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第7話 仮面の男

「チャンスは最大限に生かす、それが僕の主義だ!」


 いやいや、ただ言ってみたかっただけだからね。≪輪廻転生≫を果たして、早17年の時が過ぎた。先の大戦の中で、家族とはバラバラになってしまった。僕は、ヴェネタノヴァ帝国の貴族の家で、執事として雇われていた。


 仮面の執事。呪いにより仮面を外せないと、うそぶいていたが、哀れに思ったのだろう、この貴族は僕を雇ってくれた。僕も貴族出身ではあるから、曲りなりに作法は心得ており、雇ってもらって直ぐに、多くの仕事を任されるようになった。

 仮面の下の顔は、「罪の枝」という心臓から黒い枝状の刺青の様な模様が、肌に出現している。これは、高等魔術犯に付けられる罰であり、拘束術である。魔術使用時には、マナが体を循環するのだが、その枝に引っかかると、痛覚が敏感になり激痛を伴うようになる。瞬間使用の魔術ならそこまで痛みは伴わないが、長期戦になるとその激痛だけで死亡する事もある。当然、犯罪者の証であり、普段は、仮面をする事により、頬についた模様を隠している。遠目にはあまり目立たないので、良いのだが、魔術を行使すると紅い発光した血管の様に見えるらしい。


 禁術等の使用者や、例えば「屍の主」と呼ばれた死術師ネウルなどの、歴代の為政者を震撼させた大魔術師に施された罰則である。


――2年前 ヴェネタノヴァ帝国・帝都


 ヴェネタノヴァ帝国の現皇帝はジェラールという青年である。25歳になった年に、父親と兄を戦争で失った。翌年26歳の時に皇帝となり、島国であるヴェネタノヴァの諸国を配下に治め、大陸からの攻撃に対して、良く抵抗している。近年では、エアフルトという都市との共闘交渉を進めている。


 青みがかった長髪で、美男子であり、数多の貴族の婦人から人気がある。物腰も落ち着いているが、戦場では雄々しき姿に兵は鼓舞される。


「オルテガ。お前のやったことは、多くの名声と勲功を得て然るべきことだ。何故、それなのに、罰をうけるというのか?」


「戦時は敵兵を殺せば賛美され、平時は殺人と罰せられる。その違いに疑問をいだいているだけです。僕は、敵に憎しみを抱いて殺しました。そして、この罪を体に刻むことにより、僕はこの戦いに一石を投じたい」


「……」


 ジェラールは、顎に手をやり考ていた。そしてしばらく経ち、口を開く。


「本来は、英雄と祭り上げ、兵の鼓舞にあてたい事案であるが、お前の考え方ももっともである。お前の望みは叶える。ただ、お前には、この俺の心を震えたたせた責任はとってもらう。お前に権限と地位を与える。それは、皇帝である俺をも、ある意味超えた権限だ。お前を「元帥」として、皇帝の更迭権も含めたあらゆる権限を与える。当然それには、「罪の枝」の時限解除も可能にしてある」


「なっ!」


「何故そこまでするのかと思ったか?それは、こんなご時世に、正論を堂々と振りかざす馬鹿だからだ。それに、俺の心が震えた!はっははは!」


「そんなに人を簡単に受け入れるとは危ういな……」


「その為にお前がいるのだろう?」


「……」


「まあ、お前が「罪の枝」を植え込む作業で、生きていればの話だが……」


「死ぬわけにはいかないですよ。これは僕の贖罪(しょくざい)だから」


 そして、膨大な魔術量の術式が、牢屋の一室に施され、その中心に少年は立つ。

真っ赤に発光した術式が、彼の心臓に向けて這い上がってくる。


「がぁあああああああっあ!ぎゃぁあああああああああああああああっ!」


 少年は叫び声を上げて、床をのたうち回る。死術師ネウルさえ、あまりの激痛に、昏倒してしまったという。少年は、強靭な精神力でその痛みに立ち向かっている。痛みは、少年の精神を蝕みにかかる。


 そんな中、少年はかすれた声で、叫び続ける。少年の深層世界にまで、侵入した痛みは、彼の奥に眠る、「樹」を刺激する。前世の記憶。そして、転移前の記憶。刺された時あいまいだったその記憶も甦ってくる。彼女の父親の名前は、「村上」だったようだ。そして、産まれてからの記憶。


 日本で生まれたわけでは無かった。ここと同じような、神秘が日常にある世界。そんな世界で、母は一人で、僕を育ててくれた。いつも、母は父の自慢をしていた。彼女にとって、すべての支えであったのだろう。

 そして、18歳を過ぎた時、母は僕と日本に転移してきたのだ。父の生まれ育った国。母の魔術により、お金と戸籍を入手して、そこで暮らすことにした。大学の入試資格を確保して、紆余曲折あり、大学にも入学できた。日本の事をいろいろ学んで好きになった。しかし、幸せな時間はすぐに経過してしまう。母は、僕が20歳の時に、亡くなった。


 ただ、亡くなったというより、消えてしまったのだ。今だからわかるが、彼女はアンデッドだった。そして、母を演じてくれていたのだ。本当の母は、こちらの世界には来ていないのだろう。僕は何者かに狙われていたのだ。そして、僕は30歳になってから、その追っ手と思われる女に殺されてしまったのだ。


 痛みは、深層世界を黒く染めようとしている。僕は、僕自身を否定しようとしている。でも、それは僕を否定するのではなく。僕が産まれる前の過程まで否定する事になる。僕は、この痛みを受け入れるが、この痛みから逃げてはいけないのだ。やがて、否定は肯定へと変化していく。

HP254(6月16日まで)

PV着実に増えてきてます。

今回もルート分岐なし。

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