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コスモ・ドライブ!

「牛丼特盛り、3点セットでお願いします。」

顔なじみの店員が軽い会釈を返してくれた。間もなくやってきた牛丼に大量の紅生姜をてんこ盛りにして、追い打ちをかけるように七味唐辛子を浴びせかける。その電撃的な味にぐっと目を閉じると、妄想に火がついて、、、


意識がぐわりと時空を掛ける、、、


そしてそこには10年後の僕がいた。通りすがりの酒場のポーカーの幸運で偶然にも乗り合わせた超移民船団「ガイア」の一角には、僕らがかつて旅立った地球の日本発のファーストフードのチェーン店「S屋」が店を構えていて、その宇宙支店1号店で僕は「宇宙牛丼」に食らいついているのである。時折ゴクリと辛さを飲み込む麦茶をはさむ。


「<宇宙>って付ければなんだって売れるんだから軽率よね。」


僕の右耳に突然飛び込んできた女声の中国語。彼女の名前は「ジェニファー・龍々(ロンロン)」。本名か否かと疑問だが、彼女がそう呼べと言うのだから仕方ない。お下げ髪に泣きぼくろ、クールな目元が印象的だ。

僕は覚えたての中国語を披露する。

「ダンシュー、ジェイシューフンハオツーア(でも美味しいからいいじゃない。)」


麦茶を置いた時だった。突然鳴り響く襲撃警鐘。移民船団「ガイア」の護衛のために並走するバトルシップ、通称「セブンス」が敵襲を受けたのだ。


僕の胸には野心が燃えていた。「宇宙牛丼」の人工肉を加えたまま顔を上げると、ロンロンもまたにやりと笑う。僕と同じことを考えているのだ。


「それで決まりね。」


「S屋宇宙支店1号店」の玄関より、威勢良く飛び出す。すると、後を追うようにバイトの女子高生が慌てて声を荒げる。


「ちょっと、お客さん、お勘定!!」

「すまない、オヤジのツケで頼む!」


バックミラー越しに困ったバイトの女の子が狼狽するのを伺いつつ、僕はオヤジが設計し、組み立てあげた滑空二輪「セラーム」の、ニトロと書かれた赤いワイヤーの先を引っ張り上げる。すると、車体は緑の蛍光を増し、二人を載せて滑らかに浮かんだ。


「オヤジがいつも言ってる。彼のメカには心臓があって、エンジン音はその鼓動なんだって。」

土ぼこりが舞い上がる。

「そんなレトリックはいいから、行くわよ!」


アクセルを回すと反応良く前進する。ビル街を貫く高架の道は乾燥していた。

そして至るは僕らのすみかがある区域、そこには移民船団に宿り木のようにへばりついた、荒廃した瓦礫の街。その一角にある廃墟ビルを駆け上がり、隣のビルの屋上へと踊り出れば、熱い孤独な太陽に照らされた、僕の真っ赤なバトロイドが空翔ける時を待ちわびている。


布を被った、腕、足、頭。その、生きたように眠る金属塊は、有り余るパワーを秘めて、鼓膜に遠く響く襲撃警鐘を聞いているのだろう。


「遅かったな、待ちわびたぞ。」

黒い油まみれのオヤジがにこりと歯の白を見せる。

「いつでもオッケーよ!」

ロンロンが親指を立てる。


僕は見上げる青を遠く見て、その先に眠る宇宙を感じていた。

そして、つぶやくのは、、、


コスモ・ドライブ!



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