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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第一章   出会いと別れ  】
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010   【 外の世界へ (3) 】

「救助隊が先だよ! ほらそこのデカ男! 邪魔だ! どきな! それとお前ら、今のうちに鎧は脱いどきな!」


 王様に対して堂々と罵声を飛ばしているのは、操縦席らしき部分にいた女性だった。

 肌は白く、身長は170前後だろうか。碧色の瞳で鼻は高く、口は少し大きめで美人と言えば美人。

 服から弾け出しそうなほど大きな双丘が目につくが、緑の髪の魔法使いエンバリ―と違い、腰はくびれ、お尻は大きめと普通の体格だ。

 特徴的なのは、後ろで1つに束ねた腰まである美しいストレートの金髪と、その服装であった。


 軍服を思わせる白い固めのシャツは袖とボタンを上から3つ残した下半分を全部切り取ってあり、下も鼠径部から下は全部切り取ってある。

 しかも大きな身振り手振りで救助隊に指示を出すので、その度に下乳がたゆんたゆんと飛び出して目のやり場に困る。


「なんだその恰好。誘ってんのか?」


 赤紫の鎧を着た兵士が乗り込みながら軽口をたたく。

 なるほど、やっぱりあの格好は一般的じゃないのか。ホッとしたような残念な様な……。


「ああん? 馬鹿かお前は! ちゃんと鎧脱いどけって言ったろうが! 死にたいのかい! 死ぬなら落ちて死ね! 上で死ぬんじゃねーぞ!」


 うーん、しゃべらなければお嬢様って感じなのになぁ……


「あちっ!あちち!何だこりゃ!あじぃ!ヴァァァァァァーーー!」


 先に乗り込んだ兵士のけたたましい悲鳴が響く。



 救助隊が乗り込んだ後、いよいよこちらが乗り込む番になった。

 先ず王様とその部下たちが乗り込み。

 鎧を脱いだ下は真っ黒な長袖シャツに同じく真っ黒いズボン。シャツは中央と襟、ズボンはサイドラインに沿って金糸の線刺繍が走り、シャツの左ポケットには牛らしき頭骨の金糸刺繍が施されている。


 女性の緑の髪の魔術師エンバリ―も同じ服装だ。サイズはまるで違うけど……

 王様の服は更に少しだけ豪華で、袖と裾にも金糸刺繍のラインが引かれていた。

 よく見ると文字だ――えっとカルター・ハイン・ノヴェルド、ティランド……うーん、持ち物に名前を書く子供のようだが、あの刺繍を本人が入れたわけじゃないだろうしなぁ。


 彼らが乗り込む際、下乳のお姉さんはそのがさつさに似合わない真摯な態度で一人々に対して右掌を左胸に添えるしぐさをし、兵士たちもそれに応える。

 敬礼……なのだろうな。


 続いて青い鎧を着ていた集団だ。

 こちらは比較的軽装が多かったっため大体わかっていたが、白のシャツに白のズボン。

 しかしその大半は血で赤黒く染まっており、鎧を脱ぐと尚はっきりと分かる。

 こちらも服装に男女の差は無いが、軍服だからなのか、それともお国柄なのかは不明だった。

 ただ、亜麻色の少女の胸は予想通りの絶壁であった。


 最初に青い青年が乗り込もうとした際、下乳のお姉さんは僅かに左手を上げそうになったが、すぐに右手で先ほどと同じしぐさをする。


「気を使わせて済まない」


 青い鎧を着ていた青年はそう呟いた。


「ほら、さっさと乗り込めよ」


 最後は自分とオルコスだけになりせっつかれる――だが不穏な空気を感じて躊躇ちゅうちょする。


「とっとと乗りな! こっちは無理な体制で臨界寸前なんだよ! 置いてかれたいのかい!」


 とは言え、置いて行かれるよりはマシ、そう思うしか無い様だ。


 真夏の照り付ける太陽がじりじりと肌を焼く。

 そして下は溶岩、ここは鉄板。

 陽炎に霞む視界が、ここが楽園ではないと伝えていた。


「いいから水撒け! 水だ!」


 後ろの方から王様の怒声が飛んでくる。


 最初から分かっていたのだろ、後部には水の入った樽が大量に詰まれていた。

 撒かれた水はジュウジュウと音を立て水蒸気に変わり、飲んだ水はすぐさま滝のような汗となって流れ、鉄板にジュッという音を立てて消えた。


「はたらけ―!」


 休む暇もなく兵士達と一緒になって水を撒く。

 そんな中、王様と青い鎧を着ていた青年、亜麻色の髪の少女は荷物に座って談笑中だ。

 確か持っていた金属板に、なんたら委員長とか書いてあった。王様と同じくらい偉いのだろうか。


 それにしても、青い鎧を着ていた青年と亜麻色の髪の少女のイチャイチャっぷりがハンパない。

 談笑中、ずっと青年の左腕を両手で抱えるように掴み、その平らな胸を押し付けている。

 うらやましい――


「ほらそこ、サボってるな!!はたらけぇーー!」


 勿論、自分に向けられた言葉だった。





「そうか、ようやく結婚するのか。まあおめでとうだな」


 カルターはこの二人がとっくに結婚し、子供を設けたからここへ来たのだと思っていた。

 リッツェルネール・アルドライト276歳、メリオ・フォースノー241歳、二人とも細身であり、この世界においてはお世辞にも美男美女とは言えない。だがアルドライト商家はコンセシール三大商家の一つ。フォースノー家もコンセシール七商家の一つであり、二人とも容姿で結婚を選ぶような血族ではない。

 それが200歳を超えても子無しというのは、容姿の難を差し置いても異常な事だった。


「本国の承認は受けてないけど、もう決めたんだ。それに僕が貰わないとメリオはずっと独りだからね」


 そう言ったリッツェルネールの腕を、メリオがニッコリしながらギリギリと捻り上げる。


「い、いたっ、痛いよメリオ」


「尻に敷かれそうで何よりだな。おめでとうさん」


 魔王を倒した今、おそらく二人の兵役は解除されるだろう。そして魔王討伐に参加し生存した功を考えれば、直系血族が200人程を超えない限り再び兵役に戻る事は無いと思われる。

 だが自分はティランド連合王国の王として、死ぬまでの最後の短い時間をここで過ごす。

 別れの時は近づいていた。




(なるほどね……)


 会話の合間にリッツェルネールは下の様子を確認する。

 溶岩域は麓まで完全に飲み込み、溝を超え少し進んだ所で止まっている。おそらくあの位置が『領域の境界線』か。


 そしてさらに2キロを進むとかつての総司令部後上空を通過する。

 そこはかつては草が疎らな荒れ地であった。が、今では大小様々な――30メートル程から数メートルの石の杭が隙間なく、様々な角度に、まるでウニの体皮のように地面から湧きだしている。

 その先端に突き刺さっているのは人であったり軍馬であったり飛甲板であったりと様々だ。


 全滅か――これではどうしようもない。仮に自分がいたとしても同じであっただろう。

 小さく黙祷を捧げ、リッツェルネールはカルターやメリオとの他愛もない談笑に戻った。




 そこから更に10キロ程を進んだ所でようやく飛甲板は停止する。

 相和義輝は(あいわよしき)すでにヘトヘトになって、じりじり焼かれるがままに大の字になって寝転がっていた。


(もう動けねぇ……)


 そうやってぐでーっと寝転がっていると、前方から大音響の声が響き渡る。


「カルター国王陛下のご帰還とぉぉぉぉぉ~~! 人類の勝利にいぃぃぃぃぃ~! 敬 礼!」


 その号令共に、空気を震わすバシッ! という音が風のような勢いで相和義輝あいわよしきの体を通り過ぎていく。

 なんだ!? 立ち上がり向いた先――そこには赤紫の鎧を着た、何千何万という兵士達が整然と並んでいた。


 王様は右手を上げると――


「ご苦労!」


 そう言って右手で左胸をバシッと叩く。


「カルター王に栄光あれ―!」

「人類の勝利に祝福をーー!」


 兵士達の歓声が響く中、カルター王はその中へと悠々と歩いていく。


(ああ、本当に王様だったんだな……)


 別に疑っていたわけではない。ただ、今までの距離が近すぎたのだ。

 今のこれが、彼と自分との本当の距離なのだろう。

 二度と話す事は無いであろう王様を、自分なりに右掌を左胸にあてる、彼らの敬礼で見送った。


「やあ、ちょっといいかい?」


 そう――青い鎧を着ていた青年が声をかけてくる。


「あ、ハイ……大丈夫です」


 この青い鎧を着ていた青年――確か名前はリッツェルネールだった気がするが、頭に霧のようなものがかかっていて、はっきりと記憶できない。

 温厚そうな仕草に甘いマスク。危ない処を助けてもらった恩もあるが、なぜかは解らないが少し苦手意識を持っていた。決して、亜麻色の少女との事が羨ましかったわけではない。


「僕達もここでお別れだ。自分たちの所に戻らないといけないからね。その前にちょっと聞いておきたかった事があるんだ。なぁに、そんなに緊張しなくても大した事じゃないよ」


 そう前置きすると――


「君には色々と質問して答えてもらったけど――なぜかな、君はここが何処なのか? と自分はこれからどうなるのか? を聞かなかったね。どうしてだい?」


 言われて少しドキリとする質問を投げかけてきた。

 ここが何処かを気にしなかったのは、本当にどうでも良い事だったからだ。

 これからどうなるのかを聞かなかったのもまた、同じ理由であった。


 元々相和義輝(あいわよしき)は環境の変化に動じない。たとえ沈む船の中にいても、いつもと同じ思考、同じ動きが出来る。もし彼の他者より優れた部分を一つだけ挙げろと言われれば、この人並外れた平常心になるだろう。


 だがそれでも、自分でもおかしいとは思っている。そのどうでも良さは、本当に自分の考えなのか?

 ここが夢や幻ではなく現実だと十分に理解している。だが、どこか心にしっかりとした落ち着きどころがない。まるで遠くから自分を眺めているような、そして心はフワフワと漂っているような、そんな奇妙な感覚をずっと感じている。


 だがそれをどう伝えたらいいのか。また、伝えていいものだろうか。

 悩んだ末――


「なんか混乱しちゃってて、考え付かなかったです」


 ――嘘をついた。


「嘘です」


 同時に、背後で女性の冷たい声が響いた。





この作品をお読みいただきありがとうございます。

もし続きが気になっていただけましたら、ブクマしてじっくり読んで頂けると幸いです。

面白いかなと思っていただけましたら評価も是非お願いいたします。

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