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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第三章   儚く消えて  】
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037   【 氷結の地 】

 辺り一面に広がる氷の大地。点在する立木には葉が見られず、一見すると朽ち木の様だ。


「寒いーーーー! 寒いぞーーーー!」


 特に強風などは吹いていない。だが凍てつく極寒の地を移動しているだけで骨まで凍らされそうだ。


 ここは氷結の地。人間ならもっと長い名前を付けそうだが、氷の大地しか見えないのだから仕方がない。

 雪がチラホラと舞い、地面は青白い氷に覆われている。

 ホテルから南に存在するこの地は、ホテルのあった廃墟と針葉樹の森、それにあと一つまだ行っていない地に囲まれているという。


 俺は各地を回って人類と戦う協力者を求めると決めたわけだが、ここで仲間にした生き物が外に出られるとは思わない。出たとしても炎の精霊程度のちょっとだろう。


 炎と石獣の領域から出た石獣達は、あの後自分達の住処に帰って行った。生活環境が適さないから、わざわざあそこにいる必要が無いのだ。出てきてくれたのも、俺の願いを魔人エヴィアが伝えてくれたからに過ぎない。

 そう、それぞれの領域に生きる物は、結局今住んでいる領域が一番居心地着が良いのだ。


「魔王様の水筒凍ってますわ。本当に寒そうですねー。死んじゃう前に、ちゃんと魔力くださいよ?」


 同行者は魔人エヴィア、魔人スースィリアといつものメンバーに加え死霊(レイス)のルリア。彼女を連れてきたのは、たまにホテルに戻して各地に飛んだ死霊(レイス)が集めた情報を確認するためだ。何か動きがあったら全力で戻らなければならない。


 スースィリアはいつもの様に頭をフワフワクッションに変えてくれているが、意外と温かさが無い。たまに蒸気を吹くけど、その熱は伝わって来ないようだ。仕方ないのでエヴィアが湯たんぽ変わりだが、小さな体は結構外気に左右されるので冷たい。


 仕方が無いので(わず)かな布の隙間に手を入れて暖を取る始末。端から見たら変質者だが、寒いんだから不可抗力だ。


「何で揉むかな?」


 ――本能です。


「ちょっと情けないかな。魔王は冬服だよ」


「情けなくてもい……温もりが欲しい……」


 入ってすぐにウサギや鹿、それに小さな昆虫はいたが、まさかあれに戦ってくれとは言えないだろう。

 こうしてしんしんと冷える中を移動していると、ようやく遠くに強大な生命を感じる。


「スースィリア、あそこへ行ってくれ」


 近づくにつれ、その姿は徐々に明らかになってくる。

 それはまるで氷の固まり。全身は少し透き通った青色で、地面の氷ともよく色合いがマッチしている。

 爬虫類を思わせるフォルム、巨大な翼、長い尾と口元から覗く牙。ドラゴンだ。

 だがどう考えても……


「あれはエヴィアの管轄だよね」


 今までのパターンを考えると、何かを食べる物は魔人に従い、魔力を欲するものは魔王の管轄だろう。そしてドラゴンはどう考えても前者だ。不死者(アンデット)も肉は食べるが、あれは栄養として必要なわけではないらしい。


 そしてこちらに気づくと、のっしのっしと集団でやってくる。かなりの群れ、100体から200体位か。

 それにデカい。4割方は尾の長さだが、最大個体の全長はおよそ60メートル。一般的なサイズでも30メートルほどだ。

 4足歩行で、頭の位置はスースィリアに乗っている俺の位置よりも高い。かなりの迫力だ。それに、ドラゴンというものを生で見るのはやっぱりワクワクする。


【 ようこそ魔王。我々氷結の竜(アイスドラゴン)は貴方を歓迎しよう 】


 ――軽い違和感。いや、それはすぐに判る。ついさっき考えていたではないか。


「君達は魔人に従っているのでは?」


【 魔人は我らが神。神に歓迎はしない。魔王はその友だから歓迎する 】


 今一つ意味が解らないが、氷結の竜(アイスドラゴン)達はエヴィアとスースィリアに頭を垂れ従っている……いや、崇めている様な姿勢を取る。


 それは周囲の静寂な世界と相まって、とても幻想的な景色だった。

 しかし、相和義輝(あいわよしき)は別の事を思う。その行為に対し、魔人エヴィアも魔人スースィリアも、優越感や楽しさを感じていない事が分かったからだ。


 友か……石獣は魔人の言葉に従った。悩み考える様子はなく即にだ。そしてドラゴンは神として崇める。まだ判らないが、魔人と対等な存在、いやそう認められているのは魔王だけなのだろうか。

 だとしたら、魔人の人生とはあまりにも寂しいのではないだろうか……


(本来なら、人間がそうであるべきじゃないのか……)


 そんな考えが泡のように浮かんで消える。結局、そうはならなかったのだ。理由はまだ分からない。だが、彼ら人類は敵となった……。


氷結の竜(アイスドラゴン)よ、一つ聞きたい」


【 何なりと 】


 一番大きなドラゴンの頭が、ギギギと鱗の擦れる音共にゆっくりとこちらに近づいてくる。目つきや言葉は温厚そうだが、正直言ってかなりの迫力だ。


「君たちは人間をどう思っている? 彼らはまだここには攻め込んでは来ていない。だが、いずれ来るかもしれない。そしてその時、俺は君達に戦ってくれと願うだろう。その時どうする?」


【 我等は人間と関係を断って久しい。もはや、彼らの瞳には我等は大きな魔族としか映るまい。だが、我等は彼らのぬくもりを忘れた事は無い 】


「それは戦わないという事か?」


【 そうではない。それが魔王の意志と言うのであれば、我等は幾らでも戦おう。それが魔人の意志だからだ 】


 魔人が決めた事……だから魔王に従うのか。

 人類と戦うと決めた事、実行した事、全部俺の意志だ。そして魔人達はそれに付いて来てくれる。


「なあ、エヴィア。魔人は俺に何をして欲しいんだ? つか、元々魔王って何のためにいるんだ?」


「前にも言ったかな。魔王は人類の敵だよ。でも、魔王が実際に何をするかは、全部魔王次第だよ。魔人はそれに協力するけど、指示は出さないの」


「少しくらいは意見してくれた方が嬉しいんだけどな」


「エヴィアは戦争には興味が無いから、知識が足りないかな。口は災いの元って誰かが言ってたよ」


 もうちょっと詳しい魔人に会わなければダメか。だが他にも魔人がいるなら、いずれ会えるだろう……それまで死なずに頑張れればだが。


 そんなやり取りの最中も、氷結の竜(アイスドラゴン)は微動だにせず首を垂れていた。

 この静かな空気のせいだろうか、どうも体がいつもよりも冷える。

 いや冷えるというより(こご)える感触だ。そろそろ日も暮れる、寒さが増してきたと言う事なのだろうか。


 ……いや違う! 何かがまとわりついている感覚。自分の周囲の大気から明確な意志の力を感じる。


「オイ!」


 〈 えへっ、ばれたー? 美味しかったよー 〉


 ヒュウっという一陣の風と共に精霊が飛び去ってゆく。ルリアがぷんすかしながら追いかけていったが、あれはどうしようもないだろう。


「なんか貯めてた魔力をごっそりと持っていかれたぞ! 本当に油断のならない世界だなここは!」


「油断以前に、魔王は魔力のコントロールが出来ないとだめかな。考える前に学べと誰かが言っていたよ。」


 なんか辛辣なエヴィアの言葉。


「なら、せめてコントロール方法を教えてくれよ」


「仕方がないかな。ここを抜けると大きな穴が沢山ある場所に出るよ。そこのサキュバスにお願いするね」


「さ、サキュバス!?」


 一般成人男性がファンタジー世界で会いたいモンスランキング(相和義輝(あいわよしき)調べ)上位に食い込むアレか!

 それは楽しみが一気に増えたな。さあ、行こう!


「魔王の不純さが一気に増えたかな」


 エヴィアの冷たい声と共にスースィリアがちょっと硬くなってくる。少し落ち着こう、俺。





 ◇     ◇     ◇





 その頃リッツェルネールは 世界連盟中央都市にいた。

 イリオンにはその間、しっかりと通信貝の使い方を覚えるようにと大量の教本を渡しておいた。彼女を置いて行くのは色々な意味で心配だったが、まあ大した情報は持っていない。

 精々何度か白き苔の領域に行った事を知っている程度だ。それなら漏れても対処できる。


 今日は到着のみで本番は明日以降となる。あの議会場で行われている茶番劇の裏で、軍務の実務協議があるので呼ばれたのだ。

 そこで彼は街を散策しながら色々な店を物色し、日が暮れた頃には石畳を敷かれた小さな路地裏を歩いていた。

 この町は魔力による灯りで照らされているが、それでも路地裏はかなり暗い。


「おうおう、兄ちゃん、良い恰好してるねぇ。どうだい、ちっと恵んでくれねぇか?」


 そこへ酒瓶を抱えた酔っ払いが絡んでくる。この街には浮浪者などは居ないが、どこかの国から来た商人か宗教関係者だろうか。


「ああ、構わないよ。酒が飲みたいならロンワ通りのシコーニャって店に行くと良いよ。あそこは安くていい酒が揃っているからね」


 そう言ってリッツェルネールは石畳に銀貨を三枚落とすと、それは狭い道にチャリンチャリーンと良い音を立てて響く。

 そうして去って行ったリッツェルネールの後に付いて来る人影。


「あの男をマークしろ。店もだ。コインも確認しろ、出来る限り穏便にな」


「かしこまりました」



 リッツェルネールも、自分に沢山の金魚の糞が付いていることを理解している。

 だが同様に、商国の重鎮として彼もそういった種類の人間を子飼いにしている。


 酔っ払いもコインも店も関係ない。

 今日町に入り、どの通りを歩き、どの店に寄ったかが符号。

 そして石畳に響かせた銀貨の音は、その日の行動の種類を知らせる合図。

 たとえ酔っ払いが居なくても、落としたフリをして結局鳴らしていたのだろう。


 後を付けてきたどこかの国の諜報員が見当違いの所を調べている間に、リッツェルネールの指示を受けた諜報員が動く。

 あるものは商人として、あるものは巡礼者として、またあるものは軍の兵士として各地に散って行った。





この作品をお読みいただきありがとうございます。

もし続きが気になっていただけましたら、ブクマしてじっくり読んで頂けると幸いです。

面白いかなと思っていただけましたら評価も是非お願いいたします。

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