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第二章 どこかで 2

「いたたた…あ?音ぉ…」

「あれ?しないっすねー・・」


 ようやく立ち上がったハタとタクが俺と同じように辺りを見回す。

 マヤは上体を起こせるようになったようだ。体育座りの体勢で小さく縮こまっている。顔は青い。視線はずっと地面に注がれていて、体はガクガクと震えている。

 こいつを少しくらい安心させてやりたいが、さっきから嫌な感じがして仕方がない。それはハタやタクにも伝わったようで、二人も顔を青くしながら俺を見た。きっと俺の顔も青いんだろう。顔面蒼白ってやつだ。顔に血が通ってる気がしない。


 ふと辺りが暗くなった。地面が真っ暗だ。何かに太陽の光がさえぎられたのだろうか。次におこさなければいけない行動が頭にあるのに、体が動かない。


「サイチ!上ぇ!!」


 ハタの声に反射的に体が動き、俺は上を見た。ものすごい勢いで何かが俺らの上に落ちてくる、まさにその時だった。


「マヤ!!」


 いまだに動けないでいるマヤに体当たりをし、そのままゴロゴロッと映画のアクションシーンのように影の外へ移動した。よかった、体が俺の意識下に戻って。

 直後、爆音と衝撃、そして舞い上がる砂煙。俺たちは地面にしがみつくのがやっとだった。

ビシビシと露出部分に舞い上がった砂が当たってくる。まるで無数の針に刺されているようだ。

 その痛みが軽くなり、目を開けても砂の入る心配がなくなった頃、俺たちはようやく謎の物体Xの正体を知ることとなった。


「…ろぼっと…?」


 逆光で全てが影になっていてよく見えない。ただ、大きさはわかる。バカでかい。小さい頃に憧れたウルトラさんのようにでかい。角ばったシルエットが機械だということを認識させている。


「・・な…んで…」


 マヤの大きく見開いた目が恐怖に染まり、瞳の部分が小刻みに右左と動いている。

 マヤから離れ、俺は異物を見上げた。ロボットは怖いくらいに沈黙したままだ。


「サイチさーん・・ここって日本なんですよね?これ、ずっと前に防衛庁が開発を始めたっていうGダムの試作品なんですよね?わー、もう完成してたのかー。俺たち、試演場に紛れこんじゃったんですよね?そうですよね?ね?」


 根の合わない歯を無理やり抑え込みながらタクが俺に問う。いや、俺に問う形をとりつつ自分に言い聞かせているのだろうか。だとすればわかるはずた。その推測では説明がつかない部分がモリッとあることが。

 まず、大学はどこにいった。次に他のメンバーはどこだ。防衛庁が人の真上にGダム落とすか。 

 説明がつかないからこそ、タクの推測は間違っているということになる。

 んなことはヤツだってわかってるはずだ。ただ、俺に同意して欲しいんだろう。そして安心したいんだろう。ここは日本だと。何一つ不思議なことなど起こっていないんだと。


「タク、すまんな」

「やめてくださいよ、サイチさん…」

「お前もわかっとんだろ?」

「何がっすか、俺全然わかんないっすよ!なんで謝るんすか、サイチさん!」

「タク!」

「…なんなんすか…ここはドコなんすか…コレは…一体…」


 タクが力なく崩れる。膝が着地した部分からタフッと砂が舞い上がった。


「認めたくないけどな・・コレが俺らの現実らしいわ」

「やー…動かんなー…」


 こんな状況だというのに、なぜハタの声は気が抜けているのだろうか。こいつは本当に状況がわかっているのか?いや、わかっていてもわかっていなくてもこいつはいつも通りか。今は逆にこの不変さが有難い。羨ましいヤツだ。


 サクサクとハタが砂を踏んだ。ロボットの方へ進んでいる。

 バカか、こいつは。いや、断言しよう。バカだ。


「ハタ!何しとんな!!」

「動かんのやもん、平気やろー」


 どういう理屈かはわからないが、ハタの中では『動かないもの=無害』らしい。そりゃ、いつもの平和的日常生活ではそうだったかもしれないが、今はどうなんだ。


「やめなよ、ハタ坊〜」


 マヤの止める声も聞かず、サクサクと歩みを止めないハタ。ロボットまでの距離は確実に縮んでいる。


「ハタさん!やめた方がいいっすよ!!」

「なんやー、お前ら怖がりやなぁー」


 動かない俺たちをハタはヘラヘラと笑う。いつもそうだ。

 ナンパのメッカであるアクア通り(という名のしょぼいボードウォーク)で無差別に女に声かけていくときも、「誰もいない店」という名の怪しげなアダルトショップに入るときも、ついこの前にもおぼれて死んだ男の子がいる川で泳ぐときも、何も省みずに切り込んでいったのはハタだった。そして後ろで様子を伺っている俺たちに「怖がりやなぁー」と言って笑っていた。


「アホ、俺たちが怖がっとるんやない。お前がバカなだけじゃ、このバカ!」


 いつもは冗談半分で発するセリフも、今回ばかりはシャレにならない。「アホやったりバカやったり、俺いそがしいなー」なんてまだ気の抜けたことを言っている、状況把握能力が著しく欠如している大馬鹿者を連れ戻そうと、俺が駆け出したその時だった。


パシュゥゥゥンッ


 ロボットから、橙色の光線が出た。それはハタの体を貫通したように見えた。

 正面から撃たれたハタが大きく後ろに、つまりは俺たちの方に吹っ飛ばされてきた。


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