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第七章 初任務 4


ブンカバンカの輝きに気付いたカサンドラ公国城内のエリとウラコ。

一方その頃、一つしかない月を見上げていたキム君は・・・

 懐かしい空だと初めは思ったが、すぐに違和感に気付いた。とたんに体からアルコールが引いていく。


 月が、ひとつしか、ない――?


 それはおかしい。この世界では月が二つあることが普通なのだ。輝きの強い方、ブンカだとサメオさんが昨夜教えてくれた月が見えない。いったいどういうことなのだろう。僕はまた突然に世界を超えてしまったのか?いや、それはない。周りの風景はなにも変っていないのだ。

 ただ、空だけが、なにかおかしい。


 やがて耳にヒュウヒュウという風を切る音が届き始めた。黒のヴェールにつつまれた夜空に何かの輪郭が映し出される。何かが来る。何かが、僕からブンカを遮っている。

 パシンとはじける音が空から聞こえた。同時に、闇から切り取られたシルエット。ブンカを背負っているソイツが逆光ながらも輝きに映し出される。人…?にしては異様な形だ。


 次の瞬間、ソレはもう僕の目の前にいて、それが何なのか確かめる僅かな時間さえ与えられず、僕は地響きと砂煙に見舞われた。


「ううっ…」


 衝撃に耐え切れず、格好悪くも尻餅をついた。

 もうもうと舞う砂煙の中、何かの影がうっすらと浮かび上がる。

 情けないことだが、言い知れぬ恐怖感で腰が抜けてしまった。その何かが、影からして異形のものだということを僕に知らしめていたからだ。


「キム、いまのは!?」


 路地裏からモリヤが飛び出してきた。ツネさんを脇に抱えている。僕と同じ光景を目の当たりしに、彼も言葉をなくした。ツネさんも、どうやら頭からアルコールが引いていっているようだ。目の焦点がしっかりと砂煙に合っている。


 やがて舞い上がった砂が重力に逆らえず再び地面に戻り始める頃、ようやく異形のモノは僕らの前にその姿を完全に現した。


「なんや…こいつ…」


 細身のボディ。手足がやたらと長く、極端な猫背でまるで類人猿のような格好のまま止まっている。むき出しの口からは歯のようなパーツが覗いており、時折そこから何かの液体が滴り落ちている。排気音がまるで呼吸のように荒々しく響き、左右に3つずつ付いている目がカメレオンのように不規則にギョロギョロと動いているのが不気味さをより強く演出していた。

 メガロだということはわかったが、これは僕らの知っているものとはあまりにも違いすぎる。まるで生きているようだ。


「……」


 沈黙が不気味すぎる。


 突然、何の前触れもなくヒュオッと何かが空を割く音が聞こえた。鋭い風が僕の頬を掠めたのを認識するか否かぐらいの間で、僕の隣にあった建物が豪快な音をたてて崩れた。

 ガラガラと石壁が崩れ落ちる音

 ガラスや陶器の割れる音

 かすかに聞こえた悲鳴のような音

 全て僕の耳に届けられた。


 こいつは、今、なにをした―?


 グゥオオオオオオオオオオオオゥゥゥン…


 まるで僕がソイツのしたことについて来れてないことを誇るかのように、異形のメガロは夜空に向かって吼えた。音の衝撃でビリビリと空気が震える。

 建物の中には人もいたはずだ。コイツは何のためらいもなくそれを潰した。恐らくはもう生きてはいまい。

 頭の中を猛スピードで考えが廻る。この町は攻撃されないハズだ、とか、この家の人は誰だろう、知っているひ人だろうか、とか、このメガロはどっち側の人間が動かしているのか、とかもうイロイロだ。

 とにかく、今僕が最もすべきこと。

 わかっているのに、体が動かない。体のどこにも力が入らないのだ。僕はただ、馬鹿みたいに地べたに尻をつけてアワアワと震えている。


「立て、キム!逃げるぞ!」


 モリヤが無理やり立たせてくれなければ、きっと僕はアイツに殺されるまであの場で座り続けていただろう。

 自らの咆哮を合図に、異形のメガロは狂ったように体を振り回し破壊行動を始めた。腕が、足が、体が、まるでゴムのように伸び縮みを繰り返し、鞭のようにしならせたソレらで、ガッダールの飲み屋街はガレキの街へと姿を変えつつある。

 逃げ惑う人々の悲鳴や怒号、そして襲撃を告げるサイレンが響き渡る。

 あのメガロは敵か!


 そういえば、このサイレンは居酒屋に居たときも聞いていた。敵機襲来に身構える僕らを店に居た兵士たちが「この街のサイレンはちょっとセンサーが甘くてね。何も無いのによぉく鳴るんだよ。そうビビりなさんな。新人さん。」と笑っていたが、もしかするとあの時既に襲撃は始まっていたのかもしれない。


 再び聞こえるメガロの叫び声を背中に受けながら、僕らはサメオさんのいるワーハウスへ向かって走り出した。

 アルコールが血液内にあるからか、鼓動がドクンドクンといつもより強く聞こえる。大脳新皮質を麻痺させているアルコールの存在を感じながら、それでも無理やり頭を働かせる。もつれそうになる足を拳で叩きながら前へ進む。

早く、早く!

この話には全く関係ないですけど、アクセス数を見ると面白いくらいにキム君の回想話の「第五章 太陽と花と水の国」がスルーされています。

私の好きなネタなども入っておりますので、もしお嫌でなければ御読みいただきたいです。

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