第七章 初任務 10
俺に見えたのは色だけだ。それも、かなり輪郭のぼやけたもので、一瞬のことだったので本当に見えたのかと聞かれると、力強く応えることはできない。「あれ?今なんか通ったんちゃう?」ぐらいの感覚で見えた、白い色。たったそれだけのことだったのに、俺の目の前の景色は一片してしまった。
小隊、全滅。
さっきまで元気に蠅退治に勤しんでいたメガロたちは大きな穴をその体に携えてすっかり沈黙してしまっている。
ある物は腕を伸ばしたまま、ある物は自分の武器に手をかけたまま、ある物は空を見上げたまま――。
何かが、こいつらの時を止めてしまったようだ。こいつらがその動きを止める原因はただ一つだけ。ブレインが破壊されたのだ。
ブレイン、つまりは俺のようなパイロット。あの、たった一つの穴が、たった一回の攻撃が、メガロに載っていたパイロットの命を奪ったらしい。
さっき俺の前を横切ったかもしれない、何か白いものによって。
「・・・・・・」
あまりの現状に言葉も出ない。頭の中も、気付けば止まってしまっていて、動きを止めたメガロの静かな機動音だけが無機質に聞こえていた。
『ツネさん・・・?』
『どうしたんスか、ツネさん!?』
スピーカーから響いてきた二人の声が俺のフリーズを解いた。
「なんでも、ない」
声を発して驚いた。俺の声は震えていた。脚も、腕も震えていた。これは、きっと絶望。初めて感じた、変え難く抗えない絶対的な絶望。
震えながら見上げる空から、異質なものが降ってきた。
真っ白なボロ布を纏い、それは変な神々しさを持っていて、両手はカラダの前で固定されているらしいが後ろからではよくわからない。まるで磔にされた女神のようだと思った。
体中に巻きついている鎖のようなものがその忌々しさとは真逆にシャリン・・・とキレイな音をたて、ソレは俺に背を向ける形で地上に舞い降りた。
こいつはきっと敵国側の新型。ゴム野郎、スナイパー野郎に告ぐ、最後の一体。たった3体で、何度も何度も俺らの国の前線部隊を壊滅に追いやった最強で最凶で最恐のメガロ。
俺が利用していた小隊全員を一瞬でしとめたのはコイツの仕業だと考えなくてもわかった。今この砂漠には、とりあえず俺とコイツしかいない。
コイツの攻撃を避けることは俺にはできない。マイナスの要素がこっちには多すぎる。
あぁ、俺、死んだな。
肩越しにコッチを向いたそのメガロの顔を見たとき、俺は命を諦めた。背もたれに体をあずけ、コクピットの球体ふたつから手を離すと、メガロの機動音すら止まってしまった。
もうなんか、どうでもええわ。
死の間際で見たソイツの顔は、ほんの少ししか見えなかったが、目は包帯情の装甲で覆われていて、それがまたなんともキレイに思えた。
アッチに行って、サメオさんになんて言おうか・・・・・・そう考えながら、次に来る、俺を一瞬で殺すほどの衝撃を待った。
その瞬間を見るのが怖かったから目を瞑った。言い忘れていたが、俺は注射を打たれる時は顔をそらす派だ。
が、その衝撃はいつまでも俺に届けられなかった。代わりに届けられたものはあのキレイな金属音。
不思議に思い、目を開け外を見ると、遠くにさっきまで目の前にいたあのメガロの姿が小さく見えた。
たった刹那の時にあんなところまで飛んどる・・・・・・。あかん、性能が違いすぎるわ。勝てるわけないわ、この戦。とにかく、まぁ・・・なんやろ。助かった・・・んかな?
久しぶりに生の権限を与えられた俺の体はその喜びを大量の汗を放出して表現した。深く息を吸うと、その空気の新鮮さに胸が洗われた。
助かった。なんとか死なずに済んだ。俺はまだ生きていける。城にアイツらを連れて帰れる。またアイツらにも会える。良かった。ほんとうに、ほんとうに。
「死ぬかと思った・・・・・・」
こっちの世界に来る前は冗談のように使っていた言葉だったが、心のそこから真の気持ちで吐き出したのは、当たり前かもしれないが、今このときが初めてだった。
なんであのメガロが去って行ったかはわからんが、とりあえず窮地を脱することはできたようだ。今のうちに城に近づこう。
再び、操縦席の球体に両手を乗せた。相変わらずの気持ち悪さが全身を駆け巡ったが、ある程度の覚悟ができていたため今度は嗚咽を上げずに済んだ。
脳みそを直接揉まれているような感覚には慣れないだろうが、ゆっくりと呼吸を繰り返して自分を落ち着かせる。それに呼応するかのように、静かにメガロの機動音が響き始めた。
忘れられないうちに更新してみました。
日付はかわってますが、本日2回目の更新ですよー。
地味に読者様が増えていっているような気がします。気のせいかもしれませんが、それでもうれしかばい。
飽きられないように、地道に更新活動続けて行きますばい。