ヨーツケールもようやく起き上がるが、その口からは白い泡状の液体を垂れ流している。


 ――しまった、疲労だ!

 考えてみれば、ヨーツケールは殆ど休息をしないまま戦いっぱなしだ。しかもたった今まで、巨大な鋼鉄のケンタウロスと戦っていたばかりなのだ。


 魔人と言えども休息は必要。一番最初に考えていた事なのに、いざ実戦で失念するとは何と愚かな事か!


「やはり魔人は強い。2匹も居てはなかなか目的を達成できませんな」


 そう言いながらこちらをチラチラと見てくる。目的が俺の殺害なのは言うまでもないだろう。逃げるか戦うか……どちらの道も厳しいが、おそらくこの状況で逃げられるほど甘くはないだろう。

 それに俺は今、どうしても聞いておきたい事があった。


「エヴィア、歴代の魔王が魔人に殺されたっていうのは本当なのか?」


 《 そうだ、魔王よ。我ら魔人が殺した 》


 代わりにヨーツケールが答える。


「なら俺も、いつかは魔人に殺されるのか?」


 しばしの沈黙。そしてエヴィアがゆっくりとこちらを振り向く。

 そこには、今まで見たことも無いほどに深い悲しみを湛えた瞳。


「もし魔王がそれを望むなら、エヴィアが魔王を殺すよ」


 ……分かった。今はそれだけで十分だ。


「詳しい事は後で聞く。エヴィア、ヨーツケール、その男を殺せ!」


 刹那、ヨーツケールが動く。残った体力を振り絞り、魔人本来の機敏かつ重厚な動き。

 瞬間移動の様にケーバッハの眼前に移動すると、両上腕の巨大な鋏を振り上げ、落とす。

 目で追えない程の速度で叩きつけられる5メートルの巨大な塊。


 だが、ケーバッハはむしろこの時を待っていた。

 左の鋏を交わすと同時に一閃――180度の弧を描くように振られた(フランベルジュ)が、右上の鋏と胴の間、繋いでいる腕を切り裂いた。

 それは完璧に決まったカウンター。今までの様に衝撃で外れたのとは違う、ゴトリと落ちた鋏は黒から白へと色を変える。


 間髪入れずに音も無くエヴィアの触手が攻撃をするが――


「少ないですな。もうネタ切れですか」


 まるで意に介さぬと言うように突進すると、真上から垂直の一撃放つ。修復されたばかりのエヴィアの左肩から左胸までが、再びザックリと切り裂かれる。


「いったあぁぁ!」


「ほう、当たりましたか」


 エヴィアの悲鳴と勝ち誇ったようなケーバッハの言葉。エヴィアが痛がった!?

 普段は魔人同士の体に腕だの牙だの突っ込んでいるが、互いに気にしているそぶりはない。だが一度だけ、エヴィアが痛がったことがある。スースィリアがエヴィアにちょっとお仕置きのようなことをした時だ。

 一回だけ、だが考えるべきだった。魔人には本体……弱点があるのか。


 その背後から再びヨーツケールが攻撃するが、再びカウンターが一閃。振り向きざまに放たれた強烈な突きを左上腕に受け、今度も根元から切断されてしまう。だが――


 ボキボキと金属と骨が砕ける音が響く。切り落とされた左の鋏が地面に落ちよりも早く、右の鋏がケーバッハの左腹を襲ったのだ。

 咄嗟に(フランベルジュ)で防いでいたが、その強烈な一撃を止める事は出来なかった。

 魔力で強化された左の(フランベルジュ)は砕け散り、小さな人間の体は軽々と吹き飛ばされる。


「ぐお!」


 吹き飛ばされた勢いでオーガの壁に当たると、そのままピンボールのように跳ね飛ばされ大地に叩きつけられる。

 左腕、肩、肋骨を砕かれ、折れた肋骨が灰を突き破る。吐き出された血が大地に大きな染みを作り、大の字の形でうつぶせに倒れたまま動かない。

 これで終わりかと思われた――だが、終わってなどはいなかったのだ。





この作品をお読みいただきありがとうございます。

もし続きが気になっていただけましたら、ブクマしてじっくり読んで頂けると幸いです。

この物語がいいかなと思っていただけましたら、この段階での評価も入れて頂けると嬉しいです。。

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