プロローグ
この世界には原則がある。
それは一言で言ってしまえば"表裏一体"だ。
全ての物事には表と裏があるように、真と偽、善と悪、生と死などの対極となる2つが存在する。
また、その2つは密接に関係していて切り離すことができない。
この原則に、例外はありえない。
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「なぁ、この『アナザーフォールズ』ってアプリ知ってる?」
それは、昼食を一緒に取っていた友人の治幸にふられた何気ない会話だった。
「最近ストア開いてないから分からないなぁ。どんなアプリ?」
アプリ名からして、明らかにくだらないネタアプリだと思った。
「なんとこのアプリ、使うと平行世界の人と話せるんだってよ!」
すごく楽しそうに話しているが、この説明でクソアプリだと俺は確信した。
「それってつまり、アプリを起動している人同士をランダムで繋いで会話するやつでしょ?同じようなやついっぱい出てるじゃん。」
「と思うじゃん?だけど変なレビュー投稿されたのが話題になってんよ!!」
ここからが話の本題だと言わんばかりに、治幸は目を光らせた。
こんなに話の続きを聞いて欲しそうに見られたら、聞かないわけにはいかなかった。
「変なレビューって?」
「それがさ、『アナザーフォールズ』で繋がった相手が自分だったってレビューした人がいるんだよ!しかも一人だけじゃない!複数の人が実際に自分と話したってレビューを投稿してるんだ!!」
治幸はオカルト系の話になると熱くなるところがあった。
あいにく俺は幽霊も宇宙人も信じていない。
初めは自分の声が返ってくるだけではないのかとも思ったが、そこまで単純でくだらない話はさすがに治幸でもしない。
「サクラじゃないのか?」
治幸は首を横に振ったあとに答えた。
「このアプリを作ったのは個人だぜ?しかも無料アプリだ。仮にサクラだとしてもこのレビューはおかしくないか?」
治幸の言っていることが本当なら、確かにそれはおかしい。
俺は返す言葉を考えた。
しかし、これ以上レビューを否定する言葉は出てこなかった。
数秒間の沈黙のあとに、俺は軽くこう返した。
「なら、家に帰ったら俺が試しにアプリをダウンロードしてやってみるわ。」
本気でやってみる気はなかった。
家に帰ってまだこの会話が記憶にあったらやってみようと思っただけだ。
治幸は急に心配そうな顔をし始めた。
「なら気をつけろよ。このアプリの都市伝説がネットに上がってたのも見たが、もし自分と繋がったらすぐに切らないとヤバイらしいぜ。」
出来ればそのヤバイの内容をもっと具体的に説明して欲しかった。
治幸は怪談や都市伝説の話題を話すことは多いが、実際に自分で心霊スポットに行ったり都市伝説の内容を実行したりはしない。
俺はその逆だ。
「じゃあ今日の講義は終わったし、俺は家に帰るとしますか。」
その日は午前だけの講義だった俺は、昼飯を治幸食べ終えたあとに別れた。
俺は駐輪場に停めていたバイクのエンジンを掛け、自宅へと走らせた。
俺は北沢一馬。
あの時はまだ知らなかった。
この世界の原則を―――――