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第六章 異世界での暮らし 7

任務決定。非戦闘員でありながら戦地へ物資を運ぶ仕事を賜りました。

 それからの一日は猛スピードで過ぎていった。

 僕らの輸送任務をどこで聞いたかはわからないけど、ウラコとエリが真っ青な顔してボコボコに歪んだ鉄板を「せ、千人針…」と持ってきた時は疑問を通りこして笑ってしまった。

 彼女らの話から察するに、


 僕らの戦地行きが決まった→戦地に行くなら千人針しなきゃ!(この発想になるのがすごい。)→しまった、針も布もないぞ!→ならいらないメガロ装甲と釘で代用だ!千本打ち込むぞ!(整備補佐エリの腕の見せ所らしい。)→釘千本もないよ!→とりあえず千回釘を叩こう!→ボコボコの鉄板完成。


 ということらしい。


「なんな、コレ。いらんわ。」


 とツネさんに突っ返されブチ切れるウラコ。

 正直、僕も返品したいけども彼女らのことを考えるとそう無碍にもできずに困っていた。

なかなか大きいのだ、この千人針鉄板。自分に正直なツネさんがほんの少しだけ羨ましく思えた。


「あんたんこと心配しとるんでしょ!もって行けー!」


 ツネさんとウラコの間で行ったり来たりを繰り返しているボコボコ鉄板。


「いらん言うたらいらんねん!」


 少し乱暴にウラコに戻されたソレはボコリと見た目に合った低い声をあげた。握るウラコの手がフルフルと震え、ツネさんを睨む大きな瞳にはうっすらと涙が溜まっている。


「ちょっとさ…」


 見かねたエリが仲裁に入ろうとしたとき。


「そんなんなくても帰ってくるし。」


 小さな声が聞こえた。それはいつもの憎まれ口叩くときと同じテンションだった。しかし、ウラコの持っている不安を払拭させるには十分な言葉だった。


「…うん。」


 感情的になった自分を恥ずかしがるように、エヘヘとウラコが遠慮がちに笑った。

 僕らの間にも安堵の空気が流れる。

 お守りなんて非現実的なものに祈らなくたって、僕らはちゃんと帰ってくる。何も心配することなんてない。ツネさんはそう伝えたかったのかもしれない。ただ少し言葉が足りなかったかな。


「キムさんもモリヤンも同じ?」


 先ほどまでの悲壮感を全く感じさせない態度でエリが訊く。

 敢えて言葉にはせずに自分の思いをそのまま顔に出した。ふっと鼻で笑うエリ。そして僕らから千人鉄板をそっと回収した。


 その後、偶然通りかかったサメオさんにまとめて3人分を渡したところ、「嫌がらせ?」と本気で言われ、エリは思いっきり笑顔で「うん!」と答えていた。ズルズルと三枚のボコボコになった鉄板を引きずって歩く34歳の後姿は中々絵になるものであった。結局アレどうしたんだろう。

 あぁ、あと千人針の本当の方法をモリヤに聞いたときの二人の落ち込みっぷりも面白かった。「千人針」とあるように、アレは元々千人の女の人に一針ずつ縫ってもらって千個の赤い玉を作るのが正式だ。鉄板と釘で代用するにしても、自分らが千回叩くんじゃなくて千人の人に一回ずつ叩いてもらわなければならない。

 その点でいくと、アレはただの鉄屑でしかないってことだな。気持ちは凄くありがたかったけどね。


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