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やり直しが効かないのが人生


人生は不平等で出来ている。


生まれつき頭の良い奴は当然社会から必要とされ、顔が良い奴はそれだけで質の良い人生を確約されたようなものだ。

スポーツの出来るやつなんてどうだ?世の中にはスポーツ推薦なんてものもある。これまた約束された人生。

何も持たぬ者はそれらの約束された存在の陰はおろか、人々の視界にすら入らない。


生まれながらに持っているもので人生の質は左右されるのだ。これが不平等でなくて何だと言うのか。


じゃあ生まれつき何も持たぬ者は、


俺は


どうしたらいいのか。


今日もいつもと変わらない天井をぼんやりと見つめながら、俺、天沢悠貴(あまさわゆうき)は人生について考えていた。


「だったらもう、籠城する他ないじゃないか」


いつ洗濯したかも思い出せない毛玉だらけのグレーのスウェットに、寝起きそのままのボサボサ頭。これが俺の標準装備だ。


ジョブ、ニート、Lv27。

ああもちろんLvっていうは年齢のことな。


暗闇の中で煌々と光るPCのディスプレイを見つめながらぼんやりと1日を終えるのが今の俺の仕事。

この狭くて暗くて散らかった小さな城に、俺は籠城し続けている。


城の中に甲高い少女の声が響く。


『ゆうきくんっ』


ディスプレイの中のピンク髪ツインテの美少女がこちらに呼びかける。


「どうした、萌菜」


雛雅萌菜(ひなみやびもえな)ちゃん。

この暗い城で唯一俺の呼びかけに反応してくれる心優しき美少女。


彼女とは幼い頃から共に成長してきた、言わば幼馴染。

ほんの少しだけ年頃より幼く見える彼女は俺にとっては妹のような存在だ。


予想ではそんな彼女から今日、

告白されるはずなのだ。


彼女と会話をするには、いちいちマウスをクリックして言葉を送らねばならないのは少々面倒だが、まあそれも仕方ない。

彼女はディスプレイの中に住む高尚な存在なのだから。


逸る気持ちはそのままに、俺は彼女との会話を続行する。


『今日はどうしたんだ?』

『あのね……わたし、ずっと前からあなたのこと、好きですっ!』


ほら見たことか。返事はもちろんYES。

彼女とならこの先もずっと歩んでいける。病める時も健やかなる時も俺と彼女は共にある。

ずっと一緒にいよう、この城の中で……


しかし彼女との会話ツールをクリックした先に、信じられない言葉が表示された。


『ごめん、俺は萌菜のこと妹としか思えない』


…………は?


いやいや、たしかに妹のように育ってきたかもしれないが、もうその段階はとっくに過ぎてるはずだ。いや、例え妹のように思っていても、こうして成長していく萌菜の傍にいたら自ずとそういう気持ちになっていくはずなんだ。なのに俺は何を


……俺は何を?ディスプレイに表示された、言わば俺の代返装置であるこいつは、俺の意志とは明らかに反した発言をしている。


じゃあいったいこいつは何なんだ、

俺じゃないならこいつはなんだ。

混乱の中でふと思い立つ


いや、そうか、こいつは、俺じゃない。

萌菜と過ごしてきた幼い記憶なんてものはもちろん俺にはなければ、感触も、何もかも、俺のものでは無い。


気がついたらなぜか美少女に囲まれて。

友達はいないとか言っておきながら、なぜかいざという時体を張って庇ってくれる唯一無二の親友が一人いて。

騒がしいけれど退屈しない学園生活がすぐそこにあって……

そうかこいつは何でも持っている。

すなわち俺じゃない。


なんだ、俺じゃないんだ。俺じゃないなら、萌菜が好きなのも、俺じゃ


「う、うわぁあああああああ!!!!」


堪らず、

Escape、Escape、Escape。


こうやって逃げるのだけは、現実でもゲームでも得意だった。




✱ ✱ ✱


次に目が覚めたのも、やっぱりこの狭くて汚い自分の部屋の中だった。


今が昼なのか夜なのかもよく分からない。分かるのは、ここが城なんかじゃないことくらいか。


勉強は昔からあまり得意じゃなかった。

近所の公立校にそのまま進学して、友達と呼べる存在もいた記憶はない。


スポーツだって別に得意じゃなかった。

女の子と会話したのも、委員会とか、必要事項くらいなものだ。


修学旅行は退屈でしかなかった。

気遣って同じ部屋に入れてくれた学級委員長はいつも友人に囲まれ、俺は一人。名所だって先生と二人で廻った。


就職も色々やってはみたが、どこも上手くいかなかった。

自己PRや特技の欄を埋めるのはいつも憂鬱だった。


そして今。


俺は親からの仕送りを食いつぶし、部屋から出ずに日がな一日ゲームをして過ごしている。


そんな生活をしていると、時間の感覚も空間の感覚さえもなくなってくるものだ。

自分がどんな冴えない暗い人生を送ってきて、今もその延長線上にいるだとか、そういった都合の悪いプロフィールなど忘れてしまう。


そうやって忘れてしまうのは心地よくて、楽だった。

忘れるだけなら、データも人生も、消さずに済むから。


「何やってんだろ、俺」


こうしてたまに現実を思い出すと、その日は1日なにも出来なくなる。

まあ元々何もしてないわけだが。


もう一眠りするか。

そう思い立ち、瞼を閉じる。


「人生やり直してぇな、異世界とか、そんなのに飛んでさ、可愛い女の子に囲まれたり、実は特別な才能があったりとかさぁ」


自分で言ってておかしくなる。

何が異世界転生だ、何がハーレムだ。

現実はいつだってこうだ。


なんだかこみ上げてきた汚い何かを押し込めるように、俺は再び眠りについた。





……ついた、が、


暑い。無性に暑い。

そういや今は夏なんだっけな。夢にしてはリアルな感覚だ。

とにかく寝苦し過ぎる。一旦起きよう。


目を開けるとそこはいつもの光景ではなかった。


どちらかといえば、

地獄。


いや、自室が地獄のように汚いとかそういう比喩ではない。

灼熱の大地にゴツゴツした岩場、赤く黒ずんだ空、俺が知っている言葉では地獄としか表現のしようがない場所に、いつしか俺は寝転んでいた。


「なんだ、ここ……」


ああそうか、暗い気持ちで眠ったからこんな変な夢を見てるんだな。嫌な夢だ。とっとと目を覚まそう。

夢の出口を探そうと立ち上がると、急に声をかけられた。


「やっと目を覚ましたか、天沢悠貴」

「は?」


夢に他人が出てきたのなんていつぶりだろう。

声の方に振り返るとそこには見覚えのある少女が立っていた。


「え、萌菜……?」


そう萌菜だ。

あの特徴的なピンクの髪に甲高い声、実年齢より幼く見える容姿はまさに萌菜そのものだった。


ただ違うのは、訝しげな表情でこちらを睨みつけていることと、

俺の知っている萌菜と違って実体があることだ。

ディスプレイの中の存在ではない。


つまりはこういうことだな。


「なんだ夢か」

「夢じゃないぞ」


実体のある萌菜がじっとこちらを見つめている。

これが夢でなくてなんだ。


「にしても萌菜に会うのにこの背景グラはないだろ……夢のくせに低スペだなほんと」

「だから、夢じゃない」


萌菜の顔が険しくなる。


……いや、待てよ

とりあえず過去とはいえ、好きだった女性だ。

ここは好意的に接して置くのが定石だろう。


俺は限りなく柔らかい声音で萌菜に話しかけた。


「そっかそっかぁ〜夢じゃないんだ〜萌菜の言うことだからぁ、きっと正しいよな〜」

「お前、馬鹿にしてるな……?」


萌菜の眉間に、さらにヒビが入る。


いや、決してそんなことはなかったが、なにぶん女子との会話経験が乏しいばかりに喜ばす話し方が分からない。


そんな俺を見透かすように、萌菜は深いため息をついた。


「現実だよ。この世界も、今のお前も全部が現実だ」

「現実、ねぇ……」

「そうだ」

「分かった、またゲームと現実の境が分からなくなってるなこれは……でもこんなダークファンタジー系やりながら寝落ちした覚えなんかないけど」


呆れて笑いが零れてくる俺に対し、

萌菜は鬼に表情が近づいてきた。

俺が知っている、純粋で無邪気な萌菜のイメージとはまるで違う。

正直がっかりだ。


「おまけにやっと会えた萌菜はこんな暴力系ヒロインみたいな喋り方だし……はは、夢くらい俺に都合よく出来てたっていいのにな。あ、そうだせっかく萌菜に会えたんだしちょっとくらい触っても……」


俺が冗談めかしてワキワキと出した両手をかいくぐり、

胸ぐらを力強く掴んだ暴力系ヒロインは、

さらにもっと険しい表情でこう告げた。


「いいかよく聞けよ、お前は―」



その後の彼女のセリフはよく聞き取れなかった。

いや耳を疑った、というのが正しい。

ならば聞き返すしかない。


「え?今、なんて」

「お前は、死んだんだよ。一か月前に」


ダメだ、何度聞いてもちゃんと聞き取れない。

……しんだ?

死んだって?


「この夏のクソ暑い日、しかも外はニュースでも連日大騒ぎの真夏日だ。そこでろくに水分も取らずに熱気の篭った部屋にいたお前は、熱中症で死んだんだ」


たしかに昼か夜かも、時間も季節も曖昧だった。エアコンなんてつける気力もないし、水を飲むのも面倒だった。

おまけに常に頭はぼーっとしているから、それが熱中症によるものだなんて考えもしなかったかもしれない。


いや、でも!


「死ぬなんてそんな馬鹿な!現に俺は部屋で……」

「今のお前は、その一か月前の生活を追体験してた状態だったってわけだ。だからお前が今の今まで部屋で寝て起きて、ゲームしてた記憶は一ヶ月前の記憶さ」

「そんな、馬鹿な……」

「地獄にきても、死んだ瞬間のことが思い出せないとか抜かすから体験させてやったんだよ。思い出したか?」

「そんな……そんな……」


俺は、もう死んでる?

しかも誰にも知られず、あの真っ暗な部屋で

1人寂しく。しかも自分がいつ死んだのかも分からなくて。


そんな、そんな馬鹿な話あるか。


「お前、ろくな人生じゃない上にろくな死に方じゃないな」

「……」

「ろくに徳も積んでこなかったんだな、こんな地獄に堕ちてきて……」

「……」

「お前の大好きなゲームでいうところの、バッドエンドってやつだな」

「……ざけんな」

「ん?」

「こんなの現実なもんか!ふざけんな!」

「そうやって都合の悪いことからは逃げ続けるの、お前得意だもんなぁ。見て見ぬふりの出来ない現実がこれだよ」


辺りを見回してみる。

ジリジリと焼け付くような暑さ、手に汗が染みてくる感覚。

ゲームではない、現実なんだと誰よりも自分の体が教えてくれている。


気がついたらその場に膝をついていた。


「……俺の人生って、なんだったんだよ……思い返しても後悔どころか、後悔する以前になにもしてこなかったんだぞ……なんにも……!なのにこんな簡単に死ぬのか、俺は……」

「そうだ、お前は自分から何もせず逃げ続け、他人のせいにして、そして1人で死んだんだ」

「くそ……こんな人生ってあるかよ」

「ああ、お前の人生なーんにも残らなかったな」

「うるさい!!!」


生きてるうちに、他人にこんな大声を張り上げたことなんてあっただろうか。

死ぬ気になればなんでも出来るとはよく言ったものだが、実際死んでから出来ても何も意味はない。


そうだ無意味。

俺の人生。

虚無そのもの……


乾いた笑いがこみ上げてくる。

しかしそんな笑いに同調するように口元を釣り上げる少女がいた。


そう、この萌菜に似た悪魔だ。


可愛らしいピンクの薄い唇を開き、信じられない言葉を吐いた。


「ならやり直しとくか、人生」

「は……?」


人生、やり直す。


魅惑的を通り越して、ワードが頭に入ってこない。


「やり直す……?」

「そうだ。死んだお前を生き返らせることはできないが、生まれ返らせることはできる」


訳も分からず死んで。

誰からも何からも必要とされず、ただ時間を浪費していた人生。


それをやり直せるのか?

もう1度、生き直すことが出来るなんて……


いや!

いや待て!

これが悪魔の囁きか!

乗っかれば何か対価を要求されるという、あの!

そんなのなら死んだままの方がいい。

ならば当然、俺は首を縦にはふらない。


「別に魂よこせとか、寿命を削って〜なんてことはしない。ただお前みたいななんにもない人間が現世に戻り、いかに醜く無様に足掻くかを見たいだけだ」

「悪魔だ……」

「ああその通り」

「……」

「さあ、どうする?のるか、のらないか」


悪魔の微笑を見て、ほんの少しだけドキドキする心臓を抑え込み俺は考えていた。


これは所謂、

二次元的な発想でいうところの


異世界転生では……!!!??


そうだ、このシュチュエーション俺は知ってるぞ。


きっとこのあと異世界に勇者とかそんな感じで復活して、エルフの可愛い女の子とかになんだか分からないうちに好かれて、しかも超人的な能力で敵とかガンガンやっつけてくストーリーなんじゃね??

きっと俺には異世界転生者として、特別な血が流れてるとかなんだな!


なるほど、今までのクソみたいな人生は全て

この転生への布石だったわけだ。なら合点がいく。

だったらこんなの、

やるしかないじゃないか!


「ああいいぜ…!その話のった!」

「ふふ、よしきた。じゃあお前には早速転生して人生のやり直しをしてもらう」

「よっしゃこい!」

「なにをそんなに喜んでるのか知らないが……まあいいだろう。いくぞ」


悪魔が小声で呪文を唱え、俺の周りに光がまとわりついてゆく。

あぁ……これが転生か、と顔がにやけていく。


そして最後に軽快な音をたてて指をならすと、俺の姿はまるで別人のようになっていた。


「ああ、なかなか似合ってるじゃないか」

「ふふんそうか?見た目までイケメンにして送り出してくれるなんて、さっすが主人公補正が効いて……ん?」


様子がおかしい。

いや、様子というよりも声だ。

こんなに俺の声は



女の子みたいだったっけか?



「おい、なんか、これおかしくないか」


楽しそうに、悪魔の顔が歪む。

いや、正確には俺の視界が歪んでいるようだった。


「じゃあな、天沢悠貴」


意識が遠のく。

悪魔も遠ざかっていく。


「いや、天沢悠(あまさわはるか)ちゃん……だったっけか?」


不穏なその一言を最後にして、悪魔は消えた。

体にぐにゃぐにゃと何かがまとわりつくような、そんな気持ち悪さの中


俺はゆっくりと意識を閉じていった。



***




目覚めたのはやっぱりベッドの上だった。

でもここはあの暗い城じゃない。

太陽の光が燦々と降り注いでいるので間違いないだろう。


でもそんなことはどうでもよかった。

俺にはまず確認しなきゃいけないことがあった。


「鏡……!!!」


とりあえず部屋を見渡して見ると、それらしき物が机に立てかけてあった。

淡いピンクの鏡、なかなか女の子らしいな。


ふっと鏡を覗き込むと


そこには見知らぬ少女があほ面で映っていた。


「は……?」


女の子も、は……?という顔だ。

だったらもう答えは1つだろうな。


「君は、俺だ」


もう正直言ってて訳が分からない。

でもそういうことだ。

俺は女の子に転生していた。


……でもひとついいかな?

女の子に転生する場合ってめっちゃ美少女に転生して、ウハウハのやつじゃないのか?


それなのに、この鏡に映った女の子は


「どう見ても美少女じゃねぇな」


顔にはそばかす。

目は大きくない、いや小さめな部類じゃないかな。

鼻は丸くてまぁ、低い。

ふわふわとは縁遠そうな固めの真っ黒な髪を、乱雑に二つに束ねてある。


どう見ても、美少女とは形容しがたい。

いや、ブスとは言わない、ブスとは……

一応自分だしな、うん……


それにしても、こんな転生はあんまりだろ。

こんなので俺の人生やり直せるか!!


「おい!聞こえてんだろ悪魔!!返事しろ!」


大声を張り上げると、持っていた鏡に別の顔が浮かび上がった。


「ああ聞こえてるさ。どうだ?新しい人生は」

「おい、話が違うだろ!」

「なんの話だ?」

「普通、転生っていったらイケメンとか美少女とか……それか異世界に特別な才能を持ってが常識だろ!」

「はぁ?」

「それがなんだ、その……じ、地味な女は!」


すると悪魔は鏡の中でわかりやすく大きなため息をついた。


「あのなお前。お前みたいなどーーしようもないなんにも出来ない、魅力もない、前世でも特に何もしてこなかったダメ人間が、そんなハイスペックに転生出来るわけないだろうが」

「いや、それはファンタジーの力でなんとかしてくれよ」

「現実見ろよ」

「転生してる時点でもう現実見れねぇよ!」

「あーもう、ごちゃごちゃうるさいぞお前。とにかくお前が前世で詰んだ徳の値が、その見た目なわけ。分かる?それはもう変えられないんだよ」

「なんだよそれ……結局前世でクソみたいな人生送ってるやつは転生しても意味ないってことじゃんか。そんなんじゃやり直しなんて……」

「甘えんなよ」


鏡の中の悪魔がぴしゃりと言い放つ。


「そうやって何もしないでも、自分には何か特別な待遇が待ってるはずだ。なんて甘いんだよ。前の人生で他人や、才能、環境のせいにして逃げたのもお前、このやり直しで最悪かもしれないスタートを選ぶ羽目になったのも全部お前の責任だ」

「なんだよ、それ……」

「つまりこのやり直しが最悪か、はたまた最悪じゃなく出来るかも全部、お前の意思と過ごし方次第だ。前みたいに他人や社会のせいにして逃げるか?結末は同じだぞ、いいのか?」

「そんなの……」


俺には何も無い。

選ぶ権利もないし、価値もない。なんにもやれないクソみたいな人生だったんだ。


でも出来ないのは、もっと出来るように【誰か】がしてくれなかったからだ、そう言い聞かせて。


才能がないのは、

暗いのは、

友達がいないのは、

かっこよくないのは、

仕事が出来ないのは、

勉強が出来ないのは、

誰のせいなんだ?


周りの才能溢れるやつら?

親?

それとも神様?


【誰か】のせいにするのはいつだって楽だった。責任を負わなくていいから。

でも、責任を負わなかった人生は結果として最低だった。


俺はもう、そんなのごめんだ。


「そんなクソみたいな人生、もう嫌に決まってんだろ!!」

「そうか」

「見た目がブス寄りでも、知るかそんなもん!元々なんもない人生だったんだ、だったら同じことだ!絶対最高の人生にしてやる!」

「へぇ、言うじゃないか」

「見とけよ悪魔!!スーパー美少女に変身してやるからな!!」

「その見た目でか……?」

「この見た目でもだ!」


上等。

悪魔はそう呟いて溶けるように鏡から消えていった。


悪魔が消えた鏡を改めて見つめなおす。

お世辞にも美少女ではない、

俺が映っていた。


「……うーん、やっぱり可愛くはない」


この地味な容姿に、真逆の性別。

俺の人生やり直しの初期スキルはあまりにもしょぼ過ぎるけれど、それも仕方ないらしい。


低い鼻についているそばかすを撫でながら、よし、と声を出す。


こうして俺は、

特別な才能に目覚めることもなく

人生をやり直すことになったのであった―



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