第五章 太陽と花と水の国 4
作戦会議を始めましょう。ここは大学ではないので、ね。
あーぁ。
あーあーあーあー。
ナルホドね。
なんか引っかかってると思ってたんだけど、それか。
目覚めからして少しゴタゴタしてしまったものだから見落としてた。
ここどこだ?
体を起こして周りを見回す。
僕がおぼれそうになったのはどうやら湖らしい。そして周りには背の高い、何種類かの木が鬱蒼と生えている。岩のようなものもまぁいくつか点在していて、今僕らは一番大きな岩の陰で焚き火をしているという状態だ。
大学の中にあった人口の森…と考えるにはかなり無理がある。そもそも、大学にこんな大きな湖はなかったし、なにより研修館や学部ごとに乱立していた校舎がどこにもない。地震で崩れたとしても、崩れた建物の残骸やガレキ、コンクリートのカケラでさえも存在していないのだ。
そしてここがどこだかわからない一番の原因は、木々の隙間からこっそり顔を覗かせる果てしない砂々。360度どこを見回してもその景色は変わらない。
つまり、俺たちのいる場所は砂に囲まれているということだ。そしてその砂の果ては空と一体になっている。
「なに?砂漠にいるの、僕ら」
似たような景色をTVか何かで見たことがある。
「多分ね。ほんで、ここはオアシスやと思う」
モリヤが繋げる。
「なんでココにいるかっていうのは今はナシにしようや。考えたってキリないし。とりあえず、これからどうするかを考えよ」
彼の言葉に皆頷く。
見たところ、このオアシスに人が入ったような形跡はない。生え放題の草や木がそれを物語っている。僕がTVで見たオアシスはリゾート地化されていてホテルにプールまでついていた。同じ名前で呼ばれているとはいえ、そのオアシスとこのオアシスはまるで違っている。
「はい」
この会議はどうやら挙手制で行われていくらしい。エリが、先ほどまで人をバカにして遊んでいたとは思えないマジメな顔で手を上げた。
モリヤが無言でエリに発言を促す。さしずめ彼は議長といったところか。
「食料と飲み水の確保。水はあそのこ湖にあるのをなんとかろ過して飲めるようにすればいいと思う」
「なんとかって、どうすんねん。水溜めとくようなもん持ってないぞ。ほんで、食いモンはどうすんねん。こん中の誰一人としてサバイバル知識なんぞ持ってないやんか」
意外とまともな発言をしたエリにツネさんが水を差す。
彼の言うことももっともなのだが、あまり出鼻をくじくようなことは言わないで欲しい。気力HPにダメージを受けてしまう。この状況で頼れるものなんて己と仲間の気力だけなのだから。
「とりあえず、野性的に判断するしかないんちゃう?」
匂いかいだり舐めてみたり―。とエリの援護射撃にまわったウラコの隣でツネさんが顔をしかめた。
「舐めて毒やったらどないすんの。死ぬるぞ」
「ほんだらなんも食べれんでないで!食べんかっても死ぬわ!」
キーッといまにもツネさんを引っかいてしまいそうなウラコをモリヤが「どうどう」と落ち着かせている。でもモリヤさん、そこは「どうどう」じゃなくて「まぁまぁ」のほうが良いんじゃないでしょうか。
「オレは絶対最後に食べるけん」
暴れるウラコをさほど気にもとめず断言するツネさん。
現実主義である彼の言うことは正論ではあるが、いかんせん場の空気や人の気持ちを読むのが極度に下手であるため、その発言はしばしば人に苛立ちをもたらす。
そして人よりも若干キレ時の早いウラコとしょっちゅう今みたいなケンカを始めてしまう。今ではもうクラブ員は慣れたもんで、荒れるウラコを宥める役とそのウラコという火に油を注がないよう、彼女からツネさんを離す役と、自然といる人間で賄うようになった。
この場合、ツネさんを離す役は…あれ、僕か?
「いいよー、もう。危なそうなものはキムさんに食べさせてさ、」
「おい」
人をネタに使いながらも、やんわりとエリがケンカを止める。
「ツネさんが最後に食べるんで構わんけん、とりあえず何か探そうよ」
エリの提案にモリヤが同意する。
「したら、食べ物班と飲み水班に別れたほうがええな」
「オレ歩くん嫌やけん、飲み水班な」
「なんであんただけワガママ言うんよ!」
せっかく収まったケンカが再び炎上。これから先、この二人がそろっている限りはずっとこんな感じなのだろうか。
僕がネタにまでなって止めたというのに。先が思いやられる。
何度かのケンカの果て、ようやく班が決まった。その頃にはだいぶ動けるようになっていた僕も班に加わる。
ツネさんのワガママは残念ながら通らずに、普通に分けて男は探索、女は飲み水となった。
ツネさんはしばらく男女差別がどうのこうのと文句を言っていたが、
「ここではもう文化的な生活なんて送れないし、原始に戻ったみたいなもんでしょ?それで昨今の問題である男女差別とか出されても全くそぐわないんですけど。原始なら原始の生活の方は能率良いんじゃないですか?体力のあるもんが外回り、手先の器用なんが身の回りってのが一番いいと思うんですけどね。あ、わかりました?じゃぁもう、お口にチャック。ね」
と、普段可愛がっているエリに早口で一気に捲し立てられ、凹みながら口を噤んだ。
「いいかー、ここをぉ、キャンプ地とぉ、する!」
大好きな深夜番組のセリフと同じことが言えて至極ご満悦なモリヤ。同じくその番組好きのエリはケラケラ笑っている。ツネさんもそれがわかるのか、ニヤニヤとしていた。僕とウラコはちょっとわからなかったけど、なんとなく場が和んだのでまぁいいかと思った。きっと彼女も同じ思いだろう。
皆で無事に動いている時計の時間合わせ、そのまま拳を合わせる。気合入れだ。気合HPがグンと上がる。
「健闘を祈る」
「ぐっどらっくゆー!」
飲み水班から食べ物班へのエールだ。
「おぅ。そっちこそな」
「飲める水にしてや」
「行ってくるわぁ」
各々に返答し拳を離す。3時間後に再び集合することを確認し、僕らは分かれた。
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