第9話 皇帝からの命令
話はもとに戻るが、呪い男として、一部の給仕からは滅法嫌われているので、なかなか大変である。庭の剪定だって、道具をいろいろ隠されたりもしている。しかし、当主とその家族は、気遣って優しくしてくれる。それと執事長であるセバスもだ。
マルスの生家である、グリーム家は代々帝都(旧は王都)の警固を担当する軍人の家系である。当世の代表アルスは、現在帝都の近衛隊長であり、ジェラールからの信望も厚い。誠実にして堅実な軍人である。片手剣と盾での武芸を得意としており、盾を装備したアルスに勝利できるのは、大陸でも数えるほどしかいないと称されている。
屋敷は、広く正門から館までの距離が100メートルほどある。林と庭園で構成されており、いつも整理をしっかりしている。僕は、今正門から館までの剪定の担当になっている。それは、屋敷の顔である門の担当であり、かなり責任を感じている。
当主アルスとその妻ミーラ。長男のマルスは、2年前の戦闘で死亡してしまったので、子供は長女のモーラと次女のシーラ。マルスの子供のジュナ。アルスにとっては孫になる。ジュナの母親はマルスの死亡を知った事から病に臥せってしまい。死亡からちょうど6ヶ月後に死亡してしまった。最後にジュナに対して、「軍人の嫁なのに、お母さん弱くてごめんね」と涙ながらに話したと聞く。ジュナはその時、4歳であり母の涙をぬぐってあげたそうだ。
給仕については、執事長のセバスを筆頭に、男性が3名に、女性が12名。男は料理長と、魔導機工長、そして僕。女性はたくさんいるが、中でもシーラの侍女を務めるベアトリーナという女性が、僕を執拗に嫌悪している。呪いがシーラ様に移るが口癖である。まあ、男以外は大なり小なり避けられているのは分かっているのだ。
女性に嫌われるというのは、かなり寂しいものだな。まあ、怪しい仮面の男だから仕方ないか。セバスに対しては、【エロハ】により、認識を偽らせている。
庭の剪定を終え、門から館までの掃き掃除を行っていると、前から馬車がやってきた。その馬車は、客人を乗せているらしい。馬車の煌びやかさより、高貴な人が乗っているのだなと、ふと窓を見てみるとジェラールが乗っていた。帝国の皇帝が、一家臣の家を訪れる事は、まずない。
ジェラールは僕に気が付くとニヤニヤしていた。こいつ、性格はあまりいい方では無いな。そして、僕が掃除を終えた頃に、その馬車が出ていくところを見かけた。
また、ニヤニヤしてやがったよ。
当主に呼ばれたのは、夜であった。夕食が終わり、使用人たちは、各々の部屋に引き下がっていった。当家では、何と、使用人も主と同じ時間に食事をとる。普通は、主が先で使用人は、厨房等の別の場所で食事を済ませる。しかし、家族同様だからと、当代から可能な使用人は一緒に食事をとる事にしているそうだ。だから、使用人の悩み等も、家主や家族が手を貸す。
当然忠誠心は、他の貴族の使用人に比べると非常に高く。ベアトリーナなどは、シーラに対しては裏では「女神さま」といっているほどだ。
当主アルスより、直々に命令を与えられた。
「オルテガ、申し訳ないが、皇帝陛下より、沿岸部の街レビノーレに行って欲しいとの事だ。何故君に指令が来たかは不明だが、そこで状況の確認をしてほしいとの事だ」
「海岸防衛は、帝国の最重要懸案ですから仕方ありません」
「ううむ、何故君なのかは腑に落ちないが、皇帝陛下の名を果たしてくれ」
「仰せのままに」
「それと、これは本当に申し訳ない事なのだが、ジュナが最近、学園に通いたがらないのだ。原因を調べてくれないか」
「それは心配ですね。分かりました。併せてお受けしましょう」
HP339(6月17日)
ルート分岐なし
次回はロリ