第八章 決意 1
この前の話、少し書き加えて更新しなおしてあります。
あれ?話がつながらねーぞ、と思われた方は今一度前話に目を通してくださいませ。
『ついたで』
スピーカーから聞こえたツネさんの声は、まるで打ち上げ会場まで乗せて行って貰った時のような、なんでもない響きだった。なんでもないはずないのに、本当に意固地な人だな。
僕らは今、サメオさんのメガロの壁に座っている状態だ。ずっとここに座っていたんじゃない。つい先ほど物凄い衝撃に襲われて、その結果床は壁になり、壁が床になり、いろんなところに体をぶつけ頭をぶつけてようやく落ち着いたところだ。もう限界だったんだと思う。倒れこむような感じだったから。
「あぶなー・・・」
サメオさんを抱えたまま不恰好に壁に押し付けられているモリヤの眼鏡がずれている。彼が衝撃からサメオさんを守ってくれたのだ。僕は見事に振り回されていたから、正直サメオさんまで手が回らなかった。やっぱりガタイが良くてスポーツしてた人間っていうのは安定がいいみたいだなぁ。
「ありがとね、モリヤ」
「礼言う暇あったら手ぇ貸せよ。とりあえずサメオさんを寝かしてやろうや」
「ごめんごめん」
モリヤの元に駆け寄り彼からサメオさんを離した後、一緒にもう一度床に寝かせた。まだほんの少し温もりのあるサメオさんの体は、それでも生きている僕らのとは明らかに違っている。もう、本当に動かないんだ。
「・・・・・・」
「キム」
「大丈夫・・・・・・」
なんとも言えない気持ちに陥りそうだったが、無理やり自分をそこから離した。
「お前ら、なんともなってないか?」
僕らの座っているすぐ隣が音もなく開き、そこからツネさんが顔を覗かせた。そこ、ドアだったのにね。
「ツネさんこそ。ケガしてますよ」
彼の顔には沢山の切り傷と擦り傷が赤い線を引いていた。わずらわしそうに手の甲でゴシゴシと顔を擦り、眉間に皺を寄せたまま僕を睨む。
「お前やって」
「そりゃぁ、素晴らしい運転でしたから」
「・・・・・・」
僕の冗談にもう一段階眉間の皺を深くしながらツネさんは無言でノッソリとこちらに這い上がってきた。
「嘘です。ありがとうございます、城まで連れてきてくれて」
「……別に」
ツネさんは照れくさそうにそっぽを向き、それからゆっくりとサメオさんに近づいていった。
そっと傍にしゃがみこむと、モリヤが組ませたサメオさんの動かない手に静かに触れて、それから少しだけうつむいて動かなくなった。多分、泣いているんだろう。見てはいけないような気がして、僕とモリヤはそれとなく彼から視線を外した。
『親方!ハッチが開かないため装甲を焼き切ります!今いる場所を教えてください!』
スピーカーから整備兵の声が聞こえた。その声にハッと肩を動かしたツネさんが、乱暴に目元を拭い、僕らが背を預けている壁の近くを力なく叩いた。僕としてはもう少しツネさんを泣かせてあげたかったけど、どうやらそうも言ってられないようだ。外が慌しく動いている音が微かに聞こえる。
それからすぐに、僕のいる反対側の壁に真っ赤な線が長方形に走り、何かの焼ける臭いと共に光が差し込んできた。ボディから切り離された装甲は向こう側に引っ張られ、どこか名残惜しそうに真っ赤に溶けたドロドロの糸を引きながら倒れていった。
その作られたドアからすぐに整備兵が数人駆け込んできた。何人かは救急セットを抱えている。僕らの前に横たわっている人に視線を落とすと、
「まさか……」
「親方……」
皆一様に顔を歪ませた。
書きたいシーンがこれからあるのに、なんだかうまく表現できません。
ではまた週末にお会いしましょう。