ロンロンとの出会い⑴
再建されて行く僕のバトロイド。大破したそれは、使える部品がほとんど残されていないのだとオヤジが嘆いていた。
初の墜撃で幾分資金を得たものの、膨らみ上がったオヤジの借金には遠く及ばない。
僕は今、コックピットの中で、オヤジの指示通りの格好をバトロイドで再現する。外ではオヤジがメンテナンス用のロボ「ナーサリー」に乗り、バトロイドの関節などの決められた部位をゴム製のハンマーで叩いている。
「気分はどうだ?」
「退屈だー」
「これでな、頭部に埋め込んであるIA(人工知能)からうまく指令が届いているか検査しているんだ。異常なら機体は跳ね上がる。今のところそれはないな。」
僕はぼんやりした頭の中であの日のことを思い出していた。ロンロンと出会った日。
、、、「いいから早く入れって、時間がねえし見つかっちまう。」
酒場で参加したポーカー。全財産を振りはたき、777AAのフルハウスで華々しい圧勝を決め、勝ち取ったのは、キャンセルで闇に流出した超移民船団への搭乗及び居住許可証だったのだが。
「これ、どう見ても正規のルートじゃないじゃないか!」
必死になって僕は反抗した。酒場の下っ端は、「赤ワイン2007」と書かれた木箱の中に僕を押し込めようというのだ。
「しかもこの許可証、判もなければ居住予定の部屋番号も書かれていないじゃないか!」
ほとんど狼狽している。
「いいから入れって。」
そう言って僕は木箱に押し込まれると、外から鎖の音がジャラジャラとして、南京錠までかけられてしまった。
「そういうこった。お前のカスぐらいの全財産でガイアに乗り込めるんだ。安い買い物だと思っとけよ。」
これじゃあまるで島流しだ。酒場の勝負相手はみんなグルだったに違いない!
こうして僕は拍手喝采を浴びて宇宙に旅立つ船団の門出を、カビ臭い倉庫の中で迎えたことになる。
やっとの思いで木箱の箱を突き破り、カモフラージュのために箱を綺麗に元通りに直す作業を終えた。
あとは無一文。その辺を駆け回っているであろうネズミたちとさして立場は変わらない。さて、どうやって居住地区に行けばいいのか。
しばらくさまよって、そこがどうやら移民船団の地下で有ることが分かった。しかし、整然と作られた通路では視界がよく、監視もちらほら見かける。そうしてたどり着いたのが地下ボイラー室であった。
格子状の鉄のブロックが渡された通路を挟み、無数のボンベが並んでいる。その先にはさらに地下へと続く階段があり、、、
僕はそこでディスコを見つけた。
似たような連中が10人弱、歓喜のあまりに踊り狂っている。恐らくは今の僕とさして変わらない連中なんだろう。奇声で向い入れられた。
「よーし、祝いのシャワーだー」
骨と皮みたいに痩せた男に思い切りワインを浴びせかけられた。
「実は僕、ワインの箱に入ってたんだ、さっきまで。」
一同大笑い。
「俺はサム。こいつがニコラで、こいつはミカエル。有象無象がよく集まったもんだぜ。」
「ありがとう、僕の名前は、、、」
「ワインだろ?なあ?」
他のみんなも頷いてしまった。まあいいか。
向こうでは、どこから持ってきたのか、宇宙食のパックがゴロゴロと転がっていた。パッケージは大小問わず全てがオリーブ色に塗られていて、細かい英字を読まなくては中に何が入っているかわからない。
僕がもじもじしているとサムがやって来て、
「こういうのは開けて確認するんだよ!」
とパッケージを引き破り、床に大豆の大きさのゼリービーンズが炸裂した。
「これ今たべたかったのー」と、金髪で胸のあるニコラが慣れあいに飛びついて来た。やや不潔だと感じた。
喉が乾けばワイン、口をすすぎたければワイン。とにかく、純水は貴重で、どこにも見つからなかったそうだ。僕は酔いの回った千鳥足で何とかかんとか、上のボイラー室に抜け出すことができた。その場に崩れ倒れる。
「ニーハオ」
それくらいの中国語は知っていた。
「メイグアンシーマ?(大丈夫?)」
顔を上げるとそこにはチャイナ娘が座っていた。