バトルシップの歌姫
メカ設計者のオヤジ、チャイナ娘のロンロン、そして僕で結成している民間戦力の「市民防衛」の3人を乗せた小さな宇宙船である「ラクシャ」は、戦線の最前線へ参加するため、今まで連結していた移民船団「ガイア」を離れ、バトルシップ「セブンス」へと合流する。
バトルシップ「セブンス」に近づくと、その周囲を護衛する軍の戦闘機たちが、僕たちの「ラクシャ」を誘導した。誘導のための白いビームがバトルシップ本体に向かって伸び、その先に「ALL RIGHT」と表示された電光掲示の大型のLEDライトが右から左に向かってスクロールしている。「ラクシャ」の地下にある操縦室のモニターは、大きく迫るバトルシップの本体を映し出していた。
バトルシップ「セブンス」の本艦より、通信が入る。
「こちらセブンス。貴艦の受け入れを行います。」
オヤジのゴーサインを確認したロンロンは、忙しく操作盤のキーボードを打つ。
こうして移民船団「ガイア」を離れた僕らの宇宙船「ラクシャ」は、バトルシップ「セブンス」に合体した。
「後は俺に任せて、二人はバトルシップの館内でも散策してくるといい。」
オヤジがそう言うと、好奇心旺盛なロンロンは目を見開いて喜んだ。
ラクシャの地下にある操縦室からいつもの廃墟ビルへと登り、ガレージに入ると何かを覆う大きな麻布が目に入る。それを大きく引き払うと、滑空二輪「セラーム」がその流線型のフォルムを露わにする。
僕はバトロイドと共通のキーをハンドルに差し込み、「ニトロ」と書かれた赤いワイヤーを力任せに引っ張った。エンジンの始動は良好だ。
「少し、久しぶりだね、こいつに乗るのは。オヤジに初めて会った時、これに乗っていたよね。」
「そうね。機械は水が大敵だから、ラクシャの乾燥した環境はいいのかもしれないわね。」
滑空二輪にまたがり、バトルシップの艦内に向かって走り出した。
ラクシャとバトルシップ「セブンス」の結合部には頑丈な隔壁で隔てられていた。その横にある操作盤に軍から支給されたカードを通し、暗証番号を打ち込むと、がらがらと音を立ててシェルターが開いた。長い廊下が続き、ラクシャの砂混じりの風が吹き込んでいった。
やや進むとロビーのような大きな空間に続き、いかにも軍からの支給品というような頑丈な椅子や机が並んでいた。その方々では、軍の隊員たちが話をしてくつろいだりしている。
その先には、隊員に向けた売店が並んでいて、その中には僕の好きな宇宙牛丼のチェーン店なんかもあった。
「私ちょっと、あの店が気になるわ。」
ロンロンが指差す先には「宇宙系女子の最新ファッション」と大きく掲げられたブティックがあった。バトルシップといえど、休日のファッションに事欠くことはないのだろうか?
ロンロンと別れ、僕は別の売店で油を売ることにした。
僕が雑誌を読んでいると、何処か聞き慣れた声がした。
「おう、コスモ。奇遇だな。」
声の方を向くと、そこには「フォーティア社」の戦友、ガーラムがいた。
彼はチョコレート味のゼリーチューブを僕に向かって投げ渡す。案外、気の利くやつなのかも知れない。
「お前のとこも今日、到着したのか。」
「ああ、ちょうどさっき。」
ガーラムは聞かなくとも知っているというような顔をした。
「最前線に参加できるなんて、今のうちから血が騒ぐ思いだぜ、そうだろ?」
ガーラムは馴れ馴れしく腕を肩に組んで来た。僕は反応に困ったように笑った。その時だった。僕の右手に握っていたゼリーチューブが素早い動きで奪われた。
「あんたが大空隊員のひとり息子ってわけね。」
銀色に光るサングラスに、ウエーブのかかった長い髪は、柔らかな金色をしている。
彼女が片手でサングラスを外すと、その水色の瞳孔が僕を射止めていた。その眼光に少しばかりたじろいだ。
「私の名前は昴よ。これ、もらったから。」
僕はゼリーチューブを握っていたはずの右指を不自然に動かした。