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第6話 老人の見た光景

 老紳士は、100騎の騎馬隊を引き連れて、普段、彼が着なれた執事服を脱ぎ、銀色の甲冑をつけ、鞍に付けられた大槍が、馬が進むごとにガシャガシャ音がなっている。それが、100騎ともなると非常に大きな音となる。


 老紳士は、慌てていた。たった10時間、しかも深夜を掛けて100騎もの仲間を集めた。自分の呼びかけに、これほどの仲間が集まってくれるとは正直思わなかった。それに、今から向かうのは死地である。普通の人間では、辞退するこの進軍を、若かりし頃一緒に死地を駆け抜けた戦友たちは、二つ返事で、支度をして駆けつけてくれた。


 夜じゅう降り続いていた雨はやみ、朝日の昇る時間が迫った、朝霧は視界を隠したが、経験豊富な戦友たちは、老紳士の松明を目印に、馬の速度を緩める事も無く、駆け抜けた。

林道をちょうど抜けた平原が、自分たちが本当に死を迎える場所になるのだ。


 相手は5,000を超える隣国の精鋭。機動力の高い馬を操っているからといえ、平原では、数の優位は圧倒的である。林を抜けてる瞬間に、老紳士は仲間を鼓舞する。


「英雄たちよ!幾多の死地を超えてきた我らの死場はここぞ!とく駆けよ!とく吠えよ!とく散れ!」


 戦友たちは、各々の鞍に収まった武器を引き抜き、乱れることなく叫ぶ。


「「「応っ!」」」


 そして、遮るものがない平原は、彼らに想定外の光景を見せるのであった。皆が唖然としてしまった。そこには、木で作られた簡易な墓が、数千本も地面に打ちつけられていた。


 そこは墓であるが、戦場の香りもした。まさに、ここで夜をかけて戦が行われていたのであろう、しかし、今は静寂のみが支配している。動物たちの気配もない。そして、その戦場の中心に、一人の少年が立っていた。


「お、オルテガ殿……」


 皆、惚けている中、老紳士はその少年に近づいて話しかける。

 少年は、紫色がかった髪が、血でべた付いていた。


「セバスさん、僕の命令は、避難と自由だったはずでは……?」


「私の自由意志で現在ここに居ります」


「もの好きですね。数時間で、これだけの人数を召集できるなんて、貴方はやはりすごいですね」


 少年は、あきれたように笑う。


「私より、あれだけの人数の敵兵を撃退して、それから墓まで作るなど、人の業ではございませんぞ。まるで、神の御業ですな」


 少年は、顔に影をおとして、ため息をするように言葉を吐き出す。


「これはただの復讐であり、褒められた事では無いよ」


「それでも、戦争では、敵兵を多く殺害したものが、名声と勲章を得るのですぞ」


「いかなる理由があっても、人の可能性(生命)を奪うのは罪悪だよ」


「……」


「駆けつけてくれて、ありがとうございました。僕は、出頭します」


 そして、少年は背を向けて歩き去る。その背中に、朝日は差し込む。彼は帝都へ帰るのだろう。少年が所属していた、バラク要塞は陥落した。その司令官であったマルスが死亡した為である。


 少年はマルスと武術の稽古をしているところで、運が悪い事に、敵兵とかちあってしまったのだ。お互い体力が疲弊していた事や、2人以外にコールという新人兵士もいた事が重なり。マルスが2人の逃げる時間を稼ぎ出してくれた。


 しかし、大量の敵兵の前に、なすすべが無くなり、最後の魔術を行使した。最終自壊魔術により、巨大な竜巻となり、その命を散らしたのである。敵陣にも甚大な被害が生じ、敵も足止めをくってしまった。


少年は、彼に全権を委譲された。そして少年は、砦の仲間には、撤退を命令したのだ。多くの者が、反撃を勧めるなか、少年は彼の新たな部下を守りたかったのだ。


 そして、全員撤退したところで、彼はマルスの執事である老紳士に、最後の命令「自由」を与え、どこかに去っていった。老紳士は分かっていた、少年が、犠牲を覚悟してでも戦場へ舞い戻る事が……。


 のちに、この戦いの英雄は、名も無い英雄として、ジェノサイダーの1人に数えられるのであった。その戦場後(せんじょうあと)の特異性から、「バラクの墓守」とも呼ばれた。自分で殺害した敵の墓をつくったその所業は、特異以外の何物でもない。


そして、その墓守が、16歳の少年とは、老紳士とその仲間以外は、思うまい。

HP254

今回は、ルート無。

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