第15話 暗黒時代
今日の仕事が終わり帰ろうとしたとき。警告の鐘が鳴った。敵襲である。鐘の回数が複数回で鳴りやまない、第一級警報。街が異様な空気にのまれていく。司令室へ向かう途中兵士たちの緊張感が、肌に伝わってくる。敵の数はどのくらいなのだろう。
司令室に到着すると、兵士たちが報告の為、忙しなくではいりしていた。その中で、司令は自らの椅子に座り、目を瞑りながら兵士たちの話を聞き、一考してから指示を送っていた。僕が入ってきた事に気が付いたようで、こちらを向いて口をあけた。
「監査官殿、申し訳ないが緊急事態が発生しました。敵国の魔導戦艦が10隻こちらに向かってきているようです。我らの兵力では、到底及びません。貴方もここで我々と散っていただきます」
「敵の推定数は?」
冷静に質問する僕に訝しげな表情を浮かべながら、兵士の報告から推測した値を僕に伝える。
「およそ5000となる。わが軍では、到底及ばぬ」
その言葉と伴に、爆音が大気をつんざいた。魔導戦艦からの砲撃。マナの塊が、港の施設を吹き飛ばしたのである。それを機に、砲撃が雨の様に降ってくる。
見張りの者は、建物ごと吹き飛ばされていった。所々から、煙が舞い上がり破壊の限りが尽くされていった。
指揮系統が完全に遮断されてしまい。一般兵は混乱している。テオはどうしているだろう?大型の魔導戦艦はすでに砲撃を終えて、上陸の準備に取り掛かっている。沖合に、10隻もの戦艦が見られるのは圧巻ではあるが、そこから降りてくる兵が、破壊の限りを尽くすと思うと、洒落ではすまない。
大型戦艦から小型船が大量にでてきた。これはまずいな。
「なぜ後退しないのですか?今ならまだ間にあう!被害を最小限に抑えるなら、撤退も必要です!」
「ふっ!文官風情が……。それにその必要はない。被害は出ない」
「それは、どういう意味ですか?」
「蟲が死ぬだけだ。我らに被害はでない」
そう言われてから、僕は自分の腹部が燃えるように熱い事に気づく。刃渡り30cmの魔導剣。柄の部分は手のひらサイズ。
「かはぁっ!」
内臓まで達したその刃物のダメージは深い。吐血して僕は倒れ込んでしまう。意識が薄くなってくる。
「我らの勝利は目前だ。4方からの侵攻であったが、2方は敗れたらしい。我らが北方と北西方面が上陸に成功したらしい。これで、ヴェネタノヴァ帝国も、崩壊する」
「君は?草……か……」
「ははははっ!そうだ。どうせ死にゆく者が心配することなど何もないんだ。では、そろそろ合流しなければならないからな」
そう言って、哀れみの目を向ける。そして、僕を捨て置いて外に出ていく。
「こ…ここで、死ぬわけには……いかない」
体から力が抜けていき。闇の世界へ落ちていく。
――数分間後
何分寝ていたのだろう?外の騒ぎは静まっていた。街には煙が巻き上がっている。靴の音だろうか?何百何千という踏みしめる音が外から響く。時折、悲鳴がチラホラ聞こえるくらいだった。
重い体を起こして、外を見やると、敵は完全に上陸しており、掃討作戦を展開しているところだった。一方的な虐殺。この施設にも、軍靴の音が聞こえる。10名以上の兵士が昇ってきているな。
「もう……使わないかと思ったけど……ははは、僕はやっぱり弱いな。自分への約束もすぐに破ってしまう」
右手で仮面を取り外す。普段は、魔術で洗浄を行っているので、久しぶりに自分の顔をみた。鏡に映る自分の顔は、とても疲れているようだった。右の頬は、「罪の枝」で黒い刺青が入っているように見える。灰色の目がこちらを見ている。
兵士の声が聞こえる。
「あの草はどうした?」
「はっ!始末しておきました」
「粋がった田舎猿が、上級士官に推挙してほしいなどと、立場もわきまえないで困る」
そして、彼らが司令室に入ってきた。
「おいおい、田舎猿は、ゴミも始末できないのか?」
「はっ、その様ですね。今、処理します」
そういって、手を伸ばしてくる警固兵。
「汚いゴミだ……ん?、どうした?」
2人いた警固兵は、前のめりに倒れ込む。
HP195/572
次回は無双します。あっ圧倒的!