第七章 初任務 5
めっちゃ攻撃されてるよー
ワーハウスへと続くガッダールの大通り。
つい数時間前の日中は露店などがならび、賑やかで活気のある明るい街だった。
今はどうだろう。出撃のためワーハウスへ向かう兵士と、子どもをつれて逃げる兵士の家族とで騒然としている。子どもの泣き声が耳に痛い。
どうやらあのメガロ、ここまでは進んで来ないようだ。
後ろを振り向きながら、少し、本当に少しだけ安堵した時、突然通りの左側の建物が破裂した。
「うわぁっ!」
大きなガレキの塊が四方に飛び散る。ツネさんの頭のすぐ上を赤ん坊ほどの大きさの破片が飛んでいった。
「ツネさん!」
「大丈夫や、当たってない!」
間髪空けずに今度は右側の建物が轟音と共に崩壊した。 衝撃から生まれた風で僕は数メートル吹っ飛ばされ、ガラスの破片が散らばる地面にヘッドスライディングよろしく突っ込んでしまった。
「大丈夫か、キム!」
モリヤとツネさんが駆け寄り、二人で僕を起こしながらもまた走り出す。足を止めるのは危険だ。
逃げながら敵の姿を探した。障害となる建物はほとんどが潰されており、視界はだいぶ開けているのに、そこにはあの夜空しか存在しない。
「て、敵は…?」
「危ない、伏せろ!」
モリヤの声と同時にまた爆撃音。僕らからだいぶ後ろの建物がガラガラと姿を変えていった。
なんだよ…。
なんだよなんだよなんだよなんだよ!
「なんだよこれぇっ!!!」
簡単な任務だって、中立の街だって、攻撃はされないって、ブンカが輝いているって、だから楽勝だって、大丈夫だって言っていたじゃないか!
どこが大丈夫なんだ!
変なメガロが街を壊すし、近くに何もいないのに建物が飛び散るし、大勢の人が死んでいるし。
ガレキの下から伸びる手を握ったまま動かない子ども。
その上にふるガレキの雨。
ヒュルヒュルと聞こえる爆撃の音。
それから悲鳴。
土煙と血の匂い。
月明かり。
僕は、僕はなにをしたら、僕は、なんで、なにが…
「キム!」
「しっかりせぇ!」
頬に痛みが走る。ツネさんが僕の両頬を挟んだまま睨んでいた。
「ツネさん…」
「あさって行くには早いやろが」
「…すいません」
僕が謝るとようやく手をどけてくれた。ヒリヒリと存在する痛みが目を覚ましてくれる。
今はパニクってる場合じゃない。とにかく僕らはサメオさんと合流しなければならないのだ。とりあえず、今はそのことだけを考えよう。そのこと、だけを。
「キム、アレが見えるか?」
モリヤが指差す方向には、球体のフワフワと所在なさげに浮かんでいる物体があった。よく見るとそれは一つではなく、いくつかが点在している。
「見てろ。来るぞ」
一つの球体が何かに反応し、他のものよりも高くへ浮上した。そして青く発光したかと思うと、その光は他の球体に次々と反射のように移動し、最終的に建物前に浮かんでいる球体に到達した。そして、刹那、崩壊する建物。1秒にも満たない間での出来事だった。
「あの玉は危険だ。とにかく、あれに気をつけながら行こう」
モリヤの言葉に強くうなづき、僕らは再び走り始めた。
二人とも、すごいな。ツネさんは僕みたいにパニックを起こすことなく冷静で、モリヤはこんな状況なのに回りを良く見ている。僕も、しっかりしなくては。
壊れていく街の悲鳴をバックミュージックに僕らは走り続けた。ゼィゼィと運動不足だった肺が悲鳴をあげても、全力疾走をやめるわけにはいかなかった。
空を行く、自軍のメガロとすれ違ったとき、何ともいえない安心感が生まれたが、それでも足を止めることは許されなかった。
ここを曲がればワーハウスのある基地に出るはずだ。ゴールを認識した体に、急に動かした筋肉の反動が襲い掛かる。僕の体を支配していた緊張が抜けてしまいそうになるのを、なんとか抑えこんだ。まだ気を抜くには早い。安心していいのは、城に戻ってからだ。
転びそうになりながら角を曲がる。目の前には大きな駐屯基地。次々とメガロが出撃しているのが小さく見えた。基地の横には城にあるそれよりも一回り大きなワーハウス。最後の力を振り絞って、僕らはその中に飛び込んだ。