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第五章 太陽と花と水の国 5

キャンプ地が決まりました。飲み水と食料を確保するために2班に別れて行動です。

 道なき道を、鬱蒼と茂った背の丈ほどの草を掻き分け進む。

 先頭は体の大きなモリヤ。次いで僕、ツネさんの順に一列になって進む。モリヤは林の入り口で拾ったいい感じの木の枝を使いながらガシガシと道を開拓していく。


「いやー、モリヤ先生頼もしいですなー」

「うるせぇ。俺の専門は海だ海!よいしょはいいからキムは周り見ろよ」


 体全体を使って草を分け、そして歩きやすいように踏み鳴らす。いい感じの木の棒で歩く先の地面周りを確認し、何もなければそのまま進む。それらを何気なく行えるモリヤはやっぱりスゴい。僕ならとてもそこまでできない。筋肉のつきにくい僕の体では逆に草の束に押し返されてしまいそうでもある。


「お、ヘビがおるぞー。つかまえるか?」


 林に入ってから、昆虫採集に来た夏休みの小学生のように元気になってしまったツネさんが嬉々としてすでに捕まえに行っている。

 彼は、今でこそ色白二次元オタクになっているが、昔はサイチさんとよく川を源流までさかのぼったり山に入ってヘビやら虫やらを捕まえていたらしい。

 その頃の思い出が蘇っているのだろうか。ガサガサと草の間をピョコピョコと跳びながら僕らのことなんて忘れてしまったかのように獲物を追っている。

 モリヤも少し疲れたようで、ツネさんが戻ってくるまで少し一休みということになった。


「なんであの人楽しそうなのよ…」

「や、昔サイチさんとよく外で遊んでたらしいよ」

「あー、幼馴染だもんな、あの二人」

「・・・・・」

「・・・・・」


 思わず言葉がなくなる。あのオアシスには部室にいた全員はいなかった。

 サイチさん、ハタさん、マヤさん、タク。

 彼らはいったいドコへ行ったのだろう。考えても考えても、およそ結論のでないことばかりが起きている。いまは無事を祈ることしかできない。


「あかんわー、腕にぶっとるなー」


 右腕がヘビに巻きつかれた状態でニコニコしながらツネさんが戻ってきた。右手でヘビの頭をしっかりと押さえている。


「ちょ、持ってきたんすか!?」


 海専門のモリヤがヘビの姿に身を引く。ビビッているようだ。僕はどちらかといえば山の人間なのでヘビは苦手ではない。捕まえようとは思わないけど。


「ツネさん、それどうするんすか?」

「え?食用。動物性たんぱく質やで」

「誰が何で捌くんですか?」


 刃物なんて便利な道具、僕たち5人の誰一人として持っていない。


「……。ほしたら、女どもへのお土産。」


 子どもじゃないんだから、ヘンなことはやめなさいよ―。モリヤ先生があきれ気味に言うが彼の脳内にはヘビに恐れ戦き逃げ惑うエリとウラコが浮かんでいるらしく、ニヤッと笑ったままヘビを放そうとしない。まるっきり大きなガキ大将だ。


「もう少し進みますよ。咬まれても知りませんからね。」


 体力を回復したモリヤが再びいい感じの枝を持って進み始めた。僕も後に続く。

 なんだか僕だけ何もしていないような気がして少し焦る。ここは何か食べ物を見つけなけば。今まで以上に周りを注意して見回す。

 生い茂った葉の間にある何かの木の実を見逃すまいと、眉間に皺を作りながら群生林をにらみつけていると、ふと赤いものを見つけた。


「ねぇ。アレ見て」


 僕の言葉にモリヤが立ち止まる。

 ツネさんは僕が指差す方に体ごと向いて、僕が何を指しているのかを探している。


「あ」

「あ」


 程なくして二人とも赤いものを見つけたようだ。どうやら僕だけに見えていたもの、つまり目の錯覚ではないみたいで安心した。


「行って…みる?」

「お、おう…」


 恐る恐る、踏みしめてきた道をはずれ赤いものを目指す。どうやらそれは木になっている実のようだ。

 問題の木の根元にたどり着き、見上げる。赤い木の実…。ものすごく似ている。


「リンゴ…かな」

「リンゴ…っぽいな」

「リンゴって…暑いところの果物ちゃうやろ…」


 それは僕らのとっても身近な果物、リンゴとよく似た果実だった。しかし、リンゴは冬の食べ物。この熱帯雨林のような場所に生息できるのだろうか。


「キム、取って来いよ」


 モリヤがリンゴもどきから目を離さずに僕を肘で押した。


「え?僕?」

「お前が第一発見者やろ」


 次いで同じようにツネさんが僕を押す。特に断る理由もなかったので、僕は小学生以来となる木登りに取り掛かった。

 昔はスルスルと登れていたのに、大きくなったわりにはあまり筋肉の無い体はただの錘で重力に逆らいながら力だけで登るのは少し骨が折れた。

 足場を確認しながら少しずつ登る。さほど高いところに生っていなかったのが幸いだ。リンゴもどきは3つ生っていた。僕は下に居る二人に拾うよう声をかけ、赤い実をもぎって下へできるだけ優しく落とした。


「リンゴやな」

「リンゴですね」


 僕が下に下りる間も二人はリンゴもどきをしげしげと眺め、何かおかしな所がないかとそれをクルクルと回して360度全ての部分を観察している。なんとなく待ちきれなくなった僕は、半分くらい降りたところで飛び降りた。思っていたよりも高かったようで、足に電気が走ったような衝撃がきた。


「いたた。ちょっと高かったな」

「匂いとかもまんまリンゴですよね」

「あぁ、リンゴやな」


 痛みを訴えている僕の存在は無き者にされた。別にいいんだけどね、心配とかしてもらわなくても。いいんだけどね。本当に。


 3時間も経ってはいなかったが、日が沈みかけていたので林の捜索は打ち切りることになった。

 飲み水班と合流するため、僕らは自分らで作ってきた獣道を戦利品のリンゴもどきとヘビをつれてまたガサガサと歩き始めた。


誤字脱字・・・パタッ

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