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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第一章   出会いと別れ  】
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013   【 幕間(1) 】

 相和義輝(あいわよしき)達がリアンヌの丘へと向かっている頃、リッツェルネールはそれより南に位置するセプレニツィー平原に到着していた。

 コンセシール商国の本来の駐屯地はここから更に東に行ったマースノーの草原であったが、途中今後の話し合いのために寄ったのである。


 駐屯地には攻城戦に使う巨大槍の撃ち出し機がずらりと並ぶ。巨大な槍を8連発で打ち出す遠距離兵器であり、攻城兵器としてだけでは無く、大型の魔族相手にも有効な必殺兵器であった。


 

「さあさ、どうぞどうぞ。何処も物資不足ではあるが、茶だけは取り揃えて取り揃えてあるのである。ささ、こちらへこちらへ……」


 腰の低い男だな――とリッツェルネールは思った。

 

 この地に駐屯しているのはスパイセン王国軍であり、今目の前にいるのはその国の国王“有能ではないが無能でもない“の異名を持つシコネフス・ライン・エーバルガット王であった。

 髭が生えている男性は決して珍しくは無いが、目の前のシコネフス国王の羊の様な髭は見事であった。髪は左右共にカールしてあり、きちんと整えられている。

 その彼が骨のような細く長い手で皆に茶を振舞っている。

 

 同行者はここから南東のシェリンク砂丘に駐屯するゼビア王国の代理人”戦場の定食屋”クランピッド・ライオセン運輸大臣、ゼビア王国旗下に配属されたケサー公国のザパニー・クロイド伯爵、サルト・ロイカ王国のバリアスカ・インセ・ロイカ王の3人だ。


 国にはそれぞれ等級が定められ、ティランド連合王国のような四大国は1級――最高位だ。

 一方でスパイセン王国やゼビア王国といった、大規模軍を編成出来るような国が2級、小国家は3級だ。格式上はそこまででが、実際にはもう一つ下が存在する。世界連盟に正式に加入していない、外交権を持たない属国。

 そして自分の所属するコンセシール商国がまさにそうであり、等級で言えば4級であった。


 同格のゼビア王国が代理人であることを考えると、この中で一番格が高いのがシコネフス国王である。

 

「ああ、この茶は我が国の水で入れるのが良いであるのだが、いやいやそれでもこの芳醇な香りは存分に楽しめるであるぞ。ささ、遠慮せずどうぞどうぞ」


 しかしそんな素振りは全く見せず、ニコニコペコペコしながら茶を振舞う姿にリッツェルネールは微妙な戸惑いを見せた。


 勿論、商業国家に属するリッツェルネールにとっては地位やプライドよりも利益が優先される。自分にとっては珍しくもない。しかし王国制度の国王、しかも――


「あの名高き”天才軍略家“のリッツェルネール殿をお招きできるとは、実に恐悦至極である」


 この接待の主役が最も地位の低い自分である事が、更にリッツェルネールを困惑させる。


「この地は良いであるぞ。木々は豊富で水も豊か。あの太陽が姿を現してから、更に更に緑が濃くなっているような気がするである。解除して良いかは中央でもまだ定まらないようであるな。ささ、まだ他にも茶はあるである。遠慮せずどうぞどうぞ……」

 

「いや、そろそろ――」


 実務的な話をしたい。このペースに流されないように、リッツェルネールは今後の各国の分担についての話に切り替えた。

 

 ティランド連合王国が今後攻略を担当する炎と石獣の領域から南に下ったこのセプレニツィー平原にスパイセン王国及びその旗下国軍84万人、ここから南東へ下ればゼビア王国及びその旗下国軍112万人が布陣するシェリンク砂丘、東に行けばマースノーの草原にコンセシール商国軍2万6千人が布陣している。


 コンセシール商国軍が他に比して異常なほどに少ないのは、この軍が後方予備軍だったためだ。また同地に布陣していた他国軍は、魔王の発見により炎と石獣の領域に投入され、綺麗にこの世から消えてしまっていたからだった。


 先ずゼビア王国のクランピッド大臣が、禿げた頭を掻きながら地図に四角い箱を撒く。


 戦場の定食屋の異名を持つ彼は食料、飲料、武器防具、テントや薬品、その他備品の調達や飛甲板の管理まで様々な業務をこなす逸材として注目されていた。

 一方その手腕に似つかわしくない10代前半のような童顔に152センチと低い身長、禿げた頭に女性のようだと揶揄されるでっぷりした脂肪を身に付けている。


「まあ人員は本国からまた山ほど送って来るでしょう。どこの国もまだまだ人は溢れているのですからな。ただ問題は、それぞれの専門職が絶望的に不足していることです」


 ――この様に、と兵士を赤、食料などを青、輸送力を黄色で表した箱を並べて置いていくと、どの駐屯地も赤が過剰で黄色はその半分にも満たない。

 特に、大規模輸送の為の飛甲板不足が深刻であった。炎と石獣の領域へと兵員物資を運んだ飛甲板は、そのほとんどが未帰還となっている。


「このまま新たな飛甲板を……そうですな、少なくともここ周辺の地域だけでも4千騎は増やさなければ、そう遠くない未来に我々は選ばなければいけないでしょう」


 その青い瞳に絶望の色を浮かべて呟いた―――選ぶ、それは無謀な死への突撃をと言う事だ。


「次に各領域に関してですが――」


 セプレニツィー平原にスパイセン王国、シェリンク砂丘にゼビア王国と多めに兵が残されているのは、その地域が魔族の領域に接しており、その地の攻略も担当しているためだ。


 そこは白き苔の領域と呼ばれ、最長地点で横幅3800キロメートル、縦幅1200キロメートルにも渡る魔族領最大の領域であり、また最も多くの人命を飲み込んだ地としても知られていた。





この作品をお読みいただきありがとうございます。

もし続きが気になっていただけましたら、ブクマしてじっくり読んで頂けると幸いです。

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