恋慕
6歳の時だった。
茹だる様な暑さの夏だったが、その日は元気に外ではしゃぎ回っていた。
偶の外出だったからだ。
しかし、6歳児が動き回って迷子にならない訳が無い。ましてや、殆ど憶えきれていない土地ならば尚更だ。
つまり私は迷子になった。
行けども行けども益々分からなくなるばかりで、遂に泣き出した。
そんな時、あの人は私に声をかけてくれた。「どうしたの?」と。
あの人は泣きっ面の私を、必死に笑顔に変えようとしてくれた。変顔や一発芸を一杯やってくれた。
私はそれが面白くて、嬉しくて、泣き止んだ。更に、迷子の寂しさ、恐怖も薄れていった。
これが私の初恋の始まりだった。
それからの私は事あるごとに家を抜け出し、あの人を探した。
ある日、やっとの事であの人を見つけ出し、友達になり、そして遊ぶようになった。
私達は毎日の様に遊んだ。
こってりと怒られた事もあったが、それでも辞めなかった。
毎日が楽しかった。
初等学校に行くようになってからもそれは変わらなかった。寧ろ、同じ学校でしかも歳が同じだから学年まで一緒な訳で、余計距離が近くなった。試験の点数で勝負をして、何度も追いかけっこをして、毎日の様に悪戯を仕掛け、常に楽しかった。
初等学校に入って2年、12歳の時だった。
陛下との婚約が決まった。
雪の降る日の事だった。
その知らせは余りにも突然で、そしてその知らせは、余りにも容易く、私とあの人との関係を崩壊させた。
その日以来、私の何もかもが変わった。
礼儀作法から着るもの、学ぶ授業も変わり、学校も変わる事になった。
当然、あの人も悲しんでくれた。
だけど、周りの人はあの人の事を良く思ってなくて、縁を切れと言われた。身分に違いがありすぎるから、と。
長年共に過ごして来たからこそ、あの人は絶交と言って諦める人じゃ無い事ぐらい、すぐに分かった。私だって諦めきれない気しかしなかった。
でも、縁を切らなければあの人の事を不幸にすると言われ、断腸の思いで縁を切ることにした。
だから私は、自分が悪役を買って出ることにした。
結果、見事あの人には嫌われ、接することは無くなった。
毎日、枕を涙で濡らした。
16になり、正式に成婚が決まり、私は1番目の妻として、陛下の元で暮らし始めた。
今までに無いような暮らしぶりだった。
豪勢な食事に、豪華な邸宅、6人もの侍女を従え、自分はこれと言った仕事をしなくていいのだ。
唯一の仕事は夜伽だった。
陛下はいつになっても、どんな時でも、私を優しく愛してくれた。
私は初めてを陛下に捧げたのだ。
甘美な時の筈なのに、優しく、気持ちの良い物の筈なのに、私の心は満たされなかった。
ふと、あの人の事が気になり、それとなく侍女もとい従者に調べさせた。
すると、あの人は金銭的な面で色々と苦労している、と聞いた。
幸い、お金はかなりあったので秘密裏にあの人を支援した。
痕跡を一つたりとも残さず、ひっそりと支援した。
あの人とまた友人になると、あの人に多大なる迷惑がかかると思い、ひっそりやったのだ。それに、嫌ってる女から支援など受けたくないだろう、そう思ったからだ。
それでも私はまだ、あの人との思い出に価値を見出だし、支援したのだ。せめて幸せになってくれますようにと。
18の時だった。
同級生は皆、高等学院に進学して行った。
しかし、あの人はやはり金銭的な問題で行けない様だった。
流石にこれを援護すれば気付かれる。そう思ったが、やはり、あの人が幸福になるのならと、援護した。
そして、やはり気付かれた。
ここぞとばかりに高額な買い物をするようになったのだ。
だが、それでもお金があったから私は援護を続けた。
ある日、陛下に金の使い道について問い質された。
そこで遂に、私が陛下以外の為に金を使っていると露わになった。
そして私は多大なる批判を受けた。
しかし陛下は私を庇って下さった。
それ以来私は更に慎重に、あの人を支援する様になった。
この頃、あの人に恋人ができたと聞いた。最初は悲しく思ったが、すぐに思い直し、幸せなら尊重しようと思った。
だが、この知らせと同時期ごろに、あの人の素行がどんどん悪くなっていっている、ということも聞いた。
涙こそ出なかったが、思い悩んだ。
どうすれば戻るのだろうか、と。
しかし、考えども解決策は全く思い浮かばなかった。
だから、だらだらと支援だけは続けた。
冬の晴れた、とても寒い日だった。
遂に陛下がお怒りになった。私の支援についてだ。
そして、私は陛下からの絶縁を言い渡された。
その日の内に私は、陛下の宮殿から追い出された。碌な準備もできず、着の身着のままだった。
行く当ての無い私はあの人を求め歩いた。
暫くして、遂にあの人と再会できた。
あの人は酷く荒れていた。金が足りないからだという。
そういえば私が追い出されてからは1度も支援していない。陛下の方が支援するわけでも無い。
可哀想に思った私は、とりあえずあの人に会った。
最初は嫌そうな顔をしたが、私が支援していたというと、あの人は目の色を変え、何か閃いた様に、私を慌てて家に招き入れた。
そして私はあの人に強姦された。
もっと支援しろと言われ、できないと答えると急に怒りだし、そのまま強引に押さえつけられ、前戯も愛撫もなしに犯された。
支援がなくなり、恋人とも別れ、溜まっていたからだそうだ。
そしてあの人は私を家からほっぽり出した。
私はずっと泣いた。
声を出さず、ずっと涙を流し続けた。
宮殿を追い出された時点で実家からも勘当された。
私には居場所がない。
あの人の家を追い出された時は服も何も無しだった。
私には何もない。
色々やってきたが、何も成さなかった。
私には何もできない。
何がいけなかったのか、どうすればよかったのか。
私には何も分からない。
私にはもう、何も考えられない。
重く暗く美しい恋愛を
これをテーマに考えました。
書いてて凄い暗くなりました。
何やってんだろうか。
読んで頂きありがとうございました。
皆様のご意見ご感想、誤字脱字文法の誤りの指摘など、お気軽に述べてください。
本当に、読んで頂き、ありがとうございました。
注意
これ以降は別に読まなくても大丈夫な、所謂いらないところです。
飛ばしてくれて構いません。
設定としては、
登場人物全員に名前はありません。
学校は10〜14歳は初等、15〜18は中等、18〜20までは高等となっています。
それから、『私』と『あの人』は平民です。『陛下』は王様です。
そして、設定ではないけど、僕は表現についてめんどくさい言い回しはあまりしません。
例えば胸の事を『二つのメロン』だの、『柔らかき二つの山』だの、こういう風には言いません。胸は胸と言います。
何だか、煩わしいと思うからです。
「グロい表現は細かくやる癖にエロスが入るといい回すのはなー」っていう感じです。
以上です。
ご精読、誠にありがとうございました。