株式会社「市民防衛(シチズン・ディフェンス)」
「三番目のG(重力)が来るわよ。」
ロンロンのアシストのもと、僕は宇宙を目指す。切り抜けた音速の壁、そして大気圏を突き抜けると、バトロイドの挙動は一気に軽くなる。そして、第三加速を終え、飛び出した宇宙の先では、バトルシップを砦とした軍の戦闘機が敵軍の猛襲に対し、攻防の爆雷を炸裂していた。
「さあて、今日の戦果はいかほどかな。」
ブラウン管の並ぶモニターを前に、オヤジが無精髭のあごを撫でる。
「最近、商売あがったりだからなあ、、、」
ロンロンはモニターから目を離さない。
「敵軍だって、本気なんだから仕方ないわよね。機動性でははるかに有利なはずなんだけど。」
僕たちの仕事は完全に歩合制だ。追撃数により、下駄を履かせることなくきっちりと計算された報酬が軍により支給される。もちろん、追撃出来なければ一文の利益もない。
当初は、軍の戦力単独で戦闘が行われていたのだが、そこへ民間戦力の参加が決定されたのはつい最近のことだそうだ。もちろん、その理由は、軍の戦力を動かすのよりも民間の戦力を用いた方がコストが安上がりなこと。現在でも、幾つかの民間の組織が戦線に参加している。そして、実はそれ以上に大きな理由があると僕は見ているのだが、、、
と思いつつ、このバトロイドの設計者であるオヤジの顔をモニター越しに伺う。
「どうした?燃料もったねえんだから早く戦線に向かえよ。」
そう、恐らく軍は、彼らが想像もつかぬような仕組みで翔けるこのバトロイドに一目置いて僕らに参戦を許したのだ。
バトロイドの全身にたぎる赤い血液、鼓動、オヤジが言うそういった表現は、恐らく比喩的な表現ではないのだろう。
「ブツブツ言ってると被弾するわよ!」
「分かってる!」
右手を大きくしならせ加速を増し、ジョイスティックの操作でバトロイドの細かい動きを再現する。
、、、被弾ゼロ、追撃数、ゼロ。最近はなかなか戦果を挙げられない。
「ドッジボールでボールをかわすのが上手くても勝てないだろ。」
オヤジが呆れている。
「今月も赤字ね。」
ロンロンも呆れている。
しかしこの商売、1体追撃すれば成金の相場なのだ。口実に過ぎないけど。
僕らの住む廃墟ビルの街にはいつも乾いた砂混じりの風が吹く。
「今日も宇宙牛丼だな、3人で。」
オヤジが白い歯を見せる。
かたりと慎ましい音を立てて傾いたのは、僕ら3人の組織の名が書かれた表札。
それを読み上げるなら、
株式会社「市民防衛」、英語的発音では正確に、「シチズン・ディフェンス」。