第三章 ガルドザンローズ帝国 3
若干ストレートな性的表現があります。苦手な方はお気をつけ(?)ください。
「ファズ。何だ」
ファズ、と呼ばれたその男は、セレブの言葉を借りれば、とてもグットルッキングガイだった。
8頭身でも足りないような小さな顔とスラリとした体。もちろん、足の方が長い。アイスブルーの透き通った瞳が美しいながらも少し恐しさを感じさせる。
プラチナブロンドの髪は一つ結びにされ背中の方に垂らされているが、彼が動くと腰のあたりからチラリチラリと毛先が顔をのぞかせていたので長さ大体検討がついた。
この灰色の国にはそぐわないほどの美麗な青年は、そのまままっすぐに俺たちの傍まで歩いてきた。
そしてじっくりと俺たちを見回すと、くるりと回ってもう一度国王の方に向き直った。彼の動きからワンテンポ送れて舞う銀色の髪がとてもキレイだと思った。
「これ、処分するなら僕にくれないかな?」
おそらく会話から察するに国王の息子であるファズは、容姿に見合わぬ冷たい声で俺たちを示した。
「これ」と呼ばれた俺たちは、彼に「人」と思われていないらしい。
「何故だ」
「実験だよ。理論的には実現できる域まで来たんだ。でも机上の空論では使えないだろ?だから人体実験がしたかったんだ」
「実験とは…お前がかねてより研究していた新薬のことか?」
「そ。貴重なうちの軍隊の人員を削るわけにもいかないなーと思っててさ。街から連れてくるのもいろいろと面倒だし。丁度よかった。万が一成功したらそのときは父さんにまたお返しするよ。使い物にならなくなったら…焼けばいいだけの話だろ。父さんに迷惑はかけないと思うんだけど?」
己が息子の意見に腕を組んで考え始めた国王。彼は俺たちを何かの薬物実験に使いたいらしい。しかも万が一にしか成功しないような実験に。
だが、今すぐ処刑じゃなくなるだけまだマシだ。逃げ出せる可能性が0ではないのだから。
「うむ…」
「まだ考えてるの?そんなに考え込むことかなぁ。…あ、そうそう。まだ今年の誕生日プレゼント、貰ってなかったよね。コレくれたらそれでいいっていうのはどう?」
「わかった!お前の好きにしろ。その代わり、成功した暁には必ず新薬と共にわしに差し出すのだぞ」
「はいはい」
かくして、俺たちは息子への誕生日プレゼントにされてしまった。取りあえずは、命拾いした…のか?
「しかし…確かその実験に必要なのは男だけだろう。女は私が殺して構わないな?」
国王の声に、安堵していた体に再び緊張が走る。
マヤの方をみると、気丈にも真正面から国王にメンチを切っていた。さっきまで真っ青な顔してガクガクブルブルしていたのにな。女というのはよくわからないものだ。
国王の息子はマヤにチラリと視線をなげると、ニヤァといやらしく笑って国王に言った。
「それは僕の…便利な女にするよ」
「おぉ」
便利な女?どういう意味だ。メイドみたいなもんか?
「お前…男が好きなのではなかったのか?」
「…なんだい、それ」
「お前があまりにも女に興味を示さないからアクリーンに尋ねたら、お前は女よりも男に興味があるのだ、と奴が…」
「アクリーン…」
息子の額に青筋が立つのがみえた。
どうやら便利な女というのは性的な意味が大部分を占めているようだ。何をしても何をされても文句の言えない立場。もちろん、飽きて捨てられても恨む、憎むなどという感情を持つことすら許されない立場。激しい行為の末命を奪われたとて、声をあげることすら許されない、「便利な女。」マヤがそれに…?
「お前が言えば城の女を宛がうこともできたのに、何故今まで黙っていた」
「僕は父さんとは趣味が違うんだ。それに、城の女にはみな父さんの精液が入ってるじゃないか。親子で穴兄弟なんて僕は死んでもゴメンだ」
なかなかハッキリ物をいう青年だ。国王は苦笑いをしている。
「それにね、僕はこういう…余計なものがついてない女のほうが好きなんだ」
マヤに近づき、顎を掴んで右、左とまるで品物を鑑定しているかのように顔をうごかす息子。マヤはしかめっ面でその手を振り解こうと頭を振ったが、冷たいアイスブルーの瞳に至近距離からにらまれ、ついに抵抗を止めてしまった。
「アクリーン、スナー!」
澄んだ声に呼ばれ、奥からまた男が二人現れた。体つきのガッシリしている短髪で浅黒い男と、色は白めだがソフトマッチョで伸びっぱなしのような黒髪の男だ。
「王子、何か」
あぁ、国王の息子ってことはこのサディスティックな青年は王子ってことになるのか。聞きなれない単語で耳が痒い。
「こいつらを中央研究室へ運べ。お前はこっちだ」
マヤを無理やり連れて行こうとするサド王子。マヤは駄々っ子のように体全体で抵抗している。バタバタと暴れる足が王子の顎にクリーンヒットした。
「・・・・・」
王子の動きが止まった隙をついて、マヤが逃げ出した…が王子の手が届く範囲までしか逃げられず、簡単に腕を掴まれてしまった。
「マヤ!!」
「生意気な女は嫌いじゃない。嫌いじゃないが…」
パァンッ
冷たい部屋に乾いた音が響いた。王子に頬を張られたマヤがその衝撃と共に吹っ飛ばされ床に崩れた。
「その女が絶望する様は最高に興奮する」
「マヤさん!」
「マヤぁ!」
「てめぇぇ!!!」
ハタとタクはマヤに駆け寄ろうと、俺は王子をぶん殴ろうと抑えていた男たちの手を振り払い立ち上がったが
「おい、黙らせろ」
サド王子の言葉の直後、頭に強い衝撃を受けた。
目の前がぼやける。せっかく立ち上がったのに足に力が入らない。容赦なく意識が奥へ奥へ引っ張られていく。こんなところで気を失うわけにはいかないのに…くそ。
最後にかろうじて目に入ったのは、憎らしいことに、サド王子のもつ美しい金色だった。
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