ラクシャ、発進!
バトルシップ「セブンス」艦内。ガーラムは更衣室前の自販機の前でチョコレート味のゼリー・チューブを握りつぶすように飲んで、ゴミ箱に投げ入れた。
「こんなところにお呼ばれなんて、どういう風の吹きまわしなんだかな。」
僕の属する株式会社「市民防衛」にも軍からの綺麗な封筒に入った通知が郵送されてきて、今日の作戦会議に出席するよう催促された。ガーラムの属するフォーティア社にも同じ通知が送られたのだろう。
参加者一同は戦艦内の大ホールに集められた。大ホールの天井は特殊な形状をしており、階段状に配置された席のどこからでもスピーカーの音が同等に聞こえるよう工夫されている。
壇上には超移民船団「ガイア」の船団旗、及びセブンスの軍旗が仰々しく飾られ、その周囲には民間戦力の各社の旗も並べられている。その片隅。
「あんな旗、うちにあったかしらね。」
ロンロンが向ける視線の先には赤地に金の刺繍で描かれた「市民防衛」の旗があった。
「こういうこともあろうかと思ってな、特注しておいたんだ。ちなみにデザインは俺だ。」
不死鳥を囲む月桂樹の輪の中央に「市民防衛」の刺繍が施されている。なかなか悪くない。
その隣には、黒字に紫の横帯が入ったフォーティア社の旗もあった。
その壇上に、総指揮官である提督が姿を現す。
「昨日、本戦艦に搭載された望遠レーダー<スバル>に、敵機の巨大戦艦の接近する像が確認された。接触は約3日後と予想され、これに対し我が軍も民間戦力を交えた大規模な作戦を実行することとする。激しい戦闘が予想されるため、バトルシップ「セブンス」はシティのある移民船団「ガイア」との並走をやめ、少し距離をおいて戦うことにする。民間戦力の各社については、数日内に主力戦艦をセブンス近辺にて、待機されたい。」
作戦会議後、ラクシャに改めて軍からの通知が届いた。封筒には白いカードが一枚だけ入っていた。それに作戦会議にて各社の代表者に手渡された暗号カードを重ね合わせることで文字が姿を現す。厚紙の暗号カードには長方形の窓が切られ、そこには文字を浮き上がらせるための特殊なフィルムが貼られている。
このカードの暗号は表示後、約30秒で自動消滅します、という注意書きの通り、フィルム下のカードは紫外線で黒く焼け焦げ、文字を判別できなくなっていた。
「でも、私たちにはバトロイドはあっても、主力戦艦なんてないわよね。」
ロンロンがショートカットのウェーブの毛先をくわえている。
「セブンスに僕たち専用の部屋と機器が用意されているとかかな?」
「いや、実はな、、、」
オヤジが続ける。
「このラクシャは元々は小さな宇宙船だったんだ。すっかり老朽化してスクラップになるところを、俺が買い取って自分の船にしちまった。もちろんこれ単独で宇宙を航行することもできる。」
かつてはこの船の廃墟にも賑わう町があり、人々が暮らしていたという。しかしそれは放置され、人が離れ、恒星の光をもろに浴びて今は砂と瓦礫の街となってしまった。
「俺たちはこの船を持っていく。これから出航の準備だ。準備が出来次第、セブンスに向かって旅立つ。」
出航まであまり時間がない。僕はバトロイドに乗り、オヤジやロンロンとともにラクシャの地下、機関室に向かった。見覚えのある通路は恐らく、初めてロンロンと出会った時に通ったことのある道だろう。
作業はやや難航したが、数日後、軍との約束の時間ギリギリには間に合うか、という頃には完了した。3人は廃墟ビルに作られた操縦室のモニターの前に座った。いよいよ発進だ。
「進路、オールグリーン。」
移民船団ガイアと通信し、ラクシャの離脱とガイア側の接続部の閉鎖のタイミングを合わせる。
「こちらガイア。貴艦の離脱ののち、シェルターを閉鎖します。」
「了解。」
オヤジが出発のカウントを数える。
「3、2、1、、、
戦艦ラクシャ、リフト・オフ!!」
地響きが轟き、雷鳴のようなエンジン音をバリバリと轟かせ、ラクシャは出航した。
目指すはバトルシップ「セブンス」、戦いの砦となる場所だ。