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第五章 太陽と花と水の国 3

もう会えない愛する人に、せめてもの別れの言葉と「ありがとう」を告げた。

 ・・って…ちょっと…

 …なんで?

 なんか…急に息が苦し…っ


 息を吸おうと口をあけても、空気じゃないものがどんどん体にはいってきて空気を入れるスペースを埋めてしまう。死んでもなお苦しみっていうのは消えてくれないのか?

 苦しさからバタバタと足掻く僕の周りの空気が重く冷たく変わっていく。足掻くことさえままならない。

 これは…水だ!


「ぶわはっ!!」


 目を開けてなんとなく理解した。河か海か湖か、とにかく僕は水の中にいる。首を出して足がつくくらいの深さだ。

 体中に謂われ不明な痛みがあるが、水の中にいるからかなんとか耐えられるようだ。

目の前の岸には、三角座りで冷たい視線を僕によこしているエリとウラコがいて、


「まだ死んどらんよ」

「気色悪いこと言うな」


 と、ステレオで僕を罵った。

 彼女らの奥の方に、焚き火に当たりながらこっちをみて爆笑しているモリヤとツネさんがいた。

 なんとなく、理解した。この小娘たちが僕を投げ入れたんだ。


「殺す気か!」

「殺したかったわ」


 ねー。と顔を見合わせ二人で同意し合うウラコとエリ。なかなか残酷なことを言ってくれるじゃないの。


「早くあがらないと風邪ひくよ」


 ほれっ―と投げ入れられた長い木の枝端を掴んで水の中をザバザバと歩く。体に走る激痛に顔を歪めるが、反対の端を持っているエリとウラコが容赦なく奥へ歩いていくので体が前へ前へと引っ張られてしまう。

 この二人、優しいんだか優しくないんだかよくわからない。

 水から上がると、重力がずしっと体にのしかかってきた。その影響でかはわからないけれど、体に走る痛みが激痛へと進化し思わず呻き声を漏らす。


「あー、その痛み少ししたら消えるよ。とりあえず上だけでも脱いで火の前で横になってなよ」


 他の皆はすでにこの痛みを越したようで、エリに追い立てられて火の近くに僕が横になれる場所作りをしてくれている。


「いやー、それにしてもおもろかったなー!」

「相変わらず、ネタの宝庫やね」


 いまだ笑いから立ち直っていないモリヤとツネさんが、まだ顔面を引きつらせながら横になった僕に葉を大量に被せてきた。

 保温の役目があるのだろうけど、嬉々としてバサバサ葉を投げてくるこの二人からは“いやがらせ”というものしか感じられなかった。

 隣ではウラコとエリが二人がかりで僕の服を絞っている。ヘンな服、ヘンな服と連呼しながら。


「僕、なんかした?」


 こんなにもいじられる理由がわからない。


「なんかしたもなにも!」


 また笑いがこみ上げてきたようでモリヤがブフッと噴出した。ツネさんもプルプルと体を小刻みに震わせている。顔は肩に押さえつけられていて見えないが、明らかに笑いを堪えている状態だ。


「お、お前はな、起こそうとしたエリとウラコに向かってな、ぼ、ぼ、ぼ、ぼくブファッ」


 モリヤは笑って笑って話ができないようだ。


「もうアカン!エリちゃん言うたげてー!!」


 ツネさんも同じ状態らしい。火の近くの木に乱暴に僕の服を干していたエリに助けを求める。


「おー、言うてやろうか!言うてやろうか!!」


 ズカズカと女とは程遠い歩き方で肩を怒らせながら寄ってくるエリ。そして僕の傍にくるとそっと僕の手を取り、


「『僕を愛してくれて、ありがとう』」


 とやたら芝居がかったように言った。

 とたんに体中が熱くなる。血の気が増しているようだ。顔に熱が集まっていくのがわかる。

なんてこった。あの言葉、実際に言ってしまってたのか。よりによってこの人らの前で。


「大方彼女さんへのメッセージやと思うけどね。死ぬかと思ったわ。寒くて」


 ぺいっと僕の手を払い捨ててエリはモリヤとツネさんの近くに腰を下ろした。そしてその手をモリヤの服にこすり付けてモリヤから「こらっ!」と怒られている。


 「ほな、キムさんも起きたし、そろそろしたら作戦会議始めようかー。」


 さほど重要でないことのようにサラッとウラコが言った。作戦会議?何の??

 疑問をそのまま顔に出している僕に気付き、ウラコがまたまたサラッと言った。


「キムさん、ここどこやと思ってるん?大学ちゃうよ。わからんの?」


誤字脱字、おーじんじおーじんじ。

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