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第七章 初任務 7


私の大好きなキャラ、サメオさんが死んでしまいました。

哀しくて筆が進みません。

 ゆっくりとサメオさんを降ろす。本当は、顔についている血なども拭いてあげたかったが、ハンカチやタオルなどといったものを持っていなかったためできなかった。うっすらと開いている目をモリヤがゆっくりと閉じさせる。ようやく深い眠りに付いた彼を見て、また涙がこみ上げてきた。


「泣くな、キム。貰ってまうやろ」


 グスッと鼻をすすりながらモリヤが訴えるが、あふれ出した涙はもう僕の意思では止まってくれない。


「どうして・・・」


 なぜ、サメオさんが死ななくてはいけなかったのだろう。こんなにもいい人なのに、どうして死ななくてはいけなかったのだろう。僕らにはまだまだ彼が必要だというのに、なぜ……!


「キム」


 もう何も言うなとばかりに、モリヤが首を振る。何をしてももうサメオさんは戻ってこない。どんなに抗っても、どんなに否定してもその事実は不変のものだ。受け止めなくてはいけない。フランダースの犬がそうしたように、全てを受け入れなくては。頭でそう思っていても心が言うことをきいてくれない。振り切ることのできない悲しみが、がっしりと僕をつかんで離してくれないのだ。何も考えたくない、そんなことが頭をよぎってしまうほどに。


『オゥェェェッ』


 突然、スピーカーからツネさんの声が聞こえた。まだこの回線生きていたのか。どうやらサメオさんが切断し忘れていたらしい。でも聞こえたのは嘔吐する声だ。どうしたのだろう。



*************************************************



 俺が動かす、なんて言い切ったものの、こんなもの運転したことがない。どうやってエンジンがかかるかもわからない。わかっているのは、ここが運転席でこの端末がキーだってことだけだ。見よう見まねで、さっきまでサメオさんがいた椅子に座り、正面に二つ、ちょうど肩幅の広さくらいの感覚で埋め込まれている球体に手を置いた。


「うっ・・・オゥェェェッ」


 とたんに吐き気に襲われた。頭の中を何かが這いずり回っているような感覚がする。キィン鋭い痛みが、前頭部から後頭部、右側頭部から左側頭部へと対角線上に次々と走り回った。


『ツネさん、大丈夫ですか!?』


 スピーカーからキムの声が聞こえた。なんや、まだ回線繋がっとったんかいな。聞かれたくないもん、聞かれてもうたな。


「大丈夫や」

『でも、さっき気持ち悪そうな声が・・・』

「もう、慣れた」


 まだ少し気持ち悪さが残っているが、意地で大丈夫だと言い張る。後輩に同情されてたまるか。自分を取り戻した俺は、コックピットの球体と装着している端末が同じ間隔で点滅しているのを見つけた。どうやらエンジンをかけることに成功したようだ。

 なるほど、この国のロボットはそういう操作方法か。シンクロ型だな。多くのロボットアニメを見ていて良かったと思った。オタクで良かったと思うことなんて初めてだ。


『ツネさん・・・』


 スピーカーからまだキムの声がする。しつこい奴やな。


「大丈夫やて。お前らはそこでサメオさんおさえとき。来たときより揺れるで」


 回線を切りたいところだが、その方法がわからない。仕方ないからこのまま繋ぎっぱなしでいくしかない。変な声あげんように注意しとかなな。

 「ツネ君、歩くことだけに集中して」とかアドバイスしてくれる可愛い女の子でもおったらええんやけどなぁ、なんて考えながらこのメガロが動くのをイメージする。


(右、右、右、右)


 何かの呪い(まじない)のように、ひたすらそれだけを繰り返した。


(右、右、右、右)


 眉間に皺がよるほど、目を硬くつぶってしまうほど集中したとき、ふとメガロの右足が動く気配がした。


(よっしゃ!)


 が、一瞬でも動きのイメージから思考がずれると、ピタリとそれは止まってしまった。なかなかシビアやな、この操縦方法。しかもサメオさんのメガロ四足歩行やろ。二足歩行のよりもイメージしにくいやんか。どないせぇっちゅうねん。


『ツネさん、動きましたよ、今!』


 犬か、こいつは。動いたけど止まってもうたやんか。そんなん意味ないわ。でも動かし方はわかった。あとは俺がどこまでやれるかだ。サメオさん、よくこんなん運転しながら人のこと笑い飛ばせたな。


「キム、モリヤ。動かし方がわかった。難しい操縦とかはないんけど、だいぶ集中せなんだらいかん。回線の切り方がわからんけん、このまんま行くけど、できれば喋らんでくれるか?」


 俺の言葉に戸惑いながらも、スピーカーの向こう側は静かになった。その沈黙をわかってくれたものだと受け取り、再びメガロを動かすことをイメージする。四足歩行のどの足を動かせばいいのかということは明確にイメージできなかったので、俺は家で買っている犬の走り方をひたすら思い出した。

 俺のイメージに応え、サメオさんのメガロは動こうとしてくれているが、ギクシャクと上下運動を繰り返すだけで前には進まない。ただ漠然としたイメージではなく、明確な指示を出してやらなくては動けないバカロボットのようだ。しかし、文句ばかりを言ってもいられない。先ほどから爆撃の音が近づいてきている。おそらく、基地を、このワーハウスを完全に潰してしまうつもりなのだろう。

 焦る気持ちを無理やり押さえ込み、足運びを静かに思い浮かべる。まず、右前足を前へ。それから左前足を前へ出すのと同時に右後ろ足を前へ。そして再び右前足を前へ出すのと同時に左後ろ足を前へ。


(右前、左前、右後ろ、右前、左後ろ)


 ブツブツと、昔受験のときに丸暗記した古文の連用形のように口に出しながら想像する。ぎこちなく動いていたメガロがやがて光を手にしたように静かに右前の足を、少し、前方へと運んだ。ついで、左前、右後ろと続いていく。繰り返し一歩一歩を踏みしめていく。歩みは遅いが、それでも、なんとか動かせた。息を飲む声がスピーカーから聞こえたが、気付かないフリをした。少しでもメガロから意識をそらしてはいけない。


(もう少し、早く・・・)


 このままのスピードではいずれ敵側のメガロに集中攻撃を浴びてしまうだろう。むき出しのコックピットにそれを食らえば俺の命なんてもんは簡単に消えうせてしまう。エリやウラコにああ言った手前、どんなことがあっても城に戻らねば俺の面目が丸つぶれだ。もう既に、半分ほど潰れてしまってはいるけどな。



第五章を御読みいただいている方が増えて参りました。ありがとうございます。

キム君も浮かばれることでしょう。死んでいませんが。

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