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第六章 異世界での暮らし 1

キム君の長い回想シーンがやっと終わりました。

 そこにいたのが、今僕の隣で朝食をがっついているアスールであり、アスールの上官であるジュウザだったのだ。


 僕らがいたオアシスは隣の国との境目付近だったらしい。

 停戦中とはいえ、前線の布かれている地点から熱源反応―これは僕らがあたっていた焚き火のことだった―があがり、何事か、とアスールとジュウザが偵察に来たのだった。

 ツネさんの見た赤い目は彼らの端末のなかの一機能、赤外線フィルターの発行部分のことで、それプラスサーモグラフィー機能でもって、穴の中の僕らの様子は二人に筒抜けだったらしい。

 隣国の兵士にしては様子がおかしい。恐らく民間人だ、ということでアスールが声をかけ、無事に僕らは保護された。なんでも隣国からの脱走者がたまにあるらしく、僕らもそのうちの一つだと考えられたそうだ。


 ジュウザとアスールに連れられ、僕らはこの国、カセアロラ公国の城に案内された。

 暖かいスープを貰いながら、あのままあそこにいたらどうなっていたかを聞かされた時は血の気が引いた。

 あの砂漠の夜間の平均気温はー30度なのだそうだ。これは北極並の気温だ。そんな中に夏の服装でいれば、あんな穴ぽこと葉っぱだけでは当然寒さを防ぎきれずに凍死してしまっていただろう。

 この世界に対する知識のなさと、明らかに自分たちとは異なる服装やその素材から、僕らはその国で異世界人として扱われることになった。

 覚悟していたことだったが、第三者に改めて突きつけられると、もう抗えない事実、現実なんだと認めるしかなかった。

 そして僕らの元いた世界のことは、混乱を防ぐため、ごく一部の者にしか明かさないことが決められた。


 今後のことについてジュウザ、アスールと相談しているとバタバタと…


 バタバタバタバタ


 そうそう、こんな感じの慌しい足音が…ん?


「諸君ッ!今日も気持ちの良い朝ではないかッ!!」


 バンッと壊れんばかりの勢いで扉が開き、金髪の髪をグルグルと顔一つぶん程の高さまで結い上げた少女が現れた。

 少し離れたところで朝食を取っていたジュウザの口からダーッと本日のスープがこぼれているのを僕の視界の端で確認した。


「相変わらず良い匂いだなぁ。おい、厨房長!今日は私もここで朝食をとるぞ。用意してくれ。」


 ズカズカと人目を気にせず食堂に入る少女。少女の進行方向の人々はあわてて道を譲っている。かわいそうに、あそこの人はトレイをひっくり返してしまっているじゃないか。相変わらず騒がしい人だな。


「王女さまー!」


 少し遅れてパタパタと駆け込んできたのは他でもない僕らの仲間のウラコだ。

 そう、先ほどの騒がしい少女はこの国のカサンドラ王女(といっても地位的には女王なのだが、まだ若いため王女と呼ばれている)だったのだ。そしてウラコは王女直属のメイドの職を与えられている。

 ほぼ毎朝、ウラコは王女との追いかけっこにいそしんでいる。大変そうだが、観ているこっちは結構面白い。こんなこと彼女に言ったら「何が面白いんよー!ふんがー!!」と怒られてしまいそうだ。


 初めて出会ったときもカサンドラは似たような登場をした。

 大人の相談中にバタバタと足音を荒げて飛び込んできて、僕らを見ると


「お前たちか、ジュウザの言っていた異世界人とは!なんだ、普通ではないか。つまらんのー」


 と仰ったのだ。

 突如乱入したこの少女に僕らは唖然としたが、ジュウザからこの国の王女であることを告げられさらに愕然とした。当の本人は僕らの驚きなど気にもとめず、勝手に着席して机の上に肘を置き、まるで森の妖精を眺める少女のように僕らを見つめている。


「カサンドラ様。もう今日は遅うございます。彼らの話をお聞きになりたいのであれば明日またお改めくださいませんか」

「なに!?異世界の話も聞かずに寝ろと言うのか!?酷な男だな、ジュウザ」


 ジュウザの提案になかなかウンといわないこの少女。かなりのオテンバ姫とお見受けした。しかしジュウザも慣れているのか、王女に睨まれようとも顔色を変えずに逆に威圧感を放出して対応している。


「むー・・。ならば約束しろ。女のうちのどっちかを私の直属のメイドとするのだぞ」

「かしこまりました。アスール、すまんが私は王女を寝室までご案内してくる。その間にこの者たちの住居などを決めておいてくれ」


 そうしてジュウザは有無を言わさず王女を部屋から連れ出してしまった。

残された僕らはただアホのようにポカンと突っ立っているしかできなかった。そんな僕らをみてアスールは困ったように笑い、「まぁ、そのうち慣れるから」と言った。


 あれから3ヶ月の時が過ぎ、アスールのあの時の言葉通り破天荒な王女様にも慣れた僕らは、いまやすっかりこの国の暮らしに馴染んでしまっている。

 まぁ、悪いことじゃないよな。


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